第159回「メタボリックS健診は男性短命化政策」 (2008/05/06)

(「BM時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)健診の案内が届き始めました。こうした「特定」健診の受診率や保健指導、その減少効果に照らして、責任を負う医療保険者から後期高齢者医療制度への支援金がプラスマイナス10%の範囲で増減されます。罰則付きの国民健康増進政策に見えるでしょうが、蓄積された医学調査データからは明らかに「男性短命化政策」なのです。陰謀説は好まないところですが、医療保険制度の崩壊を食い止める意図が隠れていなくもないと感じます。

 まず発表されたばかりの「平成18年 国民健康・栄養調査結果の概要」34ページで、どれくらいの対象者がいるのか確かめましょう。健診対象40〜74歳の男性はメタボリックシンドロームが強く疑われる者24.2%、予備軍27.1%と、これで過半数になってしまいます。同世代の女性では合わせて2割程度しかありません。診断の基準は腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上であることに加えて、血中脂質、血圧、血糖値の3項目で異常2個あれば強い疑い、1個で予備軍です。


 この診断基準は男性の太り過ぎに極めて神経質です。身長170cm、体重67kg弱の私の腹囲が85cmです。85cmは日本人中年男性の腹囲平均値と言われており、それが基準になっているのですから男性の過半数が疑い対象になって当然です。それではちょっとした太り過ぎが、そんなに体に悪いことなのでしょうか。茨城県が10年間、40歳以上の10万人近い県民を追跡した調査があります。「健診受診者生命予後追跡調査事業報告書」の16ページから、肥満・痩せの指標として使われる「ボディマス指数」BMI値(体重kgを身長mの二乗で割った数値)で分けた、全循環器疾患死亡のリスクを見ましょう。


 BMIが23.0〜24.9、身長170cmなら体重が66〜72kg程度の人の死亡リスクを「1」として肥満と痩せでの危険度が描かれています。男性についてBMIが21.0を割ると(身長170cmなら体重60kg割れ)「1.4」「1.6」と危険度が高まります。体力がなく免疫力が弱くなると考えられます。太る方はどうでしょうか。BMIが27.0(身長170cmなら体重78kg)を超えると危険度は「0.8」に下がってしまいます。30.0(同体重87kg)を超えるとさすがに「1.8」に激増しますが、男性の小太りは死亡全体からみてもプラス要因です。女性とは明らかに違う様相です。男女共通でハイリスクであるBMI30.0以上こそ、欧米でメタボリックシンドロームが問題と言われる領域で、日本のそれは場違いです。

 では全死亡に対して何が寄与しているのでしょうか。上田耕蔵さんというお医者さんが講演録「なぜ今、メタボリックシンドロームなのか?」で茨城県のデータを集計し直してくれています。以下がその「全死亡に対する各リスク因子の寄与率」です。

 男性……喫煙24%、運動不足13%、やせ5%、肥満5%、アルコール4%、高血圧8%、高血糖2%、ストレス13%、その他26%

 女性……喫煙9%、運動不足14%、やせ5%、肥満7%、高血圧5%、高血糖2%、アルコール0.1%、ストレス13%、その他45%

 何と言っても男性で24%も占める喫煙を放置した健康管理はあり得ないのですが、この連載第71回「新・たばこをめぐる日米の落差」などで指摘した通り、厚生労働省は腰が引けたままです。今回のメタボリックシンドローム騒ぎで喫煙問題はますます影が薄くなってきました。

 「●メタボリックの背景に何がある?」の節で上田さんも「本命は薬剤メーカーの仕掛けと思われる。高コレステロール血症が見直されつつあるのを受けて、新しい病気の創設が必要となった」とし、「たばこ産業は国民の関心がメタボリックにそらされることを期待しているだろう」と付け加えています。

 手を着けるべき最も大きな死亡要因「喫煙」を放置し、プラス面が大きい小太りは排除しようというのです。もっと言えば「肥満が諸悪の根源だ」と心理的圧力を掛けて、ストレス面からも中高年男性を叩きたいのかも知れません。メタボリックシンドローム健診は医療費削減に寄与することになっています。しかし、早期発見・早期治療で高齢者が長生きしたとして、最後に残るのはガンと、介護の手間を掛けた末の老衰です。将来まで含めたトータルの医療費が減る可能性は少ないでしょう。高齢者が増え続ける中で医療保険制度を守るには短命死を増やすのが一番――科学的データで翻訳すると、厚生労働省の政策はそう言っています。

※関連=メタボリック症候群を冷静に眺めよう [ブログ時評64]



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