第579回「二刀流オータニのメジャー進化を見届けよう」

 大リーグの打者が速球に負けまいとスイングすると少し遅れて高速スプリットがミットに入る――大谷2回目の登板で築いた三振の山はほぼこう。投手と打者の二刀流で好成績を上げ、更に進化しており今後が楽しみです。2014年にメジャーデビューして開幕から連勝を重ねたヤンキース・田中の武器も魔球「スプリット」であり、第426回「分かっていて打てない田中将の魔球を科学する」で配球の詳細を見ながら分析しました。しかし、田中の直球が時速150キロ、スプリットが140キロ程度なのに対して、大谷の直球は160キロに達し、スプリットが145キロにもなるのですから、打者にとってとんでもない脅威です。  初登板の2日に3失点を記録したアスレチックスと、9日に再びの顔合わせが第2登板でした。相手打者が大谷の球に慣れるから不利どころか、12奪三振で無失点、完全試合もあるかと思わせた出来の秘密は上の投球内容比較でよく見えます。「baseballsavant.mlb.com」の「3D Pitch Visualization」から引用しています。高目に球が浮き気味の初登板に比べて、2回目はストライクゾーンに集まっています。高速スプリットは低目に落ちているものの、打者の目には直球と見紛う性質の球です。

 《大谷翔平の衝撃の完全未遂試合の裏に隠された綿密な工夫とは?》が快投の秘密をこう指摘しています。初登板よりも球速差を付ける進化をしていました。

 《結論から言えば、左打者には1球もスライダーを投げなかった。4シーム(直球)とスプリット以外は、カーブを2球投げただけ。それでも相手を翻弄したのは、スプリットで球速差をつけたからではないか。つまり、同一球種で巧みに緩急をつけたのである》《スプリットの球速を変えたのは右打者に対しても同様で、5回にはクリス・デービスと対戦すると、初球から3球連続でスプリットを投げたが、83(約134キロ)、87(約140キロ)、89マイル(約143キロ)と徐々に球速を上げた》《さらにこの日は、4シームでも球速差をつけており、2つの球種が3つにも4つにも見えたのではないか》

 大谷の高速スプリットは直球と極めて似た軌跡をたどります。2000年の第92回「新・日本人大リーガーへの科学的頌歌」で打者の生理として「バットスイング開始からインパクトまでの時間は0.17〜0.2secは要する。したがって、36m/s(130Km/h)以上のスピードのボールであれば、投手板とホームベースの中間地点にボールが到達した時点でスイングを開始しなければならない」と説明しました。スプリットか直球か、判断しかねても早くバットを振り始めなければ間に合わない、そして振りに行くとスプリットがホームベース近くで鋭く落ちてしまうから、冒頭のように三振の山なのです。

 7回に「完全試合」を砕かれたセミエンにはノーストライク・ツーボールとカウントを悪くしてしまい、狙っていた直球を投げて安打にされてしまいました。  打者としての大谷は11日現在で7試合、19打席7安打、3本塁打、7打点、打率3割6分8厘です。上は本塁打、シングルヒット、討ち取られた当たりの分布図です。スタジアムはホーム球場のものを使っています。ホームランは狙っていないそうですが、137メートル飛んだ3号がやはり目を引きます。センター返しで伸び伸びと打っている感じがしています。これからは内角を厳しく攻められる場面が増えそうですが、この分布図がどのように埋まっていくのか、期待を持って見て行きましょう。