定額音楽配信サービスで音楽産業は持ち直すか [BM時評]

 2012年にCDなどの売り上げが14年ぶりに下げ止まった国内の音楽産業が、今年は反転上昇を本格化させるかも知れません。急速に細る一方の音楽配信が、聴き放題サービスの立ち上がりで息を吹き返しそうなのです。業界内で商売上の勝ち負けはあるでしょうが、著作権法による締め付けの話題ばかりで嫌になっていた一般の音楽好きにとっても久々の「春」になるのではないかと思えます。「2012年世界音楽売り上げ、13年ぶりに増加」とあるように世界と同期していたことも判明しました。

 《世界約1400社のレコード会社が加盟している国際レコード産業連盟によると、2012年の世界音楽売り上げは前年比0.3%増の165億ドル(約1兆5000億円)だった。小幅ながら売り上げ増に転じたことは、衰亡に向かっていると思われながらインターネット上での著作権侵害と戦ってきた音楽業界はほとんど歌を歌い出したくなるほどの結果だろう》

 世界規模で見るとデジタル音楽のダウンロード販売などが成長してCD販売減少を補う形です。しかし、国内は携帯電話(いわゆるガラケー)向け「着うた」などダウンロード販売で先行していて、スマートフォンの急速普及で逆に市場が縮小してきました。第328回「違法ダウンロードが霞む音楽業界の末期症状」で描いたように前年比で7割、8割とつるべ落としになっています。もちろん、売る音楽の中身にも問題を抱えています。

 海外で広まっている聴き放題の定額音楽配信サービスが、この3月、ようやく国内でも本格的になります。内外の楽曲1300万曲提供をうたうソニーの「Music Unlimited」が3月1日から月額980円(旧料金1480円)に引き下げ、アクセスするとサーバーの混雑が分かるほど混み合っています。国内各社が「着うた」に代わる存在として、J-POPを中心に100万曲提供する「レコチョクbest」も3月上旬スタートがアナウンスされています。こちらも月額980円です。スウェーデン生まれのスポティファイなど海外勢の日本進出の噂で、国内各社が背中を押された格好です。

 「Music Unlimited」に登録して半日ほど遊びました。レコードやCDをよく買っていた時期にも無制限に買えていた訳ではありませんから、好みのアーティストで買おうか迷ったアルバムがいくらでも転がっている状態は、確かにチャーミングです。インターネット上に無料の音楽ソースは増えていますが、そうした間に合わせアイテムと、自分の嗜好に合う音楽とは別物です。アンドロイドのモバイル機器で4000曲まで持ち出せるので、買ったのと実用上は変わりません。

 CDレンタル屋さんで見つかる可能性が無いアルバムが多数あることも確認しました。最近、クラシックやジャズなど古いCDを10枚、20枚と束ねたセットが1枚2、3百円くらいで売られていますが、月額料金を考えると自由度が大きい定額配信にしたくなります。オペラ歌手マリア・カラスのアルバムになると483枚にも上っていて、逆に選ぶのに困る状態です。ネット検索を併用して中身を調べながら聞かないと時間の無駄になるので、試される方はご注意下さい。「Music Unlimited」の検索機能はやや貧弱なので、アーティスト名などスペルはネット検索で確認してから入力するのが結局は早道です。

 なお、定額制サービスは音楽以外にも広がる傾向にあります。映画やドラマ1万本以上見たい放題の動画配信サービス「HULU」(フールー)も月額980円に値下げして加入者を増やしています。携帯電話各社は音楽や動画、あるいは電子書籍を組み合わせた定額サービスを立ち上げています。

 ※注:「Music Unlimited」では高音質モード「HQ」にする方が音楽鑑賞にはベターです。画面右上「プレミアムユーザー」をクリックして「設定」を出して高音質モードをオンにしましょう。

 【参照】第127回「音楽産業は自滅の道を転がる」(2002)
     第185回「音楽不況に追い打ち、ネット配信もダウン」 (2009)
     ソニー「Music Unlimited」
     「レコチョクBest」
     「スポティファイの使い勝手と日本進出の可能性」
     《「e-onkyo music」に聞く、ハイレゾ配信の広がり》
     動画配信「HULU」