第535回「文科省主導の大学改革が国立大の首を絞める」

 国立大に対する運営費交付金の継続的な削減が論文数・重要論文数の減少を招いている現状に、文科省主導の大学改革が決定的な打撃を与えそうです。新潟大教授が「年間研究費が3万円に激減」とブログで明かしました。独立法人化以前には研究費が40万円あり、以後やせ細りながらも昨年は10万円だったのに事務経費まで含めてこの金額では何も出来ません。毎年1%の運営費交付金削減は今年に限り見送られており、これほどの経費削減は文科省主導の改革で新学部創設が図られるからでしょう。地方の国立大は旧帝大などのように科研費が獲得できないでも、やり繰りして研究論文を生産してきたのですが、最終的に首が絞められたと言わざるを得ません。

 新潟大の三浦淳教授(ドイツ文学)が《新潟大学の話題/ ブラック化する新潟大学(その17)・・・激減する研究費と羊のごとき教員たち》でこう明かしています。

 《人文学部では教員一人あたりの研究費は3万円となった。前年度も前々年度比で激減していたわけだけど、2年続けての激減である。おさらいをすると、私が大学から1年間にもらう研究費は以下のように変遷してきている。

 2003年度まで   研究費約40万円 + 出張旅費6万円
 2004年度独法化  出張旅費を含めた研究教育費が20万円
 2015年度     同上 10万円
 2016年度     同上 3万円

 理学部の先生にうかがったところでは、理学部の教員も一人3万円だそうである。これも以前に書いたことだけど、この研究教育費には研究室で使うパソコン・プリンターのインク代など、事務的な経費も含まれている。如何ともしがたい額だ。万事に自腹を切らないとやっていけない状態になっている》

 財政難の新潟大は今年から2年間、退職する教員の補充を止めると公表しています。ところが、文科省が音頭を取っている理工系重視・社会的要請の高い分野に転換の大学改革で「創生学部」を新設すると発表しました。教育学部の文系学科を廃止し、新学部の「専任教員は、学内で再配置した10人と新規採用の8人で構成」と説明されているそうです。財政難の下での無理無茶が研究費激減を招いたと考えられます。新潟大に限った話ではなく、文科省から圧力を受けた他の国立大も一斉に学部の新設・改組に走っています。

 2年前の第435回「2016年に国立大の研究崩壊へ引き金が引かれる」、さらに1年前の第488回「国立大の2016年研究崩壊に在京メディア無理解」で心配した事態が極端な形で具現化してきました。ただでさえ疲弊しきった研究の現場には壊滅的な打撃です。  この問題を継続的に追っていらっしゃる豊田長康さんが書いている《応用物理学会にて「日本の大学の研究競争力はなぜ弱くなったのか?」》からグラフ「人口あたり高等教育機関への公的研究資金の推移」を引用しました。「日本の高等教育機関への公的研究資金(人口あたり)は停滞し、多くの先進国との差が開いた」とのコメントが付けられています。日本より下はチェコ、スペインだけ。人口当り論文数で世界37位まで落ちたのも当然と思わせられるグラフです。  理系論文について先進国で特異な落ち込みは知られていますが文系はどうでしょうか。文系の論文順位が出ている「主要14か国の分野別論文数の順位(その2)」も引用します。「経営・経済学や社会学でも韓国・台湾が上」とコメントされているように、人口が半分以下の韓国、5分の1の台湾に文系の研究論文数で劣っているのです。地方国立大では出張費も出ないところが多々あると聞きますから不思議ではありません。2004年の独立法人化から毎年、運営費交付金を削り続けた結果に対して文科省は危機感を見せません。世界と競える有力大学があれば良いとお考えのようですが、世界の大学ランキングから日本勢は姿を消しつつあります。