団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第98回「熱核融合炉の誘致見直しは今しか」 (2001/02/15)

 日本、欧州、ロシアが中心になって計画している国際熱核融合実験炉(ITER)の国内誘致を巡って、核融合研究者の意見分裂が表面化した。推進の原研に対して、大学の研究者は大半が反対か慎重論に傾いているという。立候補の期限をこの夏に控えて、原子力委員会の下にある「ITER計画懇談会」は1月末に正式立候補決定をするはずが、繰り延べになっている。この対立を核融合専門家内部の「コップの中の嵐」と見てはならない。深刻かつ巨大とも言える問題点が隠されたこのプロジェクトの国内誘致には、国民的な合意が必要なのではないか。本格的に見直すなら今しかない。

◆国民に本当の姿を伝えることが先決

 大学の研究者がこの時期に反対になった原因は、国際熱核融合炉がやって来れば核融合関係予算の多くをとられてしまい、大半がITERとは違う方式の研究をしている大学側予算が細ってしまう恐れがあるからだとも言われる。これまで文部省に属していたのに、新設の文部科学省では原研を所管する科学技術庁と一緒になった。予算のパイが同一になるから、これまでのような別扱いが望めないと恐れているという。

 私はそれだけを理由とするほど研究者の品性が落ちているとは思わない。諸手をあげて賛成できないのは国際熱核融合炉の情報公開が十分でないからではないか。専門家として見てどのような実験が本当に出来る炉なのか物理パラメーターも十分には公開されていないし、同時に一般大衆が危険性について判断できる材料も、もちろん公開されていない。それなのに「日本の貢献論」ばかりがITER計画懇談会周辺で渦巻いている。

 廃棄物だらけの核分裂炉に比べて、核融合はクリーンだとのイメージを持たれている。エネルギーを担う「中性子線」が持つ言葉のイメージもそうだった。しかし、99年の東海村JCO臨界事故で中性子線がどんなものなのか、広く国民に知れ渡った。あれほどわずかな発生量で死者を出し、現場周辺家庭では金製品や硬貨が中性子線による被曝量推定に使われたように、家庭内の様々な物を放射化してしまった。この連載第78回「臨界事故に見る行政側の背信」を見て欲しい。

 核融合実験と言えば、原研にある小山のような巨大装置「JT−60」が有名である。しかし、従来の核融合実験装置はわずかの例外を除いて、実際には核融合を起こしていない。絶対に核融合しない水素で高温プラズマを造って観察していただけだ。従って、それによる中性子線の発生もなく、いわば「核融合おままごと」に止まっていた。国際熱核融合炉が目指しているのは、最も反応が起きやすい重水素とトリチウムを組み合わせて高温にし、本当の核融合プラズマを造って燃やすことだ。当然、JCO臨界事故など耳垢程度、比較にならぬ膨大な中性子線が発生する。

 そのような炉を計画できるところまで来たと感慨を持つだけなら、科学者の勝手なロマンである。国際熱核融合炉を国内に持てば、運転によって発生する放射化廃棄物の始末もしなければならない。いや、まず実際に運転を始めたら少し燃やしたところで大幅な放射化が起こり、管理区域内は壮絶な放射線レベルになる。中性子線を浴びて傷んだ超伝導磁石や隔壁などは、超高精度の遠隔操作で取り替える技術開発が進められている。その機構がもしも故障したとしたら、現場に入って直すのだって簡単ではない。長期に止めたまま放射線レベルが下がるのをただただ待つことだってあり得る。JCO事故で臨界を止めるために作業員が突入したのと比較できない高汚染状況になっている。それが始まってからどう説明しようと、「そんなことは知らされていなかった。そんな危険な物なのか」と叩かれるのは必至である。

 原子力委報告「ITER計画懇談会における論点の整理と今後の課題について」の付録「ITERの安全性等についての取り組み」は、放射化物を最初の10年間で700トン、高性能運転への移行で2800トン、後半8年でも700トン、運転終了時に本体構造物5万2000トン、コンクリート1万5000トンなど淡々と記載しているが、臨界事故を経た国民が実際に何が行われるか詳細に知ればどう考えるだろう。

◆報告類から伺い知る危険性と将来性

 大学人が集まる核融合科学研究所にも将来、小規模の核融合プラズマを燃やしたい計画がある。ここで人体に取り込まれて有毒なトリチウムについて情報公開されている。

 「大型ヘリカル装置(LHD)の重水素実験は安全性が確保されています」で「LHDの中性子発生量はJCO事故の3倍程度という新聞報道がありましたが、LHDは2メートル厚のコンクリート製の壁」により中性子などを数万分の1以下に減衰させるなどと説明。次いでトリチウムは重水素実験により発生する物質で、国際熱核融合炉のように材料として使う物ではないが「重水素実験(将来計画)の意義と目的」で年間扱うトリチウム量を1ミリグラム、10キュリー以下にするとしている。ここでは秘密など無い、全て公開可能との姿勢が表明されている。

 一方、国際熱核融合炉の設計では、プラント全体で4キログラムのトリチウムが存在する。核融合会議が昨年5月に出した報告「核融合エネルギーの技術的実現性 計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書」から「安全技術の現状と今後の課題」を読むと、国際熱核融合炉に事故があった際の「安全設計においては、想定したすべての異常事象においても周辺公衆に影響を与えない量として設定したトリチウムの放出限度量である100gを十分下回ることが確認されている」との記述がある。核融合研装置とは規模の違いが歴然としている。

 「また、想定しうる事象の範囲をこえる状態を仮想しても、物理的に極端な結果にいたらず施設が耐性を有しており、公衆の被ばく線量がIAEAの提唱する避難を要しない範囲(50 mSv以下)にあることを確認した」とも述べる。50ミリシーベルトは原子力施設に働く人達への年間規準値だ。この線量が取りざたされるような事故が起きて、現実問題として避難を考えないような運用はあり得ない。50ミリシーベルト以下だからとの説明で世間一般に通用すると思うところに、まずあきれる。核分裂の軽水炉の安全説明でも、電力会社はこんな言い方はしない。

 国際熱核融合炉の建設費はもともと1兆円とされていたのを、5000億円に減額された。技術が進んだからとの言い方もされるが、米国が離脱し巨額の負担に耐えられないから政治的に減額したのだと私はみている。純技術的にもそれが危うい。核融合プラズマには通常の核分裂炉などで知っている中性子の数倍のエネルギーを持つ中性子線が現れる。この未知の中性子線の挙動を見たいからこそ建設する。何が起きるか分からない。高エネルギー中性子が無い「ままごと装置」でも高温のプラズマの挙動がおかしくなって宙に浮かせられなくなる現象は、これまでにも頻発している。そうなれば隔壁に大ダメージが及ぶ。

 さらに発電をする原型炉を考えれば、国際熱核融合炉段階の百倍以上もの中性子線を浴びる想定になっている。実用まで見通して核融合計画がもくろみ通りに成功するとはとても思えない。推進の柱だった米国が「10年で1000億円も掛けたのにものにならない」と手を引いた際に書いた、私の連載コラム第59回「未来エネルギー核融合の挫折」 に詳しいので参照して欲しい。

 ひとつだけポイントを挙げると、「地上の太陽」と言える高温プラズマ造りは進んでいるが、それを安定に囲っておけるだけの工学的な技術は決定的に力足らずである。特に材料面での遅れは深刻だ。発電炉のレベルを考えたら膨大な中性子線を浴びてスポンジのようにぼろぼろになって取り替えは頻繁になり、放射化したら長期に元に戻らない。核融合科学研の将来計画検討小委第3回議事録でも「ネックは材料だ。材料のデータなしで議論してもナンセンスだ」との発言がある。

 上記の核融合会議報告書から「工学要素技術の現状と今後の課題」を見てもらえば、必要な性能を大幅に下回っていることが誰の目にも明らかだ。予算を取るために議会に対して説明しなければならない米国が愛想を尽かすのは当然である。では、この国には議会はないのか。



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