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吉田調書など証言、批判派学者に見せてこそ価値 [BM時評] (2014/05/25)

(「Blog vs. Media 時評」に同文掲載。コメントなどはそちらに)

 朝日新聞による福島原発事故・吉田調書の暴露が話題になっています。ウェブでの展開まで力が入っているのは認めつつも内容的には消化不良です。証言類は公開し原子力批判の専門家に見せてこそ値打ちが生まれます。政府に巣食っている「原子力ムラ」が公開を阻んでいるのは、公になっていない想定外のストーリーが解読されてしまうのを恐れるからでしょう。政府事故調は個人責任は問わない前提で聴取し、その後の検察の捜査も責任追及を諦めました。証言は公共の財産であり、もう隠しておく理由はありません。全てをウェブアーカイブとして国会図書館で公開すべきです。改めて申し上げたい――『福島原発事故、国家として原因不詳でよいのか』と。

 吉田調書などが闇に葬られた経緯を《原発事故調、当初は開示方針 吉田調書など全772人分》はこう伝えました。《政府事故調は聴取前の2011年7月8日に「ヒアリングは原則として非公開かつ少人数で行う。相手方が公開を了承している場合は、適宜の方法(マスコミへの公開またはこれを前提とした録画等)で行う」と申し合わせた。非公開で聴取した場合の調書の扱いについて、「供述者の特定につながる部分および供述者が非公開を希望している部分については開示しない。必要な範囲で開示する」としていた。実際には聴取も調書もすべて非公開》

 「吉田調書は全7編で構成されている。総文字数はおよそ50万字。A4判で四百数十ページに上る」中から特報シリーズはつまみ食いしています。大きな欠点は吉田所長の言い分だけを追いかけているために、津波襲来から事故が拡大して深刻な事態になった全貌が見えない点です。

 例えば最初に炉心溶融した1号機にあった、電源喪失時にも作動する非常用冷却システム「非常用復水器」についてです。《吉田氏、非常冷却で誤った対応 「思い込みがあった」》はこうです。《吉田氏の聴取を記録した「吉田調書」によると、中央制御室の運転員が11日夕にICの機能低下に気付き、冷却水不足を疑って吉田氏のいる緊急時対策室へ伝え、軽油で動くポンプで水を補給するよう促した。だが、吉田氏はICの仕組みを理解していなかったため、「水の補給」が機能低下のサインと認識できず、ICが機能している間に行う「原子炉への注水準備の継続」という指示しか出さなかった》

 事故進展の決定的大状況から外れること著しいと評すべきです。非常用復水器が作動するには原子炉からの蒸気が通る弁が開かれねばなりません。全電源喪失状況では弁を運転員が手動で開きに行かねばならないと製造元の米国で判明し、この情報は東電にも通知されたのですが、どこかで握りつぶされて現場には届きませんでした。このため現場は非常用復水器が自動的に動くと思い込んでいたのですが、3月11日夕刻、クルマからバッテリーを外して来て直流電源として接続すると弁は開いておらず、始めて弁を開きます。ここで吉田所長に中央制御室から問い合わせが行ったのです。

 交流電源が落ちても直流電源のバッテリーは8時間は維持されるはずでした。ところが、直流電源も非常用発電機と一緒に津波に襲われた建屋地下にあったために使えませんでした。夕刻まで中央制御室は原子炉のパラメーターが全く見えず、やむなくカーバッテリーを持ち込んだのでした。お粗末なことに訓練でも非常用復水器を使った経験は誰にもなく、動作に不審を持った運転員が動き出した非常用復水器の弁を間もなく閉じてしまいます。動かし続けていれば、半日程度は炉心冷却を維持できたはずであり、さらに水を補給すればもっと時間が稼げた――炉心溶融は無かったかもしれない福島原発事故最初の分岐点について、吉田調書シリーズの筆者たちは理解していないと見えます。

 新聞記者が拾い読みする程度では無理なのです。批判グループの専門家や原発の知識を持つ人たちに広く開示すべきです。「大本営発表報道」と批判されて当然だったと、当時の皮相な報道ぶり、ポイントの外れぶりが吉田調書のあちこちから見えてきます。

 【参照】インターネットで読み解く!第300回「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」

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