第556回「中印の電気自動車へ移行は大気汚染に逆効果招く」

 大気汚染悪化でワースト双璧になっている中国とインドが電気自動車への移行で切り抜けようとしています。しかし、両国とも石炭火力発電に頼っておりそこから生まれた電気を使うのでは汚染は悪化せざるを得ません。自動車のエンジンで直接生み出されるエネルギーに比べて、発電・送電さらに蓄電とステップを踏むたびにロスが生じ、さらに発電源が石炭では自動車による汚染よりも大気を汚して当然です。中国は電気自動車の世界シェアが3分の1に達してさらに拡大を狙い、インドは2030年までに国内で販売する自動車を全て電気自動車にする政策を発表しました。WHO調べの「PM2.5濃度が高い20都市ランキング」を以下に掲げます。  日本のPM2.5環境基準では「年平均で15μg/m3以下であり、かつ1日平均値35μg/m3以下」としていますから、年平均100以上ある都市など論外です。インドは首都デリーをはじめとした北部から10都市もランクインしています。中国は首都北京を囲む華北地域の4都市が並びます。北京の年平均は「85」くらいです。2016年の第517回「重篤大気汚染がインド亜大陸全域で急速に拡大」でインドと中国の汚染の動向を掲げました。2011年にピークだった中国はやや改善の方向に見えますが微々たるものであり、インドは北部はもちろん南部までも悪化の一途です。

 こうした中、6/5付の《大気汚染の影響による死亡数が世界2位のインド、2030年までに電気自動車のみ販売へ》(新電力ネット)がこう伝えました。

 《インド政府は、国内で販売する自動車について2030年までに全て電気自動車とする政策方針を発表しました。インドでは年間100万人以上がPM2.5の影響で死亡しているという報告もあり、電気自動車への変換によって大気汚染が改善することが期待されます》《インドだけではなく、中国が4月に発表したロードマップにおいても、2025年に予想される年間3500万台の自動車販売の内、少なくとも5分の1を代替燃料車が占めることを目標としています》

 しかし、現在の電源構成を見ると石炭火力がインドで76%、中国で60%を占めています。インド政府は昨年末に「今後10年は石炭火力発電の新設をゼロにする」との国家電力計画案を公表しました。現在でも電力不足で停電が多発しているインドにして、再生可能エネルギーを大幅に増やす計画は意欲的ではあっても実現可能なのでしょうか。さらに電気自動車の使用分が追加として加わるのです。

 安易な電気自動車(EV)シフトへの警鐘はこれまでにも鳴らされています。昨年9月、フィナンシャル・タイムズの《欧州、電気自動車増で大気汚染の恐れ》は欧州環境庁《EEAの研究は、EVの充電に石炭火力発電だけが使われた場合、EVのライフサイクルを通したCO2排出量がガソリン車やディーゼル車より多くなることを示す、以前の研究を基礎として発展させたものだ。大気汚染の専門家らは、EEAの最新の調査結果は、EVが増える中で、各国が環境に優しい発電方法を検討する必要性を浮き彫りにしたと話している》と述べています。

 また《EEAの研究によれば、EVのシェアが2050年までに80%に達すれば、充電のために150ギガワット(GW)の追加電力が必要になるという》としており、大型原発50基を新設する電源に相当します。インドのように自動車全面移行を唱えるならば相当の覚悟と計画が必要です。非効率的と知られるインドの行政にその能力ありやです。第530回「インドでは首都に住んだら寿命が6.4年縮まる」で描いたようにインドの環境大臣の現実認識は信じられません。