第675回「WBC準決勝で発揮されたYouTube素人報道力」

 
 日本代表14年ぶりの世界一で幕を閉じたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)のわくわく感がまだ消えない感じです。同時に野球報道に携わった者として見なければならぬ場面を見ていない不足感が残っていました。メキシコとの準決勝9回サヨナラのテレビ中継は一塁から周東佑京選手が長駆ホームインしただけを見せ、途中いったい何があったのか、そして日本の野球報道なら必須である本塁裏側からの網羅的な展望映像が無かったのです。YouTubeで提供されている素人による試合映像が「4K」レベルの高精細であることに気付いて探したところ、次の決定的な写真を切り出せました。  元のユーチューブ動画は《『永久保存版』WBC2023準決勝 メキシコvs日本  村神様 9回裏逆転サヨナラ2ベースの瞬間》で、本塁、二塁、そして打球が直撃したフェンスまで見通しています。芸術的なスライディングで本塁に滑り込む周東選手、二塁を過ぎて小躍りする殊勲の村上宗隆選手。一方、メキシコ側は外野手から内野手を中継したバックホームは大きく三塁方向にそれてしまい、投手と捕手は呆然としている様子、一塁手を含め肩を落としている観があります。夏の甲子園大会取材束ね役を経験した者として、勝者と敗者を対比する写真は是非とも欲しいのです。

 ここに至るまでの経過は別の動画で確認できます。一塁側からは《【現地映像】WBC 準決勝 村上サヨナラ 神弾道!フルシーン》が、三塁側からは《【現地映像】2023 WBC準決勝 村神様サヨナラタイムリー》がきれいです。

 周東選手は打球を横から見て「上がる角度と球速から抜けるのは間違いない」と確信してスタートを切りました。二塁に達した時点では中堅手はまだフェンスに向かって走っていました。球を拾って中継のために内野にボールを投げた時点で、周東選手は三塁を踏もうとしていました。通常の飛球タッチアップでも本塁で刺すのは苦しいタイミングであり、まして既にスピードに乗った好走者には全く無理でした。スタートの好判断が絶大でした。

 メキシコの好打好守備で追撃に苦しんだ日本が最後にひっくり返した劇的な一戦は、直ちにWBC史上トップの好ゲームに認定されました。米国を破った決勝戦は第5位の認定です。MLBサイトにある《WBC史上トップ10ゲーム》を掲げます。

 1) 日本がメキシコに 6-5 で勝利 (2023準決勝)
 2) 日本が韓国を10回 5-3 で破る (2009決勝)
 3) 米国がドミニカ共和国を 6-3 で破る (2017第2ラウンド)
 4) 米国がプエルトリコを 6-5 で破る (2009第2ラウンド)
 5) 日本が米国を 3-2 で破る (2023決勝)
 6) オランダがドミニカを11回 2-1 で破る (2009第1ラウンド)
 7) イスラエルが韓国を 10回 2-1 で下す (2017第1ラウンド)
 8) プエルトリコがオランダを11回 4-3 で破る(2017準決勝)
 9) メキシコがプエルトリコに 5-4 で勝利 (2023準々決勝)
 10) ドミニカが米国に 7-5 で勝利 (2017第1ラウンド)

 イチローが10回に決勝打を放った2009年の決勝はこれまで第1位でしたが第2位に。私の《WBC連覇讃:米国の見方とイチロー敬遠なし [BM時評]》で当時の米国側の日本野球評価を紹介しました。《米国チーム主将ジーター(ヤンキース)の発言はこうでした。「日本はひどい。みんな足が速いんだ」とジーター感嘆。「基礎がしっかりしていて、三振しないし、状況に応じた打撃をする。投手も良かった」》

 当時は「スモール・ベースボール」と称された特質が大谷翔平選手の意表を突く準々決勝イタリア戦セイフティーバントなどに健在でありつつ、今回はメジャー選手にも負けないパワフルさが加わりました。打撃では今年からメジャー入りの吉田正尚選手が13打点をあげて記録を更新しましたし、欲しいところで本塁打や二塁打が出ました。それ以上に若い投手陣がメジャーの大打者たちを力でねじ伏せました。決勝戦後に「わが打線を2点で抑えるなんて」と米国チーム監督を嘆かせました。