第648回「見えたワクチン予防効果、2割接種でも好転」

 国内で新型コロナワクチン接種を1回でも受けた人が1000万人に達し、国民10%が目前です。集団免疫を獲得するには60%必要とも言われますが、ワクチン接種で先行する国々の経過を見れば2割くらいから予防効果が発揮されるように観察されます。札幌医大のフロンティア医学研究所ゲノム医科学部門が提供してくれているデータ分析サイトで次に掲げるグラフを作成しました。《人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【世界・国別】》が基本でしたが、ワクチン接種率の推移と比べられる世界でも珍しい機能が追加されています。接種率の推移グラフはあちこちのウェブで見受けるものの、次のグラフに比べて単純過ぎてあまり意味が無いと分かります。  接種を1回でも受けた全人口比「ワクチン部分接種率」と人口100万人あたりの過去1週間の新規患者数が、国別にどう推移したか折れ線グラフを色分けし示しています。接種5割を超えているのに効果が出ていないバーレーン、チリ、モンゴルはきちんと2回接種しても効果5割程度と言われる中国ワクチンに多くを頼っています。これに対して欧米や日本で接種の「ファイザー」「モデルナ」のワクチンは2回で95%前後、1回でも8割くらいの効果があるとされ、これなら部分接種率が意味を持ちます。中国産に頼る中東湾岸地域では3回目接種が始まりました。中国自身が欧米ワクチンの導入に動いています。ロシアワクチンは有効性が高いようですが、生産が非常に難しいようです。

 国内をワクチンの試験場のようにしてメーカーに協力し、いち早く集団免疫を獲得したとされるイスラエル、周到な準備で大規模接種を先行させた英国がよく引き合いに出されますが、ほかの諸国も接種率を上げて患者発生を抑えています。30%を超えると効果は明瞭ですし、20%のライン上で右下がりを示しているのがチェコ、ポーランド、英国であり、ドイツ、オランダ、ハンガリーは20%を超えてから下がり始めています。大人口の米国が下がり始めたのは40%超からです。日本と人口がほぼ同じメキシコは長い国境を接する米国から支援を受けて、20%を目前にして低い患者発生になっていて注目です。南米のブラジルとアルゼンチンは中国産に頼る部分が大きく横ばいです。

 日本の接種スピードの遅さは恥ずかしい限りながら、グラフにある通り人口あたりの新規患者発生が日本より少ない国は実は多くありません。それなのに第4波で重症病床ひっ迫に苦しんでいる日本。医療費圧縮を掲げて医師の数を増やさない、スタッフに余裕を持たない政策を志向してきた政府と、既得権を守るために医学部定員増に反対してきた医師会の責任である点は、この際、明確に申し上げます。政府発表の感染増減と病床不足に右往左往して、本質が指摘できない日本のマスメディアは恥を知るべきです。

 さて、国内の今後についてです。6月1日時点で480万人の医療関係者の1回目接種がほぼ終わり、3600万人いる65歳以上の高齢者1回目接種570万人、2回目までの終了は7月末目標です。現在は1回目接種が毎日40-50万人くらいで、6月下旬から職場や大学での接種が始まり、1日100万人接種体制が目指されています。部分接種率は6月末で20%を超えるでしょうし、7月下旬にオリンピック開幕を迎える前に30%に達する可能性が高いでしょう。国難と言える危機にもマニュアル対応しかしない官僚がもたらした日本のコロナワクチン接種の遅れ、ぎりぎりのところで間に合うかもしれません。

 医療の問題は今起きている事象だけ見ても理解できない厄介な面が多いです。1997年から続けている《「インターネットで読み解く!」医学・医療》は、医師不足で決定的な局面をとらえた2006年の《医療崩壊が産科から始まってしまった》、2007年の《勤務医は既に優良職業から脱落した?》をはじめとして医師と医療費の問題をずっと扱っています。新型コロナウイルス感染の世界的な動向についても第644回「新型コロナにアジア人は欧米より強いよう」などの記事を掲げています。

 【札幌医大サイトについて】2020年3月から人口100万人あたりの新型コロナウイルス感染者数・死者数推移のグラフ化に取り組んでいらっしゃいます。《人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【世界・国別】》が基本になるページです。様々な分析のボタンがあり、狙いを絞って展開できます。ワクチンとの関係を見ていく過程で《人口あたりの新型コロナウイルス感染者数・ワクチン接種率の推移【世界・国別】》に行き当たりました。掲載したグラフは、ここからさらに取捨選択して希望するデータを見やすくしました。