特集「2000読者年間人気投票とコメント」

 恒例になった読者人気投票の結果、2000年は第95回「学力低下問題の最深層をえぐる」が圧倒的な票を集めベスト1になりました。今回は合計77人の方に参加いただきました。ベスト10を以下に掲げます。

◆集計結果は前年よりも分散モード

 95回を挙げた方は6割にも達したことになります。この回はMSNジャーナルに転載され、また、いろいろな場所で話題になっています。MSNでのアクセス数は不明ですが、私のウェブだけでも6000件です。メールマガジンで読まれた方以外にこの数字ですから、4万人に迫るかも知れません。読者の皆さんからの声も多数寄せられていて、次回に再論を予定しています。

 投票全体の集計は次のようになりました。1人5票のうち何票かをひとつの回に集めている方もいらっしゃいましたが、カウントは「1」にしました。  1999年も後半の回に票が集まりました。新しくメールマガジンの読者になられた方の投票が集まるからでしょうが、臨界事故とその関連ものがあった前年より、95回を除けば、もっと広く分散した感じがします。これだけいろいろな話題を提供していて、それぞれに広く関心を持っていただけていることが分かります。インターネットを利用するにせよ圧倒的多数は限られた使い道だと思いますから、私の読者の皆さんは完全に抜け出ています。

 ベスト10の上位は、この国の社会・経済構造に問題があると踏み込んだ回と言えるでしょう。中位には少しビジネスに寄った内容が入りました。ちょっと柔らかい話でエンターテイメント的と言える回は前年同様に低くなりました。5票だけに限ると、どうしてもシリアスな回に目が向いてしまうのでしょう。これはやむをえませんね。前年のベスト1は第77回「ハードディスクを変えた起業家魂」で、ビジネス寄りでした。これにSさんから「面白い内容に付いてはプリントアウトし、周りの同僚に見せています.特に77回のコラムは震えが来ました.また、94回も面白かった」と年を超えたイチ押しが来ました。

◆コラム各回への皆さんの感想

 まず95回を中心にコメントを読むと、22歳・理系学生さんからがほぼカバーしてくれています。

 「多方面にわたる記事は読んでいていつも私の知的好奇心を満たしてくれるものばかりです。『ヒトゲノム研究での異邦人・日本』は現在の日本を取り巻く状況を知る事ができて衝撃的でした。『学力低下問題の最深層をえぐる』コラムでは主に大学生以上の学力低下を問題にしていらっしゃいましたが、現在の子供たちの現状も相当危ういと思います。知り合いが公立小学校の教員をやっておりまして、現在の小学校の状況をリアルタイムで聞いておりますが、ゆとり教育がどんどんと実施され、必要最低限の教育さえ行われていないような状況だと思います」「天然資源のない国土も狭い、豊かさに慣れてしまったこの国にとって人的資源の育成は必要最低限な事ではないのでしょうか」

 少年犯罪を含めた、教育と周辺の問題について考えていらっしゃる方が実に多いようです。これは若い方、年上の方、あるいは男女を問いません。

 主婦Kさんからはこうです。

 「家庭を預かる主婦として、若い人達の起こす信じられないような凶悪な犯罪、また高齢化や生活習慣からくる病気のための医療費の増大といった問題に大きな関心を持っております。IT革命などという言葉の裏で、深夜まで仕事や遊びを続ける事が当たり前になり、食事や休養がおろそかになり様々な社会問題の引き金となっているのではという思いが致します」

 91回のコメ問題が3位。ある意味では地味なテーマですが、生活に直結するテーマとしては確かにビール・発泡酒以上です。

 「現在、市役所で農業、特に転作業務に携わって」いらっしゃるHさんはこう書かれています。

 「当然、法律があり、業務内容が決まっている仕事なのですが、私の仕事のやり方で、日本の農を考察しています。江戸時代に今の農はほとんど成り立っていたのではないか、と思うのです。また、歴史的に見ると、歴史家の網野善彦氏もご指摘のとおり、日本人は米ばかりを作っていたわけでもありません。歴史を振り返り、未来を見据えたときに、日本の農はどのような方向を目指すべきなのか、未だに見えてきません。絶望的に低い受給率が40%を上げていくことが大切なのか。それとも、狭い日本以外に日本の農場を確保すると考えるべきなのか。この先の農が見えてこない状況です。できれば、未来を見据える指針を教えていただければ幸いです」

 91回もMSNに転載され「誰でも調べればこれくらいのことは書ける。お前はどうすればいいのか書いていないではないか」という趣旨の投書をいただいたこともあります。私の立場は、97年に書いたコラム第21回「コメ作りの破局を見ないために」で鮮明に描いているつもりです。コメに限らない食糧安全保障については、そう遠くないうちに手がけてみましょう。遺伝子組み換えを扱った第17回「種子・修飾された遺伝子世界」からも随分、時が経ってしまいました。

 89回ではアサヒビールが発泡酒をつくらない理由を書きましたが、来月発売に踏み切るようです。どんな味か興味津々です。大躍進してきたアサヒビールにとって、とんでもない悪手になるかもしれません。

 ビジネスものでは、Rさんが「特に、94回の分は真相を抉っていると思います。そうなんですよね、技術は人について回るモノで引き継がれるモノでは無い。非常に重要なことだけど事務系の人にはこれが分からないらしい」「リストラ万歳、やがて日本の技術は崩壊し、技術のない事務屋だけが生き残る」と皮肉な予感を書かれています。

 96回「DVDとEMS台頭にみる物作り王国変貌」を含めて、世間に見えていないことを可視化する、私のコラムの特性がよく出た作品です。

 わずかの差でベスト10に入らなかった85回「iモード狂騒に見る情報リテラシー」には、Hさんから「iモードでは、ニフティサーブの初期に毎月1万円以上使っていた人が(私を含めて)多かったことを思い出しました。自分に必要な情報を探し出せないのではなくて、もともと考えていないというのは、若者だけではなく多くの人にも共通する大きな問題と思います」というコメントがあります。

 IT、情報技術をどう使うか、真剣に考えねばならない時期なのに、若い人たちの間には、ただ、メール友達を増やし、その空間に浸り込むだけで時を浪費する状況があります。

◆読まれ方と皆さんからの希望

 「とてもためになる良いメルマガだと思います。これくらい新聞も辛辣に書いてくれると良いのにと…」(Fさん)

 「広い分野への興味と分析には、新聞や雑誌、テレビ等とはひと味違ったものを感じます。面白いものですね。自分で、気にはなっているけれども、普段はあまり深く考えていない事柄に関して、説得力を持った内容のメールを読むと、一気に知見が増えるようで、有り難いことです」(Kさん)

 在来のメディアでも、例えば新聞の署名記事の形ならば私のような仕事は可能なはずです。しかし、実際にはあり得ません。どうしてなのか、ここで説明はしていられませんが、メディアリテラシーの問題を含めて、私のコラムはメディアに対して鋭い提起になっています。

 フレッツISDNをいち早く申し込んでから、電話代を気にしなくなったので、ますます取材、執筆時間が長くなる傾向です。かなりのところまで取材してから一時見合わせるようなことまでするようになりました。しかし、読者の皆さんも読まれるのにも時間をかけていらっしゃるのには驚きました。

 吉田さんからはこうです。「新聞・インターネット等から社会現象(ニュース)を集めるだけの作業では、本質まで迫れないでいるモヤモヤした部分を、団藤氏の核心つく解説を拝読させていただくことで、及ばずながらも時事を正しく理解できるようになっていると思います。また氏のコラムは、テーマは異なっても日本・日本人を考える上でどれも根底で通ずる部分があり(生意気な感想ですが/私はそういう意味で山本七平氏が好きです)、さしあたり興味・必要性のない号についても(重ねて失礼)時間の許すかぎり読み込ませていただいています(良質なエッセーだけに行間の意味が広く、氏のひとつのテーマ(コラム)を最低限の理解で身体に覚え込ませるだけでも私は4-5時間を要してしまいます」

 この時間は私の執筆時間並みです。もっとも、リンク先まで飛んで引用部分の周辺に何があるのか見て回られたら、これくらい掛かるかも知れません。

 Aさんも「いつも『考えるきっかけ』を頂きありがとうございます。日常煩雑な仕事に追われておりますが、『インターネットで読み解く!』を読むときは、充分な時間を確保し、疑問な点はその場でWebで調べるようにしております。今後も楽しみにしております」とされています。

 一方、Tさんから「3人の幼子の親として、また、自分自身の問題として、日本の先行きに不安をいだきつつ毎回楽しみにレポートを読ませてもらってます。非常に中身の濃いレポートだと思いますが、毎回違ったテーマを見つけてゆくのにやや疲れも見えてきているような感じもします。個人的には内容がダブってもいいので、社会的に重要度が高い分野でしつこく問題点を喚起してゆくような方向が望ましいと思います」と、ご心配いただきました。

 先ほども触れましたが、テーマを見つけるのに困っている訳ではなく、ある程度のレベルにコラムを仕上げるのが無理と判断してペンディングにするケースが増えているというのが実態です。科学部員だったころ、学会の発表抄録集を山のように積んで、自分の目で面白いものを見つけだすのを楽しみにしていました。その知的好奇心は相変わらずだと思っています。

 月に何度か、日経ネットブレーンに寄稿していますが、あの長さではほんの「さわり」しか書けません。逆に、現在のサイズのものはそう何本も書けないのも事実です。ボリュームと頻度とバランスを考えながら、お寄せいただいた様々なテーマについて、今年は試行することになるかもしれません。