大飯再稼働で福井県『ちゃぶ台返し』で粘る [BM時評]

 関電大飯原発再稼働に向けた細野原発相の福井県訪問が週明けの4日以降に遅れています。関西広域連合の了承を「騙し」で取り付けた野田政権には意外な展開でしょうが、福井県には「ちゃぶ台返し」をして粘りたい真っ当な理由があるのです。マスメディアは再稼働の期間限定問題が焦点と報じていても、問題の核心は土壇場になって政府が関西広域連合に妥協して新安全基準を暫定基準に格下げした点にあります。福井県原子力安全専門委員会が週明けにも「安全が確認できた」と答申するとメディアが報じた直後に、新安全基準が暫定基準におとしめられたのです。

 時系列を追うと、毎日新聞≪大飯再稼働:福井県専門委「安全」追認 知事決断へ≫など、福井県側リークらしい観測記事が出たのは5月30日の各紙朝刊でした。この日に鳥取であった関西広域連合の会合で細野原発相が原発再稼働のための新安全基準を暫定基準であると格下げし、「大飯再稼働の稚拙な仕掛け、橋下流の限界見た」で指摘したドタバタ劇が始まりました。

 政府が再稼働の新安全基準を暫定基準に格下げすると聞いて、需給逼迫の夏場限定運転を望んだ関西広域連合は稼働オーケーを出します。それを逆手にとり了承を得た点だけ吸い上げ、再稼働が動き出しました。今後の原子力規制は国会審議中の独立性が高い新規制組織に委ねられますから「先のことは新規制組織任せで、期間限定など知らない」と枝野経産相は突っぱねました。

 どうしてもこの夏を原発稼働無しで乗り切っては困る「原子力ムラ」の意向を体現している経産官僚の気持ちはわかりますが、この第一段階の「騙し」で梯子を外されたのが福井県原子力安全専門委ですし、西川知事でしょう。「新安全基準は想定外を隠れ蓑にする欠陥品」で指摘しているように、従来の原子力行政の読み方をすれば、問題点を無視できるように新安全基準は出来ています。

 福井県の専門家もその流れに乗るつもりだったはずです。ところが、「実は不完全な暫定基準だ」と突然、言われたら、専門家としてどのように県民に説明したらいいのでしょうか。霞が関周辺のご都合主義の学者と違って、住民に原発反対派が存在する福井県ではそれなりに対応してきました。「政府が言っていることだから十分です」とはとても言えない風土になっています。霞が関の原子力ムラ官僚にも、児童会役員風に言われたまま行動している細野原発相にもこの機微は理解できないようです。

 運転期間の限定など、既に枝野経産相が「13カ月フル運転だ」と公式に否定しているのですから問題ではありません。万全の安全基準との前提で審議してきた福井県側が暫定安全基準に落ちて整合性を保てるのか。政府がここで福井県側の意向に配慮しすぎれば、「橋下市長『民主政権倒す』を撤回 大飯再稼働巡り」(朝日新聞)で≪橋下徹大阪市長は、再稼働は妥当と判断した民主党政権を「倒すべきだ」とした4月の発言について、「暫定的な基準が認められ、前提事実がなくなった」として撤回する意向を示した≫とまで言っている関西側との軋轢が再燃します。

 正式基準か暫定基準かは主導権がどこにあるかに響いています。もちろん福井県には「原発地元」の範囲に滋賀県や京都府を割り込ませて、既得権益を失いたくない地域エゴも背後にあります。この際だから国に要求したい案件もあると見られます。

 もう一度最初から審議し直しを要求して引き延ばしも可能です。基準を政治駆け引きで格下げしただけで、暫定基準とするきちんとした理由や、暫定で足りない点があっても安全であるとの説明さえ政府はしていないからです。そもそも論で言えば、関西広域連合が指摘しているように、現行法で安全のお目付け役である原子力安全委が新安全基準を了承していないのです。

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