[時評]サムライブルー、純な少年サッカーが立派な一人前に

 代表史上最強と言われながらも惨敗だったブラジルW杯から4年の辛酸を経て、Japanサムライブルーが世界のサッカー社会で立派な一人前になる日がついに来ました。ロシアW杯決勝トーナメントでのベルギー戦はプレミアリーグオールスターズのような超豪華ベルギー代表に、あまりに純でも強靭な日本式少年サッカーがぶつかる試合でした。スコア2対2、延長戦入りまで秒読み段階で得た最後のコーナーキックで敢えて時間を使うことすら考慮せず、勝つために蹴りに行き、敵の10秒間カンター攻撃を食らい破れました。

 スポーツ報知の《日本―ベルギー戦を世界が称賛…英BBC局「マジカルな試合」》は《英BBC局は「マジカルな試合」と表現。同局はポーランド戦終盤の日本のボール回しを酷評していたが、イングランド代表以上の“プレミアリーグオールスター”という顔ぶれの優勝候補を追い込んだ日本の奮闘を「なんという試合。アメージングな逆転。アメージングな決着。しかし日本のハートブレイク」と表現した》と伝えました。

 しかし、最後のシーンはフットボールチャンネルの《名将カペッロ、3失点目に繋がった本田圭佑のCKを糾弾「首根っこ掴んで怒りたい」【ロシアW杯】》が報じたアドバイスが正解だったと思えます。

 《劇的な幕切れのきっかけとなった本田のコーナーキックの判断に、かつてミランやレアル・マドリー、イングランド代表などを率いた名将ファビオ・カペッロ氏が異論を唱えている。ワールドカップの試合を放送している伊『メディアセット』の討論番組にゲスト出演したカペッロ氏は「私が日本代表監督なら、本田の首根っこに掴みかかって怒っていただろう。もうすぐ94分(で延長戦間近だった)。本田がコーナーキックを蹴ると、そのままクルトワがキャッチして数秒後にはカウンターアタックに移った。彼はボールをキープしてホイッスルを待たなければならなかった。純粋に無責任だ」と本田のコーナーキックを糾弾した》

 それでも他には本田への批判の声があまり見えない状況です。試合全体が戦前の予想とかけ離れた日本の先制、追加点で2−0と優位で展開されたからでしょう。ファウルを痛がって転げ回るようなシーンもなく、純粋に勝負に徹した試合ぶり、その清々しさが駆け引きを忘れさせたと言えます。

 キックオフ前の掛け率はベルギーが日本の10倍と伝えられました。日本がこんなに戦うと全く思われていなかった中で、Number Webが《オシムはベルギー戦をどう見るか。〜「可能性は日本の方が少し高い」》で元日本代表監督イビチャ・オシム氏のあまりにも的確な6月30日付け予言を記録しています。

 《日本は何としてもベルギーに喰らいつく。日本にはそれが可能だ。そしてどちらにもチャンスはある。ともに高いクオリティを持っているからで、可能性は日本の方が少し高いと私は見ている。日本人の方が機動性が高く、小柄だが頑強でもあるからだ。どんな場面でも的確に位置をとり的確に対処することが日本人はできる。その点で日本に多少のアドバンテージがある》

 2日の試合はまさにこう展開しました。現在の実力が一夜で出来たものではなく、歴代監督と選手たちが作り上げた実力の素地が監督交代から2カ月でポテンシャルの井戸に落ち、自然熟成したのでしょう。少々、強引だった前監督のもとでは、こうした熟成は無理だったかも知れません。技術委員長として選手とのコミュニケーションが出来ていた西野朗監督ならではだったでしょう。

 フットボールゾーンウェブの《「とてもハイレベルだった」 敵将を唸らせるパフォーマンスを見せた日本の2選手は?》はロベルト・マルティネス監督が香川と乾を称賛と伝えています。

 《日本代表の10番を背負うMF香川真司は、4-2-3-1システムのトップ下でプレー。センス抜群のトラップと高速ターンでベルギーのプレッシングを受けてもボールをほとんど失わず。トリッキーなヒールパスや正確なロングパスでゲームを組み立て、後半7分にはMF乾貴士のゴールをアシストした。そして、乾は西野ジャパンで左サイドの仕掛け人として躍動し、同7分の無回転ゴラッソはベルギーの名手ティボー・クルトワですらセーブ不能な圧巻の一撃だった》

 今回ワールドカップの初戦、コロンビア戦の冒頭で香川がゴール前に出した大きな絶妙なパスに大迫が追い付いてシュート、キーパーが弾いたボールを香川が再びシュートし、相手ディフェンダーのハンド=レッドカード退場とペナルティキック先制を導いたのを思い出さずにいられません。ドイツ・ドルトムントで香川がしばしば見せているマジックが4年前には発揮されませんでした。

 先発メンバーは香川以下ほとんどが欧州組で構成されています。攻撃陣も防御陣も4年間、必ずしも順調と言えない、欧州のハイレベルな環境で苦労する日々が多かったと感じています。その中で一人ひとりが一人前に育ち、国際試合であったおっかなびっくりの危うさが抜けて、チームとしても一人前になる日がついに来ました。世界から堂々と認められて、日本サッカーの歴史が全く新しいページに入りました。これまではスペインのパスサッカーがお手本になってきましたが、お手本と一味違う新たな日本のひたむきな強靭さが加わりました。

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