第583回「米国は手を汚さずダーティ北支援は韓国に任せた」

 米朝首脳会談まで秒読み段階に至って双方の構えがほぼ見えてきました。米国は体制保証が人権抑圧を伴うと知り韓国に任せる便法に切り替え、北朝鮮は相変わらず非核化ご褒美の先渡しをねだる甘い姿勢を変えません。核弾頭ひとつ作るのに必要なプルトニウムはオレンジ1個くらいの大きさしかありませんからどこにでも隠せます。3月に書いた第576回「非核化査察団に移動・行動の自由がポイント」で指摘したような問題意識に北朝鮮はまだ想到していない観があり、米国の目指す「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID)」はとても多難です。

 9日付中央日報日本語版の《トランプ大統領「文大統領・安倍首相が大いに対北朝鮮支援をすると…」》は終戦宣言の可能性が高まっている点に触れています。

 《「トランプ大統領の発言をみると、北の初期の措置要求に対して米国が体制保証の趣旨を入れた終戦宣言を通じて誠意を示す可能性がある」と述べた。北朝鮮事情に詳しい情報筋もこの日、中央SUNDAYに「従来の核・経済並進路線を核放棄・経済建設路線に変えようとする金委員長の立場では、米国との終戦宣言は住民を説得できる非常に魅力的なカード」と説明した》

 トランプ大統領はこれで米国内向けにも良い格好が出来ます。また、対北朝鮮経済支援カードとして従来のような米民間資本による支援を口にせず、《「安倍首相と文在寅(ムン・ジェイン)大統領は私に対北朝鮮経済支援を大いに(tremendously)すると強く話した」とし「日本も中国も北朝鮮を経済的に支援するはずであり、確実に韓国はすでにそのような意図を発表した」と述べた》としました。第582回「北朝鮮が米に苛立つのは体制保証への無理解か」で指摘した体制保証に逆効果な支援は止めて、人権抑圧を助長するようなダーティ経済支援は韓国に任せるつもりです。開城工業団地のように韓国企業から払われた労働者賃金の大部分を国が取り上げるやり方です。

 北に親近感がある韓国ムン政権はヤル気満々ですが、もちろん日本は乗れません。日韓正常化の際に朝鮮全体を代表と憲法で規定する韓国との間で過去の賠償問題は片付けており、北朝鮮を支援するとすれば通常の途上国援助と同じように民生に役立つクリーンな援助しかありえません。

 一方、北朝鮮は実行行為以前の支援を引き出す従来の姿勢を変えません。《(朝鮮日報日本語版) 米朝首脳会談:北朝鮮、米国に医療・食糧支援求める》はこう報じました。

 《史上初の米朝首脳会談(12日)に向け6日まで板門店で行われた実務者協議において、北朝鮮側は米国に医療分野と農業分野での支援を求めていたことが8日までにわかった。ある外交筋は8日「板門店での実務者協議の際、北朝鮮は医療支援と農業支援を求めたと聞いている」とした上で「非核化に拒否感を抱く強硬派を説得するには、米国による誠意ある対応が事前に必要という趣旨だったようだ」と伝えた》

 軍の最高幹部を金正恩国務委員長に近い若手に入れ替え、抵抗勢力を排除していると伝えられますが、未だに非核化措置そのものに対する北朝鮮の表明はありません。上記の中央日報日本語版が《米朝協議に詳しい外交筋は「通常、首脳会談は95%の事前合意と5%の首脳間の談判が一般的だが、今回は50%対50%程度になるかもしれない」と交渉の雰囲気を伝えた》と指摘しています。通常のシナリオが整っている首脳会談に比べれば五里霧中そのものです。