第545回「日本以上に非婚化・少子化が進むアジア工業国群」

 貧乏人の子だくさんを続けるアフリカと一線を画し工業化を成し遂げたアジアは、追っていた日本以上の非婚化・少子化を抱え込みました。この秋学期に関西学院大で講義して国際学部生なのに知らないのに驚きました。BRICsは知っているのに、20世紀に目覚ましかった「アジア四小龍」を知らない学生が大半です。先進国化した大龍、日本を追った香港、シンガポール、韓国、台湾のことであり、今やタイやマレーシア、ベトナムなども工業化を進めています。人口問題はかなりの時間が経過しないと表面化しません。先日リリースした第544回「東アジア諸国の生産年齢人口が減少に転じる」はその非婚化・少子化の現れであり、講義で使った資料で諸国事情を解説しておきます。  アジア諸国での非婚化がどう進んだか分かる一覧表をネット上で見つけました。各国女性「25-29歳」と「30-34歳」の未婚率を1990年、2000年、2010年で推移が見えます。脚注にあるように様々なデータを参照しなければ出来ない労作です。『図解でわかる ざっくりASEAN: 一体化を強める東南アジア諸国の“今”を知る』(秀和システム刊)から「図表2 ASEANなどの女性の未婚率」を引用です。台湾のデータが欠けていたので、別の資料から2009年分だけ補い、空欄になっていたマレーシアのところに挿入しました。

 国別に歩みが随分と違っています。シンガポールや香港は30-34歳層の未婚率が早くから2割前後に達していたのに韓国は20年間で急上昇しました。2010年前後の30-34歳未婚率は、アジア四小龍で香港36%、台湾35.9%、韓国29%、シンガポール25%であり日本34%を凌ぐほどです。タイではアジア四小龍を追うように未婚が増えていますが、インドネシアは一桁のままです。ベトナムも未婚率が高まっていません。インドネシア6%やベトナム8%の一桁状態は日本の1980年前後の姿です。

 この結果、2011年における合計特殊出生率は日本1.39に対してシンガポール1.24、韓国1.23、台湾1.16、香港1.09に低下、一人っ子政策に加えて工業化が進んだ中国・上海は0.89でした。人口を維持できる出生率を人口置換水準と呼び、若年死亡率で変動します。現在の日本の人口置換水準は「2.07」であり、衛生状態を考慮すると大雑把に「2.1」あれば長期的にその国の人口を保てると考えて下さい。アジア四小龍は遥かに下回っていますから急激な高齢化が起きつつあります。タイもそれを追います。

 そこでは生産年齢人口が減り、現役世代が支えなければならない高齢者人口が急増します。第544回「東アジア諸国の生産年齢人口が減少に転じる」に掲げた「アジアと欧米の老年人口指数推移」グラフはまさにそれを表しています。アジアでは欧米のような婚外子があまり存在せず、子育てが共稼ぎ家庭でも女性側に大きな負担になります。工業化で社会進出した女性が非婚化すれば少子化は必然です。一方で工業化できていないアフリカ諸国は人口増加を続け、今は2億人もいないナイジェリアが2050年には4億人を超えて米国を抜きインド、中国に次ぎます。

 アジア四小龍は1人当たりGDPが2万ドルを超えていて、それなりに富んだ社会を築いていますが、1万ドルにも達していない中国は生産年齢人口減少でアルゼンチンなどの挫折を招いた「中所得国の罠」に陥りつつあります。生産年齢人口減を補える技術革新のメドは立っていません。老いを支える年金制度にも問題があり、第482回「国家のエゴが歪ませた中国年金制度は大火薬庫」で「中国メディアの報道では2030年ごろに制度崩壊しかねないとされますが、現状でもボロボロと申し上げて良いでしょう。このままなら都市部労働者の半分は無年金で老後を迎えるしかありませんし、農村部で新たに始まった年金制度は月額で千円もなく社会保障になりません」と指摘しました。