団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第89回「ビールから離れつつある発泡酒」 (2000/08/24)

 2000年上半期、麦芽100%の新製品投入が期待はずれに終わったビールに比べ、発泡酒は前年比17.7%も伸びた。ビールは前年比4.4%減らした。ビールと発泡酒合わせた市場で、半年ベースで発泡酒は初めてシェア2割を超え、21.9%に達した。ビールと発泡酒を合わせた総市場は0.3%の微減に止まっているが、ビールから発泡酒への代替は業界の予想を超えた速さで進んでいる。どうして発泡酒は売れているのか。その先には何があるのか。

◆伏線になったドライビールの登場

 消費者はビールと発泡酒は別物と認識している。インターネット上で組織的な大規模アンケート調査をしているマイボイスコムの「発泡酒の消費拡大に関する調査」集計でも出ているように、大衆の好みはビールなのだが、麦芽の含有率が少なく税率が下がって生まれた価格の安さから、発泡酒が買われていることになっている。

 しかし、それを額面通りに受け取る人は、この国のビールについて知らない人だ。

 ビールは、現在のイラクあたりにメソポタミア文明を築いたシュメール人が発明したとされる。3000年の昔、都市国家に30ものビール・ブランドが存在、既に銘柄についての談義があったようだ。現代ビールは、160年ほど前にチェコで生まれた傑作ピルゼンビールを源とする。これが世界を席巻する中で国内に入ってきたため、この国のビールはどれも同じような味になった。欧米伝統産地のように個性的なビールは残らなかった。

 味が同じなら強い者が勝つ。シェア60%、キリン一人勝ち時代だった1987年 登場のスーパードライで、衰亡の危機にあったアサヒは生き残りを賭けて新し い味の創造を狙った。

 具体的にどうしたのか。私の連載コラム第3回「ビール戦争・地ビール・自ビール」から、ビールの味とは何か、キリン・ラガーとの対比と合わせて引用する。

 「ビールの本体はちょっと甘い液体で」「混じっている苦味成分は泡にくっつく性質があり、泡を立てるほど苦味を抜いて、本体に潜む甘さを引き出すことができる。苦さと甘さの対比を飲み手の好みで意のままにできるのがビールの第1法則で、ラガーはそれに沿ったビール」

 「ところが、スーパードライは」「苦味を当時のラガー比で60%に落とし、同時にアルコール度数を上げ、甘さも抜いて淡泊にしてしまった。ビールの第2法則『薄味の銘柄ほど冷やし、濃厚な銘柄ほど室温近くで飲む』と併せて、強く冷やした缶のまま飲むのに適した味付けになっている」

 ラガーの缶ビール化が遅れたことを敗因にする人がいるが、間違っている。全盛時のラガーは缶のまま泡をたてずに飲んだら、苦くて、美味しくないタイプのビールだった。

 このスーパードライで、一時はシェア10%まで低下したアサヒは息を吹き返す。今やビールとして断然のナンバーワン銘柄になった。代わって現在はサッポロが最下位サントリーに脅かされている。ビール通の多くが認める傑作エビスビールがさして売れない理由を、サッポロはもっと真剣に考えてみなければなるまい。

◆麦芽から自由になる、その先は

 スーパードライによる味の変革は、米やコーンスターチを大胆に入れ、こくのある原料麦芽を積極的に減らした効果も大きい。

 私の連載第56回「お酒の消費に起きている地殻変動」で紹介しているように、スーパードライは明快に若い世代をターゲットにした。やはり麦芽を原料とするウイスキーを敬遠し、苦味とかスモーキーな味わいから遠い、チューハイのような飲み物がはやる世代に焦点が合っている。

 他社も大なり小なり追随しビールの味が変わっていく文脈の延長で、快進撃している発泡酒。さらに面白い傾向がある。

 ビール情報満載のサイト「とあえずビール」にある「主要ビール会社動向」に近年の動きが月単位で手際よくまとめられている。売れて話題になっているのはサントリーのマグナムドライである。麒麟淡麗〈生〉もまずまずだ。しっかりした苦味を持つサッポロのブロイが最も影が薄い。しかし「どれがビールらしいか」と問われれば、私は「ブロイが最もビールらしい」と答えることにしている。

 初期の発泡酒はビールに似せることに一生懸命だったが、マグナムドライが売れる傾向はビールから逸脱する動きに見える。さらに、キリンは麦芽を使っているのに無色透明、クリアタイプである発泡酒「クリアブリュー」も売り出した。レモンを搾って飲むという。こうなるとサントリーのウオッカベース新飲料「H(アッシュ)」あたりと見分けがつきにくい。ビールでなくても同じような清涼感のある飲み物なら売れる時代になりつつある。もともと欧米ではウイスキーやバーボンより、「白物」と呼ばれるジンやウオッカなどの方が飲まれている。清涼感のある飲み物ならずっと作りやすい。

 また、かつてビール製造設備をキリンに売り渡して撤退した宝酒造が「サワーモルト」という発泡酒を、得意のチューハイシリーズに加えた。これも結構売れているらしく、市場の動きはますますややこしい。

 ビールと発泡酒の合計でシェアを競うようになった現在、アサヒがキリンを追い越すには発泡酒を売り出すことも必要なように見える。

 アサヒが発泡酒をつくらないのは、自ら始めた「異端」が原因になって、ビール市場そのものを崩壊させる恐れに抵抗しているからではないか。

 ビールの酒類全体に占める構成比は、国税庁調べで過去10年、このように推移している。2000年は予測であり、実際にはもっと少なくなろう。

                     50--------60--------70--------80%
  1991年  73.4% ************************
  1992年  73.8% *************************
  1993年  73.0% ************************
  1994年  73.6% *************************
  1995年  70.8% **********************
  1996年  70.3% *********************
  1997年  68.8% ********************
  1998年  63.7% ***************
  1999年  59.9% ***********
  2000年  58.0% *********

 「BEER大好きマガジン」の作者は「発泡酒について」で「私は発泡酒もドライビールも否定しませんが、酒税の高いビールでわざわざ麦の味わいを殺したドライビールを作り、発泡酒は一生懸命麦の味わいに近づけようとしている。なんか滑稽なんです」と書いている。

 もしアサヒが発泡酒でスーパードライと同じものを造れれば、ビールのスーパードライは死んでしまうし、スーパードライと味が違う、もっとドライなものを造ったら、それはもうビールの範疇にないだろう。



※今回はメールマガジン版の編集後記が参考になると思われるので収録します。

◆◇編集後記

 本文にある「ビールの第1法則、第2法則」は私の命名であり、一般には認められていません。念のため、お断りしておきます。

 今回の主題とは離れてしまうので、本文の中では取り上げませんでしたが、ネット上にビール醸造技術について突っ込んだページが出来ています。
 「ブルワーズ ネット コミュニケーション」

などが最たるものです。ここの技術紹介欄は、モルトやホップの種類・特徴など専門家のレベルで書かれています。麦からモルトを造る方法はひとつではありませんし、ホップに至ってはこんなに多いのかと驚かされます。こうした知識のページが積み重ねられて、一般の飲み手ももっと豊かにビールを飲んで欲しいと思います。

 それにしても暑いですね。私はウイスキーなどもよく飲む方ですが、夏場はもっとさらっとしたお酒がいい。一番のお勧めは、ジントニックです。ジンは出来ればタンカレー。ゴードンやビーフイーターでも結構。ただし、トニックウォーターはシュベップスにして下さい。そして、欠かせないのが柑橘類です。もちろんライムが欲しいのですが、手に入らなければ徳島の「スダチ」も捨てがたい味わいです。それも手に入らない人はレモンです。レモン果汁を入れるのではなく、レモンの皮をそぎ取り、裏返して指先でつまみ、皮に含まれている香味分をぴゅっとジントニックに入れてやります。

 かつてビール好きの方に、ジントニックをつくって差し上げたら「なんで今までビールしか飲まなかったのだろう。これは損をした」と驚いていらっしゃいました。きりっと来る発泡性の刺激と柑橘の香気で、一服の涼をとってください。



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