第529回「韓国のPM2.5測定対応に疑問あり、杜撰で過小では」

 韓国で大気汚染の測定や予測についてメディアから批判の声が巻き起こっています。PM2.5をめぐって中国から日本への影響をウオッチした経験から、中間にある韓国測定値は実態に合わないと疑問を提起したいと考えます。5月下旬には150マイクログラム/立方メートルを超える「非常に悪い」汚染が各地で発生、その予測が的確でなかった上に、汚染源として中国の影響をどれ位と見積もるべきかもはっきりしません。粒子状物質の成分を実測できる観測基地が少な過ぎるとの指摘もあります。しかし、測定値自体の信頼性が次に挙げるデータを比較すると揺らぎませんか。6/4の正午時点での日本気象協会(tenki.jp)のPM2.5分布予測と米国政府が測定結果をAQI指数にした汚染分布図です。
 PM2.5予測では最も汚染が酷い地域は北京付近であり、中国東北部から朝鮮半島に高い汚染域が下りてきています。ソウル周辺はかなり高い汚染と予測されています。ところが実際に測定された汚染分布を見ると健康人でも影響が出始める赤ランクの測定結果は1カ所あるだけです。AQI「161」ですからPM2.5で75マイクログラム/立方メートル相当です。

 中国・山東半島の付け根、山東省にも韓国と同じように汚染が南下しているので比べて下さい。こちらは赤がたくさんあります。予測と現実は必ずしも一致しませんが、比べれば韓国が手ぬるい感じを否めません。これまでにも中国の重篤大気汚染が日本国内に及ぼす影響を調べている際に、お隣、韓国の汚染は妙に軽いと感じたことが度々ありました。第477回「安全になれぬ韓国、手抜き勝手の国民意識が原因」で指摘したように関係各人がなすべきことをきちんとしているのか、疑われるのです。  では次に、この汚染状況を市民はどう入手するのかです。掲げたのは韓国環境公団「エアコリア」にある6/4の13時現在のPM2.5測定分布図です。17地区の過去24時間、地域ごとの平均値でしょう。数値は低く、最高値は「42」で残りは「12」から「36」の範囲にあります。旅行者にも参照が勧められているサイトですが、局地的に急速に悪化していく場合などには気づかないで困る事態も考えられます。個人的な意見として測定値が過小である可能性を考慮しておくべきなので、韓国旅行は大気汚染に要注意です。

 中央日報の《韓国、粒子状物質リアルタイム分析可能な測定所、全国506カ所中6カ所だけ》が体制不備を厳しく指摘します。中国からの流入分を見積もれないのはこの事情も大きいです。

 《国民がそれなりに粒子状物質予報を通じて知ることのできる情報は濃度だけで、どんな成分を吸っているのかを知る術がない。2010年以降、毎年高濃度の粒子状物質現象が繰り返されているにもかかわらず、このような情報無知現象は改善されていない。環境部の粒子状物質の予報正確度が60%水準にとどまっているのも粒子状物質の成分を測定できる施設が6カ所に過ぎないことと関連があるというのが専門家たちの指摘だ》

 朝鮮日報の《的中率5割のPM2.5予報に不信感、日本気象協会のサイトで情報を得る人も》も不信感を露わにします。

 《微小粒子状物質(PM2.5)や粒子状物質(PM10)に関する韓国環境当局の不正確な予報が、国民を困らせている。濃度が「悪い」レベルに上昇したときでも前日午後5時に発表された予報は「普通」だったり、逆に「悪い」と予報されても実際には「普通」レベルの濃度だったりと、誤報が続いているのだ。「韓国政府の予報は信じられない」と日本のサイトで予報を確認する国民が増えるなど、政府への不信も深まっている》

 日本よりも中国に近く、当然ながら重篤スモッグの影響が大きいはずの韓国でPM2.5のどれだけが中国由来なのか信頼に足る数字が言えないようなのです。第517回「重篤大気汚染がインド亜大陸全域で急速に拡大」でインドやパキスタン、バングラデシュの対策立ち遅れを取り上げました。それに比べれば観測網が整備されていると見える工業国、韓国の内情がお寒いのです。

【2016/07/02追補】ハンギョレ新聞が《韓国環境部、粒子状物質の管理基準に工場排出除外》で、韓国の工場排出規制は大きな0.5ミリメートルまでの粉塵全体での排出重量の規制に過ぎず、PM2.5のような微粒子の規制に対しては「ザル法も同然だ」と伝えました。