第658回「BCG特定株の接種国で新型コロナ深く沈静化」

(in English)
 新型コロナワクチン接種が進んで来ているのに欧米を中心に収まりかけた流行が再燃しています。日本だけが収束に向かうような内外報道がありますが、実は深い沈静化現象は十数カ国で起きています。共通している点を探せばBCGの日本株、ロシア株、パスツール株の接種国です。「毒にも薬にもならぬ」という言い回しを借りれば、各国で新型コロナ沈静化を支えているBCGの3株は「毒にも薬にもなる」タイプと言えます。薬になることだけを追求した新世代BCGワクチンに比べると副作用や強い癖があるのです。それがヒトの免疫力を賦活させ、コロナワクチンの盾で防ぎきれない対象外年少者などを守っていると考えられます。札幌医大のサイトでグラフを作成し、深く沈静化している諸国を一覧しましょう。  日本のような沈静化が決して珍しくないと一見して分かります(札幌医大の該当グラフ)。人口百万人あたり1週間の新規感染が10例を割る超安定グループが日本株の日本・サウジアラビア・台湾、ロシア株の香港・バングラデシュ、そしてパスツール株のインドネシアです。1週間100例以下では日本株のパキスタン・フィリピン・ブータン、ロシア株のインド、パスツール株のカンボジア・モロッコ・チュニジアであり、デンマーク株でありながらアラブ首長国連邦(UAE)が加わります。UAEは効かない中国産ワクチンからファイザーに転換して接種率9割で抑え込んだ印象です。しかし、次に見るように接種率9割のシンガポールは大リバウンドを喫しています。  全体の状況が見える英語版のグラフも掲げました(札幌医大の該当グラフ)。ポルトガルも接種率9割に迫るのに大きな反転上昇です。米・英・独・仏も同じようなリバウンドにあっています。ワクチン接種が進まぬロシアも酷いです。メキシコやブラジルなどが地道に感染を減らしているのが救いです。コロナワクチン接種から時間が経って出来た抗体が減り、効力が落ちてきたとの見方があります。しかし、BCGによる免疫強化はロシア株接種だった旧東独地域が今なお西独側と差があるように持続的です。札幌医大サイトの分析機能は非常に有用なのに、使いこなすメディアが現れないのは不思議でなりません。  11月23日現在、ロイター集計の感染者・死者数を使って、BCG接種の経緯と株の違いを一覧表にしました。結核が脅威でなくなった欧米ではBCG接種がすたれていきました。人口あたりの死者数で比べるとBCGを続けた方が良かった印象があります。ただ、スペインとポルトガルの隣国同士で比べて大差が無いのを知ると新世代BCGは大して効果が無かったようです。冒頭で紹介したBCGの3株は表の下半分を占めていて、感染・死者数とも明確な違いを見せます。ロシアが国民の政府不信からコロナワクチン接種が進まないために大きな死者数を出しているのを例外として、表の上半分に比べ人口あたり死者は大きく下回ります。日本株関係では中国産ワクチンに頼ったマレーシアが感染拡大を抑えられずに苦労し、ロシア株のトルコも似た事情です。人口が大きな日本やパキスタン、バングラデシュで人口百万人あたりの死者数が百数十に止まっている点は特筆されます。

 日本株やロシア株は生菌数が多い昔タイプ株で、新世代BCGはこれに比べて弱いおとなしい株です。パスツール株は比較的新しいのですが、副作用があって本国フランスでは使われなくなりました。

 隣国、韓国は日本と同程度にワクチン接種が進んでいながら急速に新型コロナ感染が拡大しています。一番の違いは接種初期にメッセンジャーRNA型のワクチンが入手困難でデルタ変異株に弱いアストラゼネカワクチンを高齢者中心に1100万人以上に打った点、次いでBCGがデンマーク株で日本株のような弱者守護が無い点、そして法やルールより個人勝手な判断が優先する国民性がコロナ規制緩和で発揮されたからでしょう。

 日本で集団免疫が出来てきた過程につては第656回「日本的集団免疫が達成、迷惑かけぬ国民性で」で詳しく書いています。これには英語版も用意しました。ワクチン完全接種率の増加に合わせて都道府県別に検討して、同じようなタイミングで新規感染にブレーキが掛かり、減っていきました。ワクチン接種で遅れた大阪が先行の東京を追い、現在では新規感染の差が非常に小さくなりました。