第623回「タブレット用イヤフォン決定版、1万円余で万能」

 5年ほどタブレットを常時持ち歩いており、欲しかったイヤフォン決定版が遂に見つかりました。独ゼンハイザー「IE40 PRO」で、1万円余で手軽に買えるのに音楽も映画やアニメ鑑賞にも驚くほど万能です。1年前に書いた第596回「モバイル音楽アプリが劇的進化、皆なぜ知らない」で紹介した優秀アプリの聴き分けも十分にこなします。そこではブルートゥース無線接続で比較していますが、高音域の繊細さは有線イヤフォンの方が優位であり探していました。十分にエージングできるまでに300時間ほど鳴らす必要があり、その間は丁寧なイコライジングが望ましいと思うもののフラットに近い音響特性なので使いこなしは難しくありません。  レノボ社のタブレットTB-8704Xに接続した写真を掲げました。直径10ミリの振動板によるダイナミック型、耳掛け型の透明クリアタイプで、色はブラックもあります。写真のタブレット画面はエージング200時間くらいの段階で施していたイコライジングを表しています。トランペットなどの金管楽器が活躍する領域をちょっとだけ下げています。イコライジングは『流行のハイレゾ再生、ソフト選択で音質劣化に』 [BM時評]に出しているゼンハイザーの最高級ヘッドフォン「HD800」のバランスに近づけるよう狙っています。鳴らし始めのころはかなり高音がうるさい感じがあり、下げ幅をもっと深くしました。

 200時間を超えるころから、うるささが消え始め、同時に音圧も上がりました。タブレットのやや非力な音響回路でも十分に鳴らせるようになりました。HD800との鳴き比べは主にベルリンフィルのデジタルコンサートホールを使用しました。HD800はパソコンで鳴らし、IE40 PROはタブレットで鳴らして比べました。200時間のころは写真の程度に抑えないと名門オーケストラのいぶし銀の感じが阻害されました。300時間を超えた現在は抑制無しのフラットで十分いけます。

 クラシック音楽ばかりでなく、J-POPやジャズ、ポピュラー音楽全般の再生も良好です。音圧が上がるころに低音域の沈み込み感が強化されました。低音は無駄にぶよぶよしないタイトな音で、そこに沈み込み感が加わって映画やアニメを見る際の迫力がぐんと増しました。ゲリー・カーのコントラバス独奏を好んで聴いており、「南国土佐を後にして」での大地を抉る感じが出てきました。

 映画館での音響の凄さが評判になった「ガールズ&パンツァー 劇場版」は2度見に行きました。家庭での完全な再現は無理ながら、パソコンの強力なヘッドフォンアンプに米グラド社「SR60」を繋いで戦車戦の爆裂音や衝撃音の凄さを楽しんでいます。試みにIE40 PROを繋いでみると、低音が出るオーバーヘッド型ヘッドフォンに対しイヤフォンながらそうは負けていないのには驚きました。ただし、このもの凄さはタブレットの音響回路では出せません。

 ゼンハイザー社のラインナップにも何万円もする高級なイヤフォンが並んでいます。高級な音楽プレーヤーを携帯するならそれも良いでしょうが、2万円台タブレットには不釣り合いです。高級なイヤフォンほど非力な回路では鳴らせない可能性も高いのです。移動中や旅先でも映像や音楽を十分に楽しめるイヤフォンが手ごろ価格で手に入るのは有難いことです。