第668回「福島原発事故2判決に死角、大改造なしで防げた」

 
 2011年の福島原発事故で6月と7月に大きな判決が言い渡されました。責任問題では2002年に国が公表した地震予測「長期評価」、これをもとにした東電子会社による2008年の最大15.7メートルの津波予測にどう対応したかが争点でした。6月の最高裁判決は予測に従って防潮堤を造っても津波は巨大で役に立たず、国に責任は認められないとしました。7月の東京地裁判決は建屋に水が侵入しないようにする水密化を2年程度かけて実施していれば防げたとして、東電旧経営陣4人に計13兆円余の賠償を命じました。しかし、事故の経緯を詳しく見ればそのような大改造をしなくとも、非常用ディーゼル発電機や電源盤のの増設で炉心溶融事故は防げたのです。1号機から6号機まで原発6基の設備と事故推移を原子力安全・保安院などの資料からまとめて一覧図にしました。  炉心溶融から水素爆発を起こした1号機から3号機までに目が向きがちですが、福島第一原発には6基の原子炉があり、5号機と6号機は無傷で安全な冷温停止状態に導けました。その功績は6号機の非常用ディーゼル発電機1基だけが動いた点に帰せられます。動作停止した他の12基の非常用ディーゼル発電機と違って海水で熱を冷やさない空冷式だったために津波の打撃が無かったのです。おまけに設置場所が1階で、他のように地下設置で水没することもありませんでした。定期点検中とはいえ燃料棒から出る崩壊熱は大きく、冷やし続けなければ炉心溶融に至ります。隣の5号機は6号機から電力融通を受けて共に乗り切りました。  環境省作成の事故見取り図に加工して掲げました。ほとんどの非常用ディーゼル発電機や電源盤が地下設置になっており、津波による浸水で機能を失いました。地下化はもともと米国でハリケーン対策として設計されたもので、日本での津波対策は考慮されていませんでした。地上、あるいは建屋屋上に空冷式の非常用ディーゼル発電機がもう2、3基設置されていれば全電源喪失事故にならなかったと指摘できます。

 電源盤が地下にある欠陥は発電機地下設置より罪が重いとも言えます。2011年の事故発生当日、応急対策で電源車が福島第一原発に向かいました。「無事に到着すれば全電源喪失でも当座の電力は賄える」と伝えるニュースを聞いて眠ったのですが、到着してみれば電源車のケーブルを接続する電源盤が浸水していて使い物になりません。早い段階で1号機に電気が使えたら爆発事故まで進まなかったはずです。1号機の爆発が2号機、3号機の事故進展に大きく影響しました。

 津波による浸水を考える想像力があれば切り替え可能な電源盤を地上に持っておく、海水冷却でない空冷式発電機をいくつか予備で持つ――現在進んでいる対策例から考えると、せいぜい数十億円程度の費用で実現可能です。東京電力本社と原子力安全・保安院の安全性への消極性、不作為が巨大なツケになって返ってきました。2011年11月の第288回「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」あたりが事故を振り返る入り口になると思います。

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