近未来中国が呼ぶ紙資源危機を考える [ブログ時評27]
原油価格暴騰から私が真っ先に連想したのが紙資源危機だった。どちらも中国の高度成長維持がもたらす歪みだから。先日の予告記事で、ブロガーの皆さんから色々と示唆をいただきつつ、久しぶりに中国に焦点を当てて紙問題を調べてみた。
このまま行けば穀物消費もエネルギーも、どんな資源も枯渇してしまうと予測する、ワールド・ウォッチ研究所創設者レスター・ブラウン氏による日刊ベリタ「圧倒する中国の需要 新しい経済モデルが必要」に行き当たって、一度納得して、直ぐに前提の誤りに気付いた。「中国の現在の一人当たりの国民所得は年5300ドルと推定」が過大なために、枯渇時期が大幅に前倒しになっている。米国並みの38000ドルに到達するのに年9.5%成長で2031年、8%成長で2040年と想定しているが、明らかに間違っている。
一人当たりの所得年5000ドルは、中国で突出した上海市民クラスだ。国民全体では年1000ドルにすぎない。1000ドルが38000ドルになるには時間がかかりすぎるし、8%成長を維持しつづけるとかの前提も怪しくなる。ブラウン氏の発想だけ借りて、現実的なモデルを探した。2003年の一人当たり紙消費量は中国の35.8キロに対して韓国が174.2キロ。一人当たりの国民所得は10倍の差があるから、8%成長なら30年後に現在の韓国水準に追いつく。
この時、どんな状況になるだろうか。所得上昇に伴って韓国並みの紙消費になると仮定する。2003年の世界の紙生産量3億3881万トンの53%に当たる1億8000万トンが新たに必要になる。インドなど他の途上国の消費増加は全く考えていないものの、この段階で世界の森林資源が紙資源供給に応じられなくなっていると判断できるだろうか。
「中国のパルプ原料の割合」によれば、「パルプ原料は木材パルプ(21%)のほか、リサイクル紙(47%)と穀物パルプ他(32%)」とある。古紙をリサイクルするのは日本と同じで、森林資源に乏しい韓国の場合は7割を超える。中国の場合は古紙回収がまだ十分機能していないそうで、日本からの輸入が近年、急に増えている。また、「穀物パルプ他」とは稲わらや麦わらその他の繊維資源。日本の稲わら資源は年間900万トンで、人口を考えると中国には1億トン以上はあるだろう。家畜飼料にもなる資源ではあるが、3割の混入分くらいは維持できそうだ。
となると、木材パルプの2割分が問題になる。1億8000万トンの2割は3600万トンだ。日本の年間紙消費は3000万トン。このうちリサイクルが6割として、残り1200万トンに新たな木材パルプを投入している。その3倍を30年後の中国が必要とし、調達するのはかなり困難と考えられる。つまり、危機の顕在化、「国際的奪い合い」は30年を待たないということだ。不足が深刻になれば、日本でも捨てている稲わら利用などが考えられる可能性がある。
「26 上海のトイレで考えた」や「中国旅行記(7)トイレット・ペーパー」にあるように、中国ではトイレットペーパーは丁重に扱われている。大衆の圧倒的多数はトイレットペーパーとは縁が薄い。紙消費5倍の韓国ではどうだろうか。昔の日本のように家庭でテッシュペーパー代わりにも使われ、かなり一般化しているようだが、「東国大学/留学生マンスリーレポート」にはこうある。「トイレットペーパーは、各個室についている所は少なく、入り口に大きいロールが一つかかっており、それを、必要な分だけ取って、個室に持って入ります。もし足りなかった時は、大声で誰かに頼み、トイレットペーパーを取ってもらうか……」中国大衆がこのレベルに到達することは無いのかもしれない。
中国では紙不足から新聞や雑誌がしばしば発刊停止を命じられる。毎年、学校の教科書を印刷する時期になると大騒ぎになるという。文書の電子化にしか、当面の抜け道は見えない。「第38回 熱気溢れる装置 中国の突出した電子出版事情」(2002)は「中国の大学では電子出版学科の新設が続き,増大する市場に向けてDTPオペレータやマルチメディアクリエータの養成が進んでいる」と報告している。でも、私としてはソフトウエア・コピー天国の中国で電子化本がコピー禍から逃れられるのか、かなり心配である。田舎の情報弱者にはやはり紙だろうし。
【参考資料】
☆インターネットで読み解く!第156回「失敗国家ランクと紙消費量のぴたり」
☆インターネットで読み解く!第4回「紙資源・千倍の落差」
☆紙の神・蔡倫も悲嘆する中国「紙」事情
☆日本紙パルプ商事・紙の知識と紙に関するデータ
このまま行けば穀物消費もエネルギーも、どんな資源も枯渇してしまうと予測する、ワールド・ウォッチ研究所創設者レスター・ブラウン氏による日刊ベリタ「圧倒する中国の需要 新しい経済モデルが必要」に行き当たって、一度納得して、直ぐに前提の誤りに気付いた。「中国の現在の一人当たりの国民所得は年5300ドルと推定」が過大なために、枯渇時期が大幅に前倒しになっている。米国並みの38000ドルに到達するのに年9.5%成長で2031年、8%成長で2040年と想定しているが、明らかに間違っている。
一人当たりの所得年5000ドルは、中国で突出した上海市民クラスだ。国民全体では年1000ドルにすぎない。1000ドルが38000ドルになるには時間がかかりすぎるし、8%成長を維持しつづけるとかの前提も怪しくなる。ブラウン氏の発想だけ借りて、現実的なモデルを探した。2003年の一人当たり紙消費量は中国の35.8キロに対して韓国が174.2キロ。一人当たりの国民所得は10倍の差があるから、8%成長なら30年後に現在の韓国水準に追いつく。
この時、どんな状況になるだろうか。所得上昇に伴って韓国並みの紙消費になると仮定する。2003年の世界の紙生産量3億3881万トンの53%に当たる1億8000万トンが新たに必要になる。インドなど他の途上国の消費増加は全く考えていないものの、この段階で世界の森林資源が紙資源供給に応じられなくなっていると判断できるだろうか。
「中国のパルプ原料の割合」によれば、「パルプ原料は木材パルプ(21%)のほか、リサイクル紙(47%)と穀物パルプ他(32%)」とある。古紙をリサイクルするのは日本と同じで、森林資源に乏しい韓国の場合は7割を超える。中国の場合は古紙回収がまだ十分機能していないそうで、日本からの輸入が近年、急に増えている。また、「穀物パルプ他」とは稲わらや麦わらその他の繊維資源。日本の稲わら資源は年間900万トンで、人口を考えると中国には1億トン以上はあるだろう。家畜飼料にもなる資源ではあるが、3割の混入分くらいは維持できそうだ。
となると、木材パルプの2割分が問題になる。1億8000万トンの2割は3600万トンだ。日本の年間紙消費は3000万トン。このうちリサイクルが6割として、残り1200万トンに新たな木材パルプを投入している。その3倍を30年後の中国が必要とし、調達するのはかなり困難と考えられる。つまり、危機の顕在化、「国際的奪い合い」は30年を待たないということだ。不足が深刻になれば、日本でも捨てている稲わら利用などが考えられる可能性がある。
「26 上海のトイレで考えた」や「中国旅行記(7)トイレット・ペーパー」にあるように、中国ではトイレットペーパーは丁重に扱われている。大衆の圧倒的多数はトイレットペーパーとは縁が薄い。紙消費5倍の韓国ではどうだろうか。昔の日本のように家庭でテッシュペーパー代わりにも使われ、かなり一般化しているようだが、「東国大学/留学生マンスリーレポート」にはこうある。「トイレットペーパーは、各個室についている所は少なく、入り口に大きいロールが一つかかっており、それを、必要な分だけ取って、個室に持って入ります。もし足りなかった時は、大声で誰かに頼み、トイレットペーパーを取ってもらうか……」中国大衆がこのレベルに到達することは無いのかもしれない。
中国では紙不足から新聞や雑誌がしばしば発刊停止を命じられる。毎年、学校の教科書を印刷する時期になると大騒ぎになるという。文書の電子化にしか、当面の抜け道は見えない。「第38回 熱気溢れる装置 中国の突出した電子出版事情」(2002)は「中国の大学では電子出版学科の新設が続き,増大する市場に向けてDTPオペレータやマルチメディアクリエータの養成が進んでいる」と報告している。でも、私としてはソフトウエア・コピー天国の中国で電子化本がコピー禍から逃れられるのか、かなり心配である。田舎の情報弱者にはやはり紙だろうし。
【参考資料】
☆インターネットで読み解く!第156回「失敗国家ランクと紙消費量のぴたり」
☆インターネットで読み解く!第4回「紙資源・千倍の落差」
☆紙の神・蔡倫も悲嘆する中国「紙」事情
☆日本紙パルプ商事・紙の知識と紙に関するデータ