第491回「核燃サイクルの愚図ぶり、官民ともあんまりだ」

 核燃体制見直し作業部会で日本原燃へ批判集中と報じられました。十年前に言われるべき指摘がやっと記事になり、新規制基準審査で来春の工場完成が絶望的になっているのを見ると、この愚図ぶりは官民とも酷すぎます。経済産業省の見直しも核燃料サイクルそのものに触れる気はなく、電力自由化で電力業界のお荷物になる機運を前にして、国策として関与する権限を明確にしたいだけのよう。核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)完成予定は1997年だったのに、20年も遅れる不始末の責任を取る人が誰もいない不思議です。この工場は運転していないのに年間維持費が1100億円も要るバケモノです。

 東京新聞の《日本原燃の経営感覚に批判集中 核燃体制見直し議論で》はこう伝えました。

 《原燃の再処理工場は相次ぐトラブルなどで運転開始を22回延期し、当初6900億円と想定した建設費も2兆円を超えている。この日の会合で原燃は運転開始が遅れている原因として、事業の特殊性や技術確立の困難さを繰り返し強調した。作業部会の委員の一人は「民間企業の感覚では信じられない。経営や目標設定で外部組織の関与、監視が必要だ」と指摘した》

 7月にあった第69回核燃料施設等の新規制基準適合性に係る審査会合の議事録が公開されました。昨年10月に書いた第448回「死に体の核燃料再処理、政府の救済人事も無理か」で「重大事故についての項目が多数あるのにほとんど対応できていない点が目につきます」と指摘しました。そこからどれほど進んだか、サイクル推進派から言わば救済役として原子力規制委に起用された田中知委員のまとめ発言を読むと、審査のために来年3月まで完工を延期したのも無意味と知れます。

 《個別の重大事故については本日で一通り説明を受け、あとは個別の重大事故以外の放射性物質の漏えいによる重大事故が残っている状況ではありますが、いずれの事故においても、まだ入り口の段階であって、それぞれが単独で発生した場合の範囲内にとどまっているものもありまして、重大事故の重畳など、まだ論点が残っているかと思いますので、その辺についても十分検討の上、説明いただけたらと思います》

 大きく5つの分野がある重大事故をようやく並べ終わった段階です。その対策について原子力規制委からの疑問に答え切れていない項目も多数ありますし、「重大事故の重畳」と言われたら日本原燃の技術的想像力が対応できるか、おそらく無理でしょう。例えば当日の審査でこんな指摘が出ていますから、新規制基準をパスするのは至難です。

 《もう少し先の議論をすると、重大事故が起こっているときに、多分、通常運転時と違ったいろいろな移送が行われたりすると。そういうときの誤操作も含めて、非常に混乱している中、確実な操作ができるようになっているのかというところの検討も含めた、我々は誤移送とか、そういったものをお尋ねしているという意味で、かなり幅広の通常運転時以外の重大事故が起こっていて、いろいろなことが各所でやられている中の状態も含めた誤移送の可能性というのが、設計基準を超えた世界で起こる可能性を御質問している》

 核燃料再処理工場の年間維持費が1100億円は、2012年に東京新聞が発掘した実態です。『動かぬ再処理工場に年維持費1100億円:東京新聞』で紹介しました。核燃サイクルは原爆の潜在的保有能力を裏付けており、いくらお金がかかっても目をつぶるのが政府の方針と推察されています。