団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第106回「小泉内閣が既に変革した若者の心」 (2001/07/05)

 小泉内閣が発足して2カ月が過ぎた。驚異的な内閣支持率を保っているばかりか、テレビ朝日の世論調査によると、自民党の支持率も押し上げ50%を超えたという。かつてない高支持率であり、今月末の参院選は自民圧勝になる勢いだ。マスメディアの中には、反小泉首相・反田中外相の発言が国会で出れば抗議が殺到する熱狂の行き過ぎをとらえて「もっと冷静になろう」と訴える論調も出ている。これは果たして「浮かれ」や一時的な「熱気」なのか。そうではないと私は考える。

◆大臣になってから戦う政治家は初めて

 小泉人気については、ふたつの部分を分けて観察する必要がある。自民総裁選で小泉純一郎に投票した自民党員は中高年が主体だ。彼らは従来の義理や地元代議士とのつながりを捨てて「変革」に賭けた。経済失政経験者の橋本龍太郎にはもう期待するものはなかった。亀井他の候補者は検討対象にも上らなかったはずである。

 一方、首相になる前後から熱気を帯びてきたのは、若い世代と女性たちである。選挙権を持たない子どもたちまでも政治に関心を持ち出した。携帯電話用のサイト「小泉純一郎 応援・批判サイト」の「大好き純ちゃん掲示板」に「くうこ」名でこんな書き込みがあった。

 「テレビも新聞も見ない、もちろん政治なんて全然興味のなかった私が政治を学びたいと思いはじめたのも、純ちゃんのおかげです。あー、めっちゃ好きだー(*^^*)。でも周りにはそういう人がいないので寂しい。高校だしなあ。」

 ネット上をあちこち見て回れば、この高校生がひとりで思っているような例外的な存在でないことはすぐに分かる。

 女性が中心の「小泉純一郎私設ファンサイト」「小泉純一郎ファンサイトFeim(フェイム)」とか、掲示板には様々なメッセージが寄せられている。キャンプデービッドでの服装談義とかはさておき、何が人気の原因かを読みほぐしていくと、彼が戦い続けている政治家だからだと、私は理解した。

 大臣になったら、官僚の書くシナリオに乗って演技していけばよいという、日本の「常識」を初めて破った。田中真紀子外相も同じだからこそ人気があるのではないか。国会での外相答弁は、理路整然からは遠く、必ずしも筋道が通っているとも言えない。十分な理屈がある質問側に「いじめるな」と抗議が殺到するのは、戦っている意味をみんなが知っているからだ。理に真実があるのではなく、義に真実を見ているのだ。

 右肩上がりの成長を続けた高度成長期以降、この国の大人たちはもう随分長い間、戦わずに済ませてきた。日々の仕事だって、そのつもりならば真剣勝負で火花が散る場面はいくらもあるのに、大方は決められたマニュアルに従って日々の業務をこなしてきた。給料を運んでくれる夫や父親の仕事ぶりには「ご苦労さん」と思っても、家族からすれば、その生き様に感じるものは少ない。そんな戦わぬ生き様の総体が日本社会の停滞を生み出してしまった。大半の子どもたちは、この社会で生きていくのに真剣に勉強する必要などないと思っている。連載第95回「学力低下問題の最深層をえぐる」で論証した通りである。

 少々は不器用でも、そんな社会に対して改革の大義を掲げて戦い続ける小泉、田中の新鮮さは簡単に薄れまい。

 「抵抗の党」社会党が村山首相で内閣をつくったとき、野党時代の原理原則何もかもを打ち捨てて官僚の言いなりになった。あれと正反対なのだから「自分が首相になったのは政権交代に等しい」と本人が言っているのを、とりあえずは認めてあげよう。

◆無党派層は参院選へ、そして今後どう動くか

 無党派層の急拡大とその意味を分析して、現在でもよく読まれている連載第30回「政治・選挙制度改革が変えたもの」の結語でこう書いた。

 「投票率が低いと嘆かれる現在の若い層も、政党政治が活性化するなら、自ずと関心を高めると見て大過ないのではないか。惰性で政党に追従しない世代を生み出したことこそ、政治・選挙制度改革の逆説的な成果だったと思う」

 現実に起きていることは、これを延長した出来事である。

 第30回で描いたように無党派層は「政党不信派」と「無関心派」に加え、政界変動で乗る便をなくして空港で乗り換え便を待つトランジット客のような「再編待ち派」の3タイプからなる。「無関心派」は確実に減り、一度は自民から離れた「再編待ち派」の多くは小泉政権に安心して、自民に戻る。最初に紹介した自民の高支持率はこのように説明できよう。

 その一方で、社会党などから離れた「再編待ち派」は依然として行き場を見つけていない。小泉は良いが自民は嫌いとする層も大きい。昨年の時評「メディアも大敗・総選挙情勢調査」で述べたように、かつて共産党が独占していた観のある構造的追い風は共産から離れ、候補者の個人的な魅力に依存して吹き始めた。有権者の意識に変化がある。風に流されるのではなく、個人それぞれに判断ができるようになりつつある。この傾向は先日の都議会議員選挙でもはっきりと示された。質の良い女性候補を多数立てられるなら、そちらに大挙して流れるような現象が起きるかも知れない。また、既成政党について言えば今回の参院選では投票率が大きく上がるから、組織票しかない公明党の力は相対的に落ち込むしかない。

◆「骨太の方針」は出されたが

 小泉内閣メールマガジンは200万部を達成した。その第3号は経済財政諮問会議が決めた「骨太の方針」がテーマである。

 メールマガジンの利用人口は500万人以上いると考えているが、これまでは軟派系の情報が主流だった。硬派系のマガジンでは「田中宇の国際ニュース解説」が16万部で最大だから、1カ月で200万の読者獲得は驚異的な数字である。掲示板を読んでいると、「長文だからパケット代がかさむ」とぼやきながら携帯電話で読んでいる若者もいる。政治家が何を言うか読むためにお金を使っている。これまで考えられなかった事態である。従来のメルマガ利用者以外の部分が多そうであり、このまま行けば400万部台、毎日新聞クラスのメルマガになってしまうのではないか。

 そして、その「骨太の方針」である。「経済の重荷を除く」「経済再生の第一歩〜不良債権問題の抜本的解決」に始まって「努力した人が夢と希望をもてる社会」へと説かれているが、依然として具体的でない。竹中経済財政政策担当相らのブレーンは不良債権処理など「解体」側には強いが、何かを作り上げていく「建設」側のアイデアをあまり持ち合わせていないと観た。不良債権処理で数十万人規模の失業者が発生する。再就職する上でかなり条件の悪い人達も多く、このままで十分な受け皿を作り出せるとは思えない。

 「骨太」には書かれていないが、国立大学の独立行政法人化から、一足飛びに民営化する議論もある。政府の産業構造改革・雇用対策本部の中間報告では、大学の基礎研究力を活用してベンチャー企業を輩出させ、失業者急増の受け皿を期待するとも言われている。しかし、私のみるところ将来はともかく、現在の国立大学にそんな能力はない。

 訪米から引き続き訪欧した首相は英国でブレア首相と会った。実は総選挙で大勝したばかりのブレア首相の改革にこそ、小泉首相が参考にすべきものがある。「イギリスから見た日本経済の再生」で神戸商科大の舟場正富教授は「新産業主義」という言葉で紹介している。

 「技術革新の時代を生き残るためには、国民全てが高度の教育水準を確保して、働く意欲と能力、それにふさわしい雇用の場を得るようにしなければならないということである」「具体的には、情報ネットワークを通じて個性豊かな分業の担い手たちが結合されてそれぞれの自己責任と相互貢献によって社会のニーズを充足させて行く共生的な社会システムのことである」

 もっと具体的に語れば、97年に政権に就いたブレアたち新生・労働党は教員組合の抵抗を押し切って教育現場にも強烈な介入をし、子どもたちの学力の底上げを目指す一方で、失業した層にも徹底した職業訓練と再就職の組織的圧力をかけ、ばらまき型福祉国家のパターンから決別してしまう。

 小泉内閣の誕生には中曽根元首相の影が見え隠れする。経緯からすれば政界の表面に残りかねなかった大衆迎合政治家・亀井静香を沈黙させてしまったのも中曽根であり、自らの民間活力導入路線の継承を期待しているのだろう。しかし、それだけで解決するほど時代は単純でなくなっている。

 政治改革の方向と意志を明確にした集団、それを普通は政党と呼ぶ。それなくして小泉個人の意欲だけでいつまで引っ張っていけるものではなかろう。何時の時点かで総選挙に打って出て、基盤にする政党を純化し、ブレア政権のように社会の隅々まで変革しなければ、目的は成就しない。

 とは言え、若い世代に政治意識を芽生えさせた点だけでも改革は完全に一歩を踏み出した。欧米の若い世代では、政治について語るのは当たり前のことであり、日本だけが特異的に遅れていた。若い世代が「このままではいけない」と思わなくて社会の変革などあり得ない。



追補
 「小泉内閣メールマガジン」の読者属性集計表が発表されました。年齢別では20代が25.6%、30代が31.0%、40代が21.3%と、インターネット利用人口とほぼ合っています。やや年上の世代が厚いようながら、10代も4.4%います。職業別では半分近くが会社員で、学生は10.6%です。

 時評「小泉改革と競争社会化の必然性」(2001/08/09)もリリースしています。是非お読み下さい。


【INDEXへ】

無料メールマガジンとして配信中。登録される方はこちらへ
【リンクはご自由ですが、記事内容の無断での転載はご遠慮下さい】

※ご意見、ご感想や要望はメールフォームで