第550回「中国のやり過ぎ韓国いじめで反中が起きないなら」

 作用があれば反作用がある――この道理を習近平政権になってから中国が無視するようになりました。韓国観光禁止措置は4〜5百万人も中国人客数を減らしますが、売国の汚名を着てまで中国に屈するはずがありません。反日運動には熱心な韓国の人たちが近年、中国に近寄るのはある意味で不思議でした。しかし、朝鮮戦争で人民解放軍の義勇軍がほぼ韓国全土を蹂躙した事実を思い出して反中機運に目覚めざるをえないはずです。THAAD(高高度迎撃ミサイル)の配備をめぐって、中国が比較的ソフトな韓国企業締め付けをしている間は左派から配備異議を唱えやすかったでしょうが、韓国観光禁止措置の後も続ければ腰抜けとみなされます。

 報道によれば今回、中国政府が2日に口頭で伝えた禁止措置は、中国国内の旅行会社による韓国への団体旅行と個人旅行のいずれも取り扱いを禁ずるものです。個人が航空会社から直接、チケットを買う旅行は出来ます。韓国聯合ニュースによると、昨年、韓国を訪れた外国人は1720万人、この内で中国人が806万人であり、禁止措置の影響で50〜60%減ると見れば403〜483万人にも及ぶとされています。外国人向け免税店の売上だけで年間4000億円以上が失われる可能性があるそうです。

 2011年に尖閣諸島の国有化を契機に反日騒ぎが中国で起き、今回の様な日本観光禁止措置が発動されたといいます。2010年の中国人客141万人が2011年には104万人に減りましたが、今回の韓国にもたらされる影響に比べるべくもありません。第320回「中国政府主導だった反日デモと愛国教育の正体」で当時の反日デモの内幕を扱いました。2013年の習近平政権登場以前で、いびつであっても現在のゴリ押しよりは可愛らしかったものです。

 禁止措置の前日付けで左派系のハンギョレ新聞が《[コラム] 独立運動家がTHAADを見たならば》を社説に準じた扱いで掲載しています。《今や保守勢力はTHAAD配備反対を「中国の介入」フレームに追い込んで宣伝し、「THAADが本当に私たちに必要なのか」という正当な問題提起を非愛国、従北、韓米同盟破壊に追い立ててしまおうとしている。「THAADが果たして韓国の安保に必要なのか」を確かめてみる社会的議論の過程は失踪してしまった。外交・安保政策は、朝鮮半島と北東アジアの平和とより良い暮らしのためでなければならないという基本も忘却された》

 左派系の大統領候補者を含めて、こうした議論が出来る前提として、これまでの中国のTHAAD配備での企業嫌がらせは安全保障問題への国民感情の発露との建前を取ってきました。THAADに基地用地を提供するロッテの商品は買いたくない国民感情があると言ってきました。しかし、韓国観光禁止措置は「外部に漏らすな」と旅行会社に口止めしたとは言え、中国政府が前面に出ました。隠然とした嫌がらせとは次元が違い、国と国の対決になります。トウ小平が唱えた「爪を隠して時期を待つ」外交態度から逸脱しています。

 保守系の朝鮮日報は《THAAD:中国政府が「観光報復」、団体客の韓国渡航を全面禁止》で《観光業界関係者は「特定国に対する観光禁止措置は尖閣諸島の領有権紛争当時の日本、反中傾向の蔡英文政権が発足した台湾に対して下されたレベルの措置だ」と述べた。中国がTHAAD配備に対する報復のレベルを一気に引き上げた格好だ》と伝えています。これで反中にならないなら清朝時代の朝貢国に自らを貶める愚行です。