団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

子供が科学に関心を持てない日本の悲劇  [ブログ時評86] (2007/12/09)

(「ブログ時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 経済協力開発機構(OECD)による2006年・国際学習到達度調査(PISA)の結果が公表され、2003年調査で読解力の順位が落ちてショックを与えたのに続き、今回は数学と科学の応用力(リテラシー)まで地滑り的に低下、世界のトップクラスに属するとは言えなくなった。参加国が増えた点などを取り上げて、必ずしも日本の学力が落ちたと言えないと抗弁する向きもあるが、理科学習への関心や意欲を尋ねたアンケート結果はそれを吹き飛ばすものだった。毎日・朝日両紙によると「役立つ」や「将来の仕事の可能性を広げる」など動機付けの関わる項目でOECD諸国平均より14〜25ポイント低く、科学についての読書、番組視聴、記事閲覧が参加57国・地域で最下位だった。

 2000年調査から日本の順位を並べると、「読解力」8位→14位→15位、「数学」1位→6位→10位、「科学」2位→2位→6位。読解力で韓国、数学で台湾、科学でフィンランドがそれぞれ1位になっている。文部科学省の「国際学力調査」ページには、過去との比較や上記アンケート結果の発表部分が無く不満だ。前回結果発表で「ゆとり教育」で学習内容や授業時間数を大幅削減したことに批判が集まり、既に元に戻す方向に舵はきられているのだが、今回結果を受けてさらに前倒しする勢いになった。

 「PISAの結果をどう考える?」(大学プロデューサーズ・ノート)は「実際、今回の結果については、『授業時間を減少させたことが原因だ』と論じているメディアも非常に多いです。ただ、興味深いことに、今回も栄えある一位となったフィンランドは、日本よりも学習時間が短いんです」と指摘する。必修の指導時間(平均値)は次のようだという。
        日本   フィンランド
   7〜8歳 707時間  530時間
   9〜11歳 774時間  654時間
   12〜14歳 869時間  796時間
 そして、良質の教師をそろえ落ちこぼれが出ないように努力しているフィンランドに対し、日本の事情は違うとする。「日本の小中学校教員の労働時間(授業以外の事務も含む)は世界トップクラス。教育現場にはあまり余裕がないと聞きます」「ただ授業時間だけを増やしたら、かえって『たくさんの子が置き去りになり、それを教師がフォローできない』という、フィンランドとはむしろ逆の環境に繋がってしまう可能性もありますが、どうなのでしょうか」

 「応用力低下の元凶は日本社会自体の問題だ」(べそかきpaintboxの言いたい放題)は体験を交えながら理系冷遇社会が元凶とする。「日本の現代社会で、活躍して名前がマスコミに踊っている人たち、そして高給を得ている人たち、のほとんどは文系の人です。理系の人間で、多額の特許報酬を求めれば、青色レーザー発光ダイオードを開発した中村修二さんのように、特許はおまえ一人の努力ではない、などと言って袋叩きにするのです」「私のように国産OS、国産CPUの開発を目指して、連日徹夜の努力を続けた人間の行き先は、離婚して最愛の子どもと生き別れ、いくら国産のITビジネス振興を訴えても誰も振り向きもしない。これでいて高校生に理数系を目指せ、と言う方が無理ですね」

 「12月5日(水)PISAの結果発表」(校長日記)は「『理系への夢』が日本の子供たちにはあったと思う。どうしてこのようになったか?」「手っ取り早く『お金をいっぱい稼げる仕事』『アルバイトに精を出し』『しんどいことはいややねん』『楽しいことがしたいねん』『数学知ってなんの役に立つの』等々、『製造業や科学技術の世界から離れたところに子供を追いやったら日本は終わり』だ。額に汗し、手を使って物を作る喜びを感じさせてやりたい。大学の工学部で学び鉄鋼会社で物を作る喜びで人生を過ごしてきた私だけに、なおさらそのように思う」と書くのだが、子どもたちの心に響くかどうか。

 理系冷遇について「青色LED和解で理系冷遇は変わるか [ブログ時評07]」などで分析してきた。データが古くなったので、人事院「民間給与の実態」を使って2006年ベース、企業規模500人以上で文系・理系の幹部の平均給与月額を並べてみる。

  平均給与月額(企業規模500人以上。ボーナス含まず)
        44−48歳   48−52歳   52−56歳  
  支店長   748,508円  779,207円  775,261円
  事務部長  717,250円  748,124円  761,504円
  事務課長  602,360円  609,667円  617,661円
  工場長   611,446円  725,078円  750,205円
  技術部長  654,825円  694,189円  718,234円
  技術課長  590,206円  607,898円  614,505円

 これは毎月決まって支給される額でボーナスは含まない。ほぼ同格と思われる事務部長と技術部長の間で、給与格差が5万円前後とはっきりしている。これでも10年前のデータを使った上記の連載記事の表よりはぐんと縮まっているのだ。同じような規模の企業に勤めてこの文理格差になる原因は、日本の製造業が薄利多売に走った創業期体質から脱出できず、いつまでも利益率が低いからだと考える。それはまた、国内で同業メーカーがひしめくからでもある。そうした日本メーカーの体質・行動は世界規模で歪みを生じ、科学技術立国の次代を担う子供たちをして科学に関心を持てなくさせる悲劇につながる。ケーススタディとして第151回「日本の自動車産業は世界を幸せにしない」(改)を挙げておく。



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