第518回「大津地裁仮処分は無責任化した規制委への弾劾」
運転中の高浜原発が大津地裁の運転差し止め仮処分で停止する事態になりました。これまでの経緯を知れば唐突な判断ではなく、原発再稼働の安全性に手抜きの姿勢を見せ始めた原子力規制委に対する司法からの弾劾です。今回決定と同じ山本善彦裁判長によって2014年11月、「仮処分命令は、再稼働が差し迫っているという事情が明らかでなければならない」が「規制委がいたずらに早急に、新規制基準に適合すると判断して再稼働を容認するとは到底考えがたい」との理由で仮処分却下の決定がくだされました。しかし、同じ決定要旨で「田中俊一・規制委員長は、申し立て外の発電所の再稼働に関連し、新規制基準への適合は審査したが安全だとは言わないなどとも発言しており、発言内容は、新規制基準の合理性に疑問を呈するものといえなくもない」と極めて重大な疑問符をつけていました。
2015年4月に福井地裁が規制委審査をパスした高浜原発3、4号機の再稼働を差し止めました。第475回「司法の流れは逆流:裁判官が原発稼働を恐れる」で裁判官は《福島原発事故以前は判決で原発を止めて発生する経済損失の大きさに耐えられない思いがありましたが、事故から4年を経ても10万人以上が避難している現状を見れば、安易に稼働を許して重大事故が発生したら言い訳が出来ない思いになるはずです》と指摘した流れがあります。
この差し止め処分に対して関電は異議を申し立て、2015年12月に福井地裁は4月の判断をひっくり返してしまいました。「司法審査の在り方」は「裁判所が原子炉施設の安全性を判断する際には、原子力規制委員会の新規制基準の内容や、規制委による新規制基準への適合性判断が合理的かどうか、という観点から厳格に判断すべきだ」と福島原発事故以前の司法に帰っています。「厳格に」と称することで国の専門家の判断に委ねてしまう逃げを打ちました。「規制委の判断に不合理な点はなく、高浜原発の安全性に欠点はない」との結論でした。
福島原発事故以後の安全対策について、流れを知らない無知な裁判官です。大津地裁・山本裁判長は、田中規制委員長が再三言っていた「原発再稼働の前提として過酷事故時の住民避難計画が策定されなばならない」としっかり認識していたようです。『原発事故時の避難計画、具体化するほど無理目立つ』で福井の例を紹介したように困難であることをつかんでいました。2014年11月の段階で避難計画策定が遅々として進まないと見て、差し止め仮処分決定を急ぐ時期ではないと判断したのでしょう。
ところが、規制委側は最初の再稼働になった九電・川内原発で避難計画策定が十分でないと知りながら許してしまいました。新規制基準に対応するための安全設備の追加も審査合格から5年まで延ばしました。田中委員長による「基準への適合は審査したが、安全だとは私は言わない」発言まで飛び出して、司法の側は何を根拠に安全を担保できるのか困惑して当然になっています。
9日の大津地裁・決定理由要旨は「過酷事故対策について設計思想や、外部電源に依拠する緊急時の対応方法に関する問題点、耐震性能決定における基準地震動策定に関する問題点について危惧すべき点があり、津波対策や避難計画についても疑問が残る」とし、関電は福島原発事故を踏まえた原子力規制行政の変化や、原発の設計や運転のための規制がどう強化され、実際にどう対応したか主張・疎明を尽くすべきとしています。訴訟の当事者ではない規制委の「ぶれ」について不信の表明と考えます。
【3/10追補】朝日新聞が伝えた《高浜原発差し止め仮処分決定の要旨》から新規制基準と規制委への批判、国に注文した部分を引用します。
★過酷事故対策――関電は福島第一原発の安全対策が不十分だったと主張するが、福島の事故の原因究明は建屋内での調査が進んでおらず、今なお道半ば。同様の事故を起こさないという見地から対策を講じるには徹底した原因究明が不可欠だ。この点についての関電の主張と立証は不十分で、こうした姿勢が原子力規制委員会の姿勢であるなら、そもそも新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚える。新規制基準と各原発への設置変更許可が直ちに公共の安寧の基礎になると考えることをためらわざるを得ない。
★避難計画――関電の義務として直接問われるべきものではないものの、原発で事故が起きれば圧倒的な範囲に影響が広がり、その避難に大きな混乱が生じたことが福島の事故で認識された。国主導での具体的な避難計画が策定されることが必要で、避難計画を視野に入れた幅広い規制基準を策定すべき信義則上の義務が国にある。
2015年4月に福井地裁が規制委審査をパスした高浜原発3、4号機の再稼働を差し止めました。第475回「司法の流れは逆流:裁判官が原発稼働を恐れる」で裁判官は《福島原発事故以前は判決で原発を止めて発生する経済損失の大きさに耐えられない思いがありましたが、事故から4年を経ても10万人以上が避難している現状を見れば、安易に稼働を許して重大事故が発生したら言い訳が出来ない思いになるはずです》と指摘した流れがあります。
この差し止め処分に対して関電は異議を申し立て、2015年12月に福井地裁は4月の判断をひっくり返してしまいました。「司法審査の在り方」は「裁判所が原子炉施設の安全性を判断する際には、原子力規制委員会の新規制基準の内容や、規制委による新規制基準への適合性判断が合理的かどうか、という観点から厳格に判断すべきだ」と福島原発事故以前の司法に帰っています。「厳格に」と称することで国の専門家の判断に委ねてしまう逃げを打ちました。「規制委の判断に不合理な点はなく、高浜原発の安全性に欠点はない」との結論でした。
福島原発事故以後の安全対策について、流れを知らない無知な裁判官です。大津地裁・山本裁判長は、田中規制委員長が再三言っていた「原発再稼働の前提として過酷事故時の住民避難計画が策定されなばならない」としっかり認識していたようです。『原発事故時の避難計画、具体化するほど無理目立つ』で福井の例を紹介したように困難であることをつかんでいました。2014年11月の段階で避難計画策定が遅々として進まないと見て、差し止め仮処分決定を急ぐ時期ではないと判断したのでしょう。
ところが、規制委側は最初の再稼働になった九電・川内原発で避難計画策定が十分でないと知りながら許してしまいました。新規制基準に対応するための安全設備の追加も審査合格から5年まで延ばしました。田中委員長による「基準への適合は審査したが、安全だとは私は言わない」発言まで飛び出して、司法の側は何を根拠に安全を担保できるのか困惑して当然になっています。
9日の大津地裁・決定理由要旨は「過酷事故対策について設計思想や、外部電源に依拠する緊急時の対応方法に関する問題点、耐震性能決定における基準地震動策定に関する問題点について危惧すべき点があり、津波対策や避難計画についても疑問が残る」とし、関電は福島原発事故を踏まえた原子力規制行政の変化や、原発の設計や運転のための規制がどう強化され、実際にどう対応したか主張・疎明を尽くすべきとしています。訴訟の当事者ではない規制委の「ぶれ」について不信の表明と考えます。
【3/10追補】朝日新聞が伝えた《高浜原発差し止め仮処分決定の要旨》から新規制基準と規制委への批判、国に注文した部分を引用します。
★過酷事故対策――関電は福島第一原発の安全対策が不十分だったと主張するが、福島の事故の原因究明は建屋内での調査が進んでおらず、今なお道半ば。同様の事故を起こさないという見地から対策を講じるには徹底した原因究明が不可欠だ。この点についての関電の主張と立証は不十分で、こうした姿勢が原子力規制委員会の姿勢であるなら、そもそも新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚える。新規制基準と各原発への設置変更許可が直ちに公共の安寧の基礎になると考えることをためらわざるを得ない。
★避難計画――関電の義務として直接問われるべきものではないものの、原発で事故が起きれば圧倒的な範囲に影響が広がり、その避難に大きな混乱が生じたことが福島の事故で認識された。国主導での具体的な避難計画が策定されることが必要で、避難計画を視野に入れた幅広い規制基準を策定すべき信義則上の義務が国にある。