原発震災の可能性を裁判所が認めた [ブログ時評52]

 原子力発電に反対する人たちの間でも「原発震災」は最近になって使われるようになった言葉である。北陸電力の志賀原発2号機(出力135万キロワット余り)に対して、金沢地裁が運転差し止めを命じた判決は、原発震災の可能性を認めたものだ。読売新聞3月25日付け社説は「科学技術を否定するものだ」と見出しでびっくりさせたが、最後まで読むと耐震設計審査指針が時代遅れになっていることは説明し「政府の原子力安全委員会は5年近く前から見直しを検討中だ。だが、専門家の間で議論がまとまらない。今回の判決はその隙(すき)を突かれた、とも言える」とし、何の事はない、科学技術の否定どころか、根拠ありではないか。

 「長年おぼろげながら抱いてきた不安と疑問。これは司法が的確な判断と根拠を持って答えた歴史的判決だ!」「ろくな見識もない僕でもここ10年余りに起きた想定外の巨大地震を思った時、国の安全神話への疑問はつのる一方」と「驚き!原発停止命令!」(ネイティブの足跡)は賛同している。もちろん「行政の裁量範囲にまで立ち入って」と非難する人もいる。しかし、この問題での国側の瑕疵(かし)は大きい。

 独自補強に入った中部電力を除く電力各社も内心では、新しい耐震設計審査指針が決まれば相応の補強工事をする覚悟はしているはずだ。新しい指針が決まらないから、どれだけの上積み補強をすべきか判断できないでいる。だから最新型で、運転を始めたばかりの志賀原発2号機ですら、基準は現行のままだ。「しんぶん赤旗」の「志賀・運転差し止め判決 全原発への警告」に、「S1(設計用最強地震)」と「S2(設計用限界地震)」を超える地震が女川原発で観測された例と、各原発の耐震設計で用いられている地震の強さ一覧表がある。30年以内に起きると想定されている宮城県沖地震よりも小さな昨年8月の地震で、女川原発のS1=250ガルとS2=375ガルが突破された。

 巨大地震、東海地震への切迫感から中部電力は、S1=300ガル、S2=450ガルでしかない浜岡原発1・2号機を止めて、1000ガルに耐えるよう補強することになっている。1月の中部電力プレスリリース「浜岡原子力発電所1・2号機の停止期間の延長について」で、「1・2号機は3〜5号機に比べ工事規模が大きいこと、および1・2号機共用排気筒建替えに伴う屋外施設の改造設計が必要なことから、工事着手時期が遅れる見通しです」とこれまで3年で終わるとしていた工事が5年間にも及ぶと発表している。これだけ長期に原発2基の運転を止めても必要な補強との判断がある。

 今回の判決を書いた裁判長は過去にも変わった判決を出している。そうであっても動いている商業用原子炉に、初の運転差し止め判決を書くのは大変なことだ。上に述べた現実の動きに加えて、国の地震調査委員会が原発に近い邑知潟(おうちがた)断層帯について「一体になって活動すればマグニチュード7.6程度の地震が起きる可能性がある」と報告したことなどが背中を押したのだろう。もう一つ住民が勝った、高速増殖炉もんじゅ控訴審判決でも裁判官は、3冷却ループの独立性が厚い壁で保たれる建前なのに、0.5気圧の水素ガス爆発で吹き飛ぶ鉄のドアで仕切られている現場を見て、安全審査に問題があるとの心証を形成した可能性が高い。本質的に臆病な裁判官を踏み切らせるには、いくら論理を重ねるより、現実の重みが必要である。

 東海地震で迫る原発震災の危険を訴えているグループの一人で、かなり勉強をしているらしい「SENZA FINE」が「志賀2号は、わりと耐震設計なのだ!」で面白い見方をしている。「志賀原発2号というのはABWR=改良沸騰水型原子炉です。何が『改良』されたかというと、一番大きいのがまさに『耐震性』なのだと思います」「そのABWRが『地震の想定が過小』ということで停止判決を喰らうというのは皮肉なものです」「浜岡原発は5号機がABWRです。稼働中の従来型BWRである3号と4号はぜったいに止めないといけません」「この2つは地震の無いアメリカの設計をそのまま踏襲しているのです」

 絶対に起きてもらっては困る原発震災。この判決が大きな警鐘になっていることは間違いない。

【参考資料】
原発:電力会社と国の常識外れ [ブログ時評16]
第130回「もんじゅ判決は安全審査を弾劾した」