第511回「科学技術立国さらに打撃、大学淘汰で研究職激減」

 先進国で稀な研究論文数の減少・大学ランクの退潮と科学技術立国が危ぶまれる事態の中、間もなく18歳人口減少で大学淘汰が起きます。政府の失政による若手研究者のポスト不足に、研究職激減の大波が加わります。2018年以降の大学淘汰時代が見えやすいよう、文部科学統計要覧・学校基本調査など公開資料からグラフを作りました。平成に入った1989年から2024年まで35年間の18歳人口の推移と、2015年までの4年制大学進学率の実績です。  18歳人口は団塊ジュニア世代がピークを作った1992年に比べると半減する勢いで減っています。2024年以降さらに18歳人口減は加速しますが、2024年に限っても2015年から14万人も減ります。大学進学率は男女合計で51.5%と頭打ち状態になり、これから伸びる余地はほとんどありません。減少分14万人の半分、7万人が大学に進まなくなると仮定して、現状に比べて学年定員1000人の大学が70校も不要になる計算です。10年もせずに起きる大変化です。

 現在でも私立大学の100校ほどで定員充足率が8割を切っています。こうした大学を中心に閉校と大学規模の大幅縮小が急速に進まざるを得ません。当然、多数の教員ポストが消えてしまいます。現状でさえ少ない若手研究者の就職先がなくなります。研究活動の基盤が損なわれるでしょう。

 研究論文数の減少や国際的な大学ランクの退潮については第500回「大学ランク退潮は文科省が招いた研究低迷から」第503回「国を滅ぼす機械的予算削減しか能がない財務省」で、国立大学法人化以降、自由を与えるどころか大学を締め付け続ける政府の失政であると論じました。

 この傾向は改善されるどころか、悪化の一途のようです。2016年度の予算編成について《国立大学の運営費交付金 17年度以降は毎年削減》が報告しています。2016年こそ交付金減額を一年停止したものの、《毎年、人件費など最も基盤的な経費にあてる基幹運営費交付金を約1%にあたる約100億円を削減》するルールが出来てしまいました。財務省の意向が通ったようです。

 《毎年削減される100億円の半分を「機能強化経費」に再配分するとし、残りの財源で設備整備むけの補助金を新設するとしていますが、これらは人件費などの基盤的な経費に充てることはできません。ある地方大学の学長は、「これでは教職員数を削減するしかない」と語っています》。財務省は大学教員は多すぎると認識していて、教育のためだけならもっと減らせる、研究活動は一部の優れた大学に集中すれば十分と考えているようです。

 毎年のように日本がノーベル賞の科学部門受賞者を出しているのは、大学の研究活動が自由で伸び伸びしていた時代に拾い出されたタネが芽吹いた結果です。国内の研究者は「たこつぼ型」と称されるように視野が狭いのですが、自分のフィールドを職人的に追求する作業は地道にやってきました。そうした職人仕事ピラミッドの上に現在の科学技術立国は築かれているのです。

 本当に研究を効率化するには職人から研究者になってもらう必要があります。第145回「大学改革は最悪のスタートに」〜急務はピアレビューを可能にする研究者の守備範囲拡大〜で論じた研究者の体質改善しか道はありません。現状を放置して「優れた研究者」にだけ資金を集中する文部科学省の手法が失敗に陥ると断言できる根拠は、学閥的権威に依存して優れているかどうかを判断するしかないからであり、欧米のような真っ当な研究評価が出来ない体質だからです。これでは「選択と集中」が成功するはずがありません。

 こうした政策的な錯誤の上に、さらに人口減という社会的な変動が加わり、科学技術立国は危機的です。防戦一方になっている大学側は余裕を失い、社会から求められる、現代にふさわしい人材供給の役割を果たしているとは言えません。