団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第56回「お酒の消費に起きている地殻変動」 (98/08/27)


 8月に入って発表された酒類の最新出荷統計には、目を見張らせるものがある。数年来のブームだったワインが本当にブレイクして、今年上半期は前年同期比で何と倍増した。輸入ワインは3倍増だ。発泡酒が伸びた話題もあるが、ビールの1−7月期の累計で、ついにアサヒがキリンを上回った。発泡酒を加えるとキリンが上だが、その差は小さい。この連載第3回「ビール戦争・地ビール・自ビール」からウオッチしているビールの動きもさることながら、酒類全体に視野を広げてお酒の飲まれ方の変動を見つめたい。

◆ワインの激増は酒類全体に響いている

 主要酒類の上半期出荷の数字を見たい。日経新聞には出荷量と前年同期比の増減率の一覧しかなかったが、増減量を表計算ソフトに入れて追加してみた。こうすると、種類ごとの出入りの意味がつかみやすい。

   上半期出荷量(kl)増減(%)増減(kl)
ビール2,933,619-7.2-227,608
発泡酒388,846109.6203,328
清酒492,203-5.2-26,998
焼酎甲類173,482-11.3-22,101
焼酎乙類150,320-5.2-8,245
国産ワイン69,00050.023,000
輸入ワイン139,745219.696,020
国産ウイスキー類61,31111.26,175
輸入ウイスキー9,265-13.7-1,471

 安い発泡酒の増加はビールの市場を分け合っているだけに過ぎないし、清酒の減少分は国産ワインの増加でほぼ打ち消される。税金が安くなったウイスキーが増えた分以上に、税金が高くなった焼酎は大きく目減りしている。アルコール度数を考えに入れても、輸入ワインの劇的な増加分は、他の酒類をまとめた減り分を上回る勢いだ。ここに現れた一連の動きが、いわゆる「酒飲み」たちの懐具合だけから生まれている現象でないことは明らかだろう。

 ニッカウヰスキ−が毎年秋に実施している「大学生の飲酒実態調査」がニュースリリースで読める。「普段、酒を飲む」比率は今回、女子が95.9%と、男子の94.8%を初めて上回った。この数字は新聞発表から引用したものだが、ニュースリリースでは酒に対する思い入れの項が特に興味深い。「『味が分かるようになりたい』『うんちくが語れるようになりたい』と思う酒として『ワイン』『カクテル』『清酒』『ウイスキ−』『ブランデ−』が挙げられています。なかでも女子学生の『味が分かるようになりたい』酒はワインに集中しています。ワインは『強くなりたい』とともにすべての項目でトップにあがっており、関心の高さが窺えます」という。

 「各国別人口1人当たりのアルコール飲料消費数量の推移」は純アルコールに換算した数字で、日本は95年に世界25位、6.6リットル。ルクセンブルグ、フランス、ポルトガルが11リットルを超えていて、先進国全体に漸減傾向にある。逆に、日本では女性や若い層を中心にアルコール消費は増えているとされる。

 94年から95年にかけて、500円以下の格安ワインが流行って、今回のワインブームは立ち上がった。それにチリなどの南米、東欧、南アフリカからのワインも加わって幅が広いものになった。さらに「赤ワイン市場の拡大」にある「赤ワインに動脈硬化予防効果あり」と「赤ワインに脂肪吸収抑制効果あり」との研究発表が、健康に敏感な女性を中心に消費者を刺激している。「ワイン購入単価の上昇 」が紹介するように、デパートでももの凄い品揃えになっている。私は大阪・梅田の3つのデパートをのぞきながら出勤する事が多く、ウイスキーなどは、もはや片隅に追いやられている。

 インターネット上でワインをテイストする企画があちこちに出来ている。1本3000円未満を対象にした「安ワイン道場」といったホームページが現れ、そこに取り上げられた銘柄の豊富さ、値段の下がり方は以前のことを思うと驚異的だ。「盛況示すワインスクール」で現場の動きを知るもよい。サントリーによる消費者調査もある。

◆清酒に失地回復の機会はあるか

 ワインブーム、飲料の多様化で、最も割を食って押しまくられている観がある清酒業界も新しい動きを見せている。「日本酒輸出協会」の設立だ。「日本酒輸出協会の海外ルート開発レポート」にいきさつが詳しい。例えば米国では安い米国産米を利用して清酒の現地生産も始めているのだが、日本酒はホットコーヒーのような温度で飲まれる習慣が抜けない。あれは日本酒ではない。文化としての日本酒を広めたいという。

 清酒の最大手、月桂冠のトップ交代をうけた、京都新聞によるインタビュー「質の高い会社目指す」が、この業界の現状を物語る。「国内での清酒のルート別売上高は昨年度、酒販店46%に対し、DS17%、CVS15%、スーパー5%となっている。CVSやスーパーでの売上高は10年後には少なくとも倍に伸びるだろう。商品開発は当面、CVS向けを最優先し、少量パック・瓶のラインナップを充実させる。その一方で成長が見込めない商品は、勇気を持ってカットし、効率を高めたい」と若い社長は語る。清酒の流通は戦時中の配給の影響が長く続き、業界の活力を縛ってきた。CVS(コンビニ)で売られるようになって初めて、消費者に直結した商品に生まれ変わる機会を得るのだろう。

 ワイン、清酒、ビールは原料のブドウ、米、麦の差以外に、どう違うのか、説明できる方は意外に少ないと思う。「三大醸造法(発酵方法による分類)」が適切な説明で、これだけでも知っていると、ちょっとした蘊蓄が傾けられる。

 「ワインなどの果実酒は、原料そのものに糖分が合まれているので、酵母を加えるだけで発酵させることができます。ところが、日本酒やビールの原料は、米や麦といったデンプンなので、麹(こうじ)の酵素の働きにより糖分に変えてから酵母によって発酵させなければなりません」「ビールは、デンプンを糖分に変える工程と、その糖分を発酵させる工程を別々に行いますが、日本酒は、この工程を同時に進行させます。それが『並行複発酵』と呼ばれる醸造法で、日本酒が持つ、まろやかな深い味わいをつくりだす」

 この効率の良い発酵法から、醸造酒としては異例に高いアルコール度数16度の日本酒が生まれるのだが、この度数はワインのようにぐいっと飲むには高すぎる。一方、フルーティな芳香がある吟醸酒は偶然生まれるものとして別格扱いされてきたが、酵母による低温発酵の条件が科学的に解明された現在、昔のように扱うのはおかしい。個人的には、フルーティな低アルコール清酒のようなものがあったらよいと思う。

◆ビール業界トップ交代にみる苦味戦略

 ブドウ果汁からだけ醸す白ワインと違って、赤ワインは皮も種もいっしょに発酵するので、タンニンによる独特の渋味が生まれる。この渋味がワイン消費のハードルになっていた。先に述べた健康志向から、渋くても飲みやすい品種が増えていることも加わって、あっさりと壁は崩れたようだ。

 ワインの渋味に対応するものが、ビールの苦味である。ビールにとってホップによる苦味は切っても切れないもののはずだが、アサヒビール躍進の柱「スーパードライ」は、それを捨て、清涼飲料化に走った。11年前の講演録「『スーパードライ』で新たな挑戦」は、今日を知る者として格別な興味で読める。そこでは、市場での調査の結果、消費者は銘柄を明確に飲み分けていることが語られ、アサヒビールが不振なのは味に問題があるのだと自覚し、戦後生まれの世代に向けた新しいビールをつくると宣言する。「新しいうまさの判断規準づくりに大胆に挑戦していこうということです。すなわち、にが味の強いビールから、軽快でスッキリとしたビールへ、という考え方に基づいて『アサヒ・スーパードライ』という商品を発売しました」。戦後生まれの「第三・第四世代の人は、なんとなく漠然とビールを飲んでいる。自分達の口に合うビールがまだわからない状態のままではないだろうか、これを具体化しようというのがこの商品の最大のねらいです」

 キリンとアサヒのこの十年余りについて、「産業・技術情報― 麒麟 vs アサヒ ―」が実に手際よく、味から容器の問題についてまで、まとめてくれている。その「第2章 キリンの失敗」には、キリンが試みた「ラガー」の「生ビール」化について、「スーパードライ支持率の高さは、新しくビールを飲み始める層と、スーパードライを飲み続ける層によって維持されているのに対して、2、3年まではラガーを飲んでいたという消費者が流出した」「理由は、『好みの変化』をあげた人が34%、『製法の変化』をあげた人が17%である。そして、評価はというと以前に比べて『おいしくなった』と答えた人は19%、『おいしくなくなった』と答えた人は23%であった」「キリンは、これから新しく飲みはじめる若い消費者にターゲットをむけたため、本来中高年ユーザーのビールを飲む層、長年飲み続けたという忠誠心の高い中高年ユーザーをないがしろにしてしまったのである」と述べている。私の感覚でも、若者うけを狙って苦味の成分は減らされたと思う。

 発泡酒「麒麟淡麗〈生〉」の好調で、ビールと合計した1−7月期シェアではアサヒの36.4%に、38.2%と何とか優るキリン。昨年9月の「21世紀へ向けたキリンビールの取り組みについて」は、「2000年には、国内のビール・発泡酒市場はビール670万kl、発泡酒60万klの合計730万kl程度、1997年から2000年の平均伸び率は約1%程度と予想されます。その中で当社は販売数量320万klを達成し、ビール業界No.1の地位を不動のものとします」と述べ、王者は今日の事態を予想していなかったようだ。ビールと発泡酒合わせて、1−7月期でキリンは梅雨が長い気象のせいもあってか7.8%も出荷量を落とし、アサヒは逆に2.3%伸ばしている。

 アサヒは発泡酒は売り出すつもりはないようだ。社長インタビュー「本物の味で本場に参入」に「『スーパードライ』の年代別調査をみると、二十歳代の支持は、九六年の四六%から一年で六二%になった」「わが社では『スーパードライ』を太陽に例えている。太陽は一つだけ。主力商品は一つで十分ということだ。その周りに違いのはっきりとした個性的な惑星をちりばめたい。しかし、発泡酒は絶対に作らない。本物しか作らないという座標軸を守れば、九八年も売り上げ二ケタの伸びができるだろう」とある。

 キリンが態勢を立て直して、どう挑むか、興味は尽きないが、最後はお酒の飲み方について、「アルコールと健康障害 -心と体によい飲み方を-」というページを見つけておいたので紹介する。こういう知識はお酒を楽しむためにこそ必要なものだ。



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