第156回「失敗国家ランクと紙消費量のぴたり」

 その国の紙の消費量が文化や教育に限らず、経済や政治の状況まで示すバロメーターになると言われる。先日、ある作業中に1999年に書かれた「Language Observatory」にあるエッセイ「穏やかなミャンマーの友人の怒り」を見つけた。アジア各国の紙消費量についてユネスコの統計からデータを引いて「ユネスコが集計しているのは包装・梱包やトイレ・化粧用といった用途を除く、印刷用紙および筆記用紙に限っての数字である。消費量が最低である北朝鮮やラオスの紙消費量は国民一人当たり55〜60g。A4コピー用紙一枚の重さは約4〜5gであるから、北朝鮮やラオスの国民一人当たり筆記・印刷用紙消費量はA4コピー用紙換算で年間12枚程度である。同様の計算をすると、カンボジア15枚、モンゴル30枚、ミャンマー80枚、ベトナム250枚、インド400枚となる。ちなみに日本全体の平均値は113sであるから、A4換算では2万枚を超える」と記述していた。興味深いが、原データはかなり古そうだ。

 紙消費量についてここまで用途を分けた統計は見たことがなかったので、ユネスコ統計から出来ればもっと新しいものを引き出したいと試みた。残念ながらネット上では無理だが、米国のシンクタンクが運営する「EarthTrends」で「paper consumption」を検索すると、世界各国の1人当たり紙消費量を1961年から2005年まで年ごとに一覧させてくれると知った。

 「失敗国家」という言葉を聞かれたことがあるだろう。国家として統一する軸が国民から失われ、行政・警察などの組織も崩壊して国の体(てい)をなさなくなる。ダルフール紛争で有名なスーダンが最近の酷い例だ。フセイン政権を打倒した米国が無理を通して支えているイラクもだ。「failed state」という英語ずばりのランキング「Failed States Index Scores 2007」が社会・経済・政治12指標を10点満点で採点し、合計点の上位から並べている。これと各国1人当たり紙消費量がどれくらい相関するのか見たいと考え、2005年分から数字を拾って当てはめた。その世界177カ国一覧が以下だ。ちなみに紙消費の世界平均は1人当たり54.48kgだった。  世界平均を上回る72kgのレバノンが28位にいる点は例外的であり、中東地域の複雑さゆえで、お気の毒としか言いようがない。しかし、総じて「ぴたり」の印象だ。インデックスは指標計90点以上を「警告レベル」、60点以上を「注意レベル」と設定している。紙消費量の分かれ目からみると「51位、85点のベラルーシ34kg」から下の国は充実しており、80点台後半の国の並びを見ても85点を警告レベルとしても良いと感じた。

 失敗国家群について10年前、1995年の紙消費量と比べてみた。  スーダンやイラクでさえ紙消費は伸びている中で、消費を減らし、かつ0.02kgと極端に少ないアフガニスタンが目立つ。治安どころでないソマリアも極小の横ばいだ。アフガニスタンの数字はタリバン掃討に部隊を送り込んでいる西側各国の説明とは裏腹に、民生の安定は進むどころか退歩していると疑わせる。0.02kgでは公的な文書すら確保していないかもしれない。

 注目の成長センター「BRICs」はどのあたりにいるだろうか。  いずれも「注意レベル」の国で、インドを除いて紙消費社会が既に立ち上がっている。インドは最大人口の民主主義国なのだが、貧富の差は極めて大きく貧しい階層が巨大だ。この紙消費量では多くの子どもたちは勉強にノートなど使えないはず。それでも間もなく世界平均に迫ろうとしている中国をはじめとしたBRICsが大量消費に入る時代を考えて置かねばならない。このテーマでは少し前に「近未来中国が呼ぶ紙資源危機を考える [ブログ時評27]」を書いている。

 【続編】2010…第197回「続・失敗国家ランクと紙消費量のぴたり」