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第347回「無傷で終わる可能性が十分あった福島原発事故」 (2013/03/08)

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(「Blog vs. Media 時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 2年前の大震災、福島原発事故対応が後手に回り続けるのを大阪の自宅から見守り、政府の司令塔はどうした、米国なら規制委が仕切るのにと思った疑問が氷解です。頭脳の結集どころか知恵も全力も尽くしていません。原発の過酷事故を想定する体制が整っていなかった愚かさは脇に置きましょう。準備不足でも空前の危機に直面し、原子力という巨大技術に携わってきた者として個々人の知恵をしぼる、出来ることは全てやるのは当たり前です。JBpress(日本ビジネスプレス)で連載中の『元原子力安全委員会委員長、班目春樹氏の証言』に接して、勝てるはずがない戦だったと理解しました。組織も個人もこんな構えしかできないなら、いくら安全設備を増強しても次の危機にも勝てません。

 連載1回目の「班目氏が認めた事故対応の失敗」で一番のショックは、原子力安全委が福島第一原発の図面を持っていなかった点です。5ページ目に「本当に概略図しかないのです。一応、熱交換機とポンプとが線でつながっているような感じのものはあったが、知りたかったのは、例えば非常用ディーゼルがどこにあるかとか、そういうことなのです。記憶ではタービン建屋の地下だとは知っていましたが、増設したものがどこにあるのかとか、そういうことが分からない。津波でやられてますから、どの程度やられているのかという話と、どういう所に何があるかということを、しっかり押さえたかったんですよ」とあります。これ無しに適切なアドバイスは出来ません。

 原発の安全審査を担当している役所が、機器の実際の配置が分かる図面を持っていない驚愕の失態をここでは問わないとして、班目氏は実情に即した問題意識はあるものの情報不足を補うことなく首相官邸に向かいます。事故対応の中核は原子力安全・保安院で、安全委は助言役です。保安院はどうでしょうか。

 連載2回目の「誤解して抜け出せなくなった班目氏」の3ページ目です。「これは私の生の記憶ではないのです。が、絶対確かなのは、到着するなり平岡さん(注:原子力安全・保安院次長の平岡英治氏)が助けを求めに来たこと。そのあと総理執務室に連れていかれるんですよ。そして行ってはみたものの『武黒さんがもうすでにやっている』ということで『もう私の出る幕ではない』というので、さっと引っ込んだということらしいんです」

 地震と津波で全交流電源喪失の事態に、東電の石黒フェローが電源車の派遣を要請して保安院は係り切りになったようです。ところが、電源車が大震災でがたがたになった道に難渋して福島第一原発サイトに着いてから判明した手違いは、接続するべき電源盤も非常用発電機同様に海水が満ちた建屋地下にあり、使えません。保安院も機器配置が分かる図面を持っていなかったのか、事前に確認する知恵がなかったかのいずれかです。電源車を要請してきた東電本店にはさすがに図面はあったはずですから、東電には知恵は無かったと考えざるを得ません。

 かつてない危機ですから、原子力取材が長かった私は当然、以前に取材したような専門家の頭脳を集めて対処するはずと考えました。ところが、専門家の非常招集がされないばかりか、初期の段階では班目氏ひとりの頭脳さえ生さなかったのが実情です。図面と見比べて電源盤が接続不能と早く判断できれば、重量級の電源車派遣は無意味です。切れている直流電源を補うためにクルマで使うバッテリーを10個か20個、かき集めて届けるのが最も有効な早道であり、1号機でほとんど働かなかった最後の命綱装置「非常用復水器」のバルブ操作を可能にして動かせたでしょう。遠路派遣する電源車と並行実施でもよい救援措置であり、班目氏個人は直流電源は存続と誤解しつつも電池切れを心配していました。ただ、保安院に進言していません。

 政府や国会の事故調より早かった米国の報告書をもとに2011年11月に第288回「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」を書きました。1号機は救えない前提でしたが、その後、非常用復水器を起動さえしていれば冷却水の補給体制が出来ていたので長い時間使えた可能性が明らかになっています。東電の愚かさには運転員に非常用復水器の使用経験が全くなかった大ポカが加わるものの、政府の司令塔で出来ることが尽くされれば、全く違った無傷の結末になっていたのです。

 【参照】インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー

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