第674回「中国大卒就職難は中国政府の大勘違いから」
年間1000万人を超える大卒者を出すようになった中国で、就職難の話題が騒がしい季節になりました。6月の卒業が迫った昨年4月、「全国の大卒者就職率が23.60%に止まる」との衝撃的な数字を見ました。2022年の大卒者は1076万人でしたが、今年は1158万人にも増えます。昨年は最終的にどのような就職状況だったのか分からないまま年を越しました。夏から秋にかけてある程度は就職が決まったものの、相当数の就職浪人を出したと考えざるを得ません。調べていくと2021年卒の就職浪人も多いようです。しかし、何か変なのです。2020年の統計で60歳定年に向かっている55-59歳層は1億559万人、これから社会に出てくる20-24歳層は7490万人ですから、退職引退人口に対して新規参入人口が71%と大幅に少ないのです。退職者の仕事がめぐりめぐって若い人に回ってくれば就職難など起こるはずがありません。
まず、昨年4月の就職率一覧表を掲げます。 最高成績の重慶市ですら就職率50%です。大卒者が81万超と一番多い河南省では就職率37.11%です。全国平均が23.60%ですから一覧表に無い省や直轄市の成績は悲惨だったのでしょう。実は大卒者数は近年になって急増しているのです。2001年には104万人に過ぎませんでした。20年で10倍以上に増加です。これは中国共産党政府が1999年から各地の高専を大学に格上げするなどして、大学を増やす積極政策をとった結果です。
なお、中国の大学では企業や官庁との就職契約書と引き換えに卒業証書が渡されるとかで、かつては契約書の偽造や、最近では「フリーランス」労働者や「ゆるやかな雇用」とかを称しているようです。これは実質的な失業状態です。大学側は政府に向かっては就職率95%とかを上げているので実態は見えなくなります。
2010年のMBAチャイナサイトで、ドイツ人による就職難についての論評《熟練労働者不足への対応》(中国語)を見つけました。
《中国への旅行の終わりに、中国の大学教育の有効性と大学生の能力に対する人々の不満が強まっていることに気づきました。中国には毎年何百万人もの大学卒業生がいますが、彼らが市場の要件を満たすことは困難です。彼らはまた、上司が国際市場で強力で創造的な競争相手と知恵と勇気を持って戦うのを助けるために、上司の「右手や左手」になることもできません。西側の工業国と同様に、経済的な冬の寒さに加えて、熟練労働者の不足も中国の経済発展の大きな障害となっています》
文系、理系を問わず、中国の大卒者は求められているスキルを持っていないという事実指摘です。その一方で、熟練労働者の不足は全国で2000万人に達するとの指摘があります。日本の企業なら社内で訓練を施して熟練工に仕立てていくものですが、中国では技術が身に付くと直ぐに転職していくのでやっていられないとの嘆きをネットで読みました。中国政府は今年になって突然、いくつかの大学を高専に戻す格下げを実施しました。しかし、時既に遅しではないでしょうか。
習近平国家主席が強力に推している「中国製造2025」戦略は「2025年までに製造業の競争力をドイツ、日本レベルまで高めたい」というものです。2018年の《「職人魂」の品質育成に関する研究》(中国語)は戦略実現のために以下のように説きますが、中国の上滑り気味の高等教育実態とは差がありすぎです。
《この戦略を円滑に実施するには、熟練した応用力のある多数の人材が必要です。職業教育は、熟練した労働者と技術者を育成する上で、より大きな役割を果たさなければなりません。学校は、学生が専門職の熟練労働者に成長するための強固な基盤を築くために、思想的および政治的教育の過程で「職人の精神」を統合します。「職人の精神」を養うために、学生は完全なシステムの知識とスキルを学び、学校と企業の協力ユニットから技術者を雇って、優れた職人技と操作の本質を継承し、学生を指導して優れた実践的な態度を養い、欠点を補う時間を確保する必要があります》
私の第481回「中国の夢、技術強国化は構造的に阻まれている」も是非ご参照ください。
中国政府の大きな勘違いから大学を歪めて、2割に近い若年失業率を出した始末をどう付けるのでしょうか。「中国社会科学院人口労働経済研究所副所長」という立派な肩書の方が人民日報オンラインに2022年09月16日付で《大学生の就職動向の変化と対策》(中国語)を寄稿しています。
《新たに労働市場に参入する大卒者の仕事は、新しい仕事の創出と既存の仕事の調整という 2つのソースからもたらされます。既存の雇用ポジションの調整は、元のポジションの労働者の失業につながる可能性があり、これは「安定雇用」という政策目的に反する。明らかに、労働市場の安定を維持するためには、新たに創出される雇用の数が多ければ多いほど、若者の雇用を解決するのに役立ちます。しかし近年、都市部の雇用の伸びは年々鈍化しています。経済成長の短期的な変動だけでなく、経済成長の雇用弾力性にも関連する、都市全体の雇用の伸びに影響を与える多くの要因があります。しかし、客観的に見れば、新規雇用創出のペースが鈍化すると、労働市場に参入しようとしている若者により大きなマイナスの影響を与えることになります。労働市場における既存の仕事の流れを促進するよりも、全体の仕事の数を増やす方が効果的かもしれません》
冒頭で指摘したように、退職と新規参入の人口比を考えても大卒者が既存の仕事を受け継ぐのが当然と思えるのですが、そういう仕事に向いていないから新しい仕事を作るふうに見えます。これでは既存の仕事は人材不足でいつか枯れ死にします。一方、新しい仕事が社会の実需要に根差して大量に生まれていくものでしょうか。本当は現実を見るのが嫌なのでしょう。
《大卒者の雇用の拡大は、一定期間、大卒者の労働供給を集中的に増加させ、雇用圧力を生み出した。しかし、大卒者の現在の雇用問題を単に高等教育の拡大に帰するだけでは、現在の若者の雇用の主な問題を理解するのにも、適切な解決策を見つけるのにも役立ちません。高等教育の拡大は、一般的に開発の必要性に沿ったものです》
中国政府の失敗を認める気はさらさら無い様です。
【中国関連記事】
第669回「皇帝習近平は定年延長で民から1424兆円奪えるか」
【5/30追補】
ブルームバーグが《中国、若年層の失業率が20%突破−過去最悪更新し危険水域》で《国家統計局が16日発表した若年層の失業率は4月に20.4%と前月の19.6%から上昇し、昨年夏に記録したこれまで最も高かった19.9%を上回った》と伝えました。最悪が更新された点だけが重要であり、ネットで出回っている若者の苦渋に満ちた書き込みを見れば、実際には、これよりはるかに高い若年失業率であることは明らかです。
《中国の就業者数、過去3年で4100万人余り減る−退職者急増が影響》は《国家統計局によれば、2022年の就業者数は約7億3350万人。19年は7億7470万人だった。退職者の急増を反映するデータとなっており、定年引き上げという不人気の政策を政府が急ぐ可能性もある》とも伝えています。退職者が膨大に出ても、大量の新卒者が代わりにならない欠陥構造をを示すデータです。
まず、昨年4月の就職率一覧表を掲げます。 最高成績の重慶市ですら就職率50%です。大卒者が81万超と一番多い河南省では就職率37.11%です。全国平均が23.60%ですから一覧表に無い省や直轄市の成績は悲惨だったのでしょう。実は大卒者数は近年になって急増しているのです。2001年には104万人に過ぎませんでした。20年で10倍以上に増加です。これは中国共産党政府が1999年から各地の高専を大学に格上げするなどして、大学を増やす積極政策をとった結果です。
なお、中国の大学では企業や官庁との就職契約書と引き換えに卒業証書が渡されるとかで、かつては契約書の偽造や、最近では「フリーランス」労働者や「ゆるやかな雇用」とかを称しているようです。これは実質的な失業状態です。大学側は政府に向かっては就職率95%とかを上げているので実態は見えなくなります。
2010年のMBAチャイナサイトで、ドイツ人による就職難についての論評《熟練労働者不足への対応》(中国語)を見つけました。
《中国への旅行の終わりに、中国の大学教育の有効性と大学生の能力に対する人々の不満が強まっていることに気づきました。中国には毎年何百万人もの大学卒業生がいますが、彼らが市場の要件を満たすことは困難です。彼らはまた、上司が国際市場で強力で創造的な競争相手と知恵と勇気を持って戦うのを助けるために、上司の「右手や左手」になることもできません。西側の工業国と同様に、経済的な冬の寒さに加えて、熟練労働者の不足も中国の経済発展の大きな障害となっています》
文系、理系を問わず、中国の大卒者は求められているスキルを持っていないという事実指摘です。その一方で、熟練労働者の不足は全国で2000万人に達するとの指摘があります。日本の企業なら社内で訓練を施して熟練工に仕立てていくものですが、中国では技術が身に付くと直ぐに転職していくのでやっていられないとの嘆きをネットで読みました。中国政府は今年になって突然、いくつかの大学を高専に戻す格下げを実施しました。しかし、時既に遅しではないでしょうか。
習近平国家主席が強力に推している「中国製造2025」戦略は「2025年までに製造業の競争力をドイツ、日本レベルまで高めたい」というものです。2018年の《「職人魂」の品質育成に関する研究》(中国語)は戦略実現のために以下のように説きますが、中国の上滑り気味の高等教育実態とは差がありすぎです。
《この戦略を円滑に実施するには、熟練した応用力のある多数の人材が必要です。職業教育は、熟練した労働者と技術者を育成する上で、より大きな役割を果たさなければなりません。学校は、学生が専門職の熟練労働者に成長するための強固な基盤を築くために、思想的および政治的教育の過程で「職人の精神」を統合します。「職人の精神」を養うために、学生は完全なシステムの知識とスキルを学び、学校と企業の協力ユニットから技術者を雇って、優れた職人技と操作の本質を継承し、学生を指導して優れた実践的な態度を養い、欠点を補う時間を確保する必要があります》
私の第481回「中国の夢、技術強国化は構造的に阻まれている」も是非ご参照ください。
中国政府の大きな勘違いから大学を歪めて、2割に近い若年失業率を出した始末をどう付けるのでしょうか。「中国社会科学院人口労働経済研究所副所長」という立派な肩書の方が人民日報オンラインに2022年09月16日付で《大学生の就職動向の変化と対策》(中国語)を寄稿しています。
《新たに労働市場に参入する大卒者の仕事は、新しい仕事の創出と既存の仕事の調整という 2つのソースからもたらされます。既存の雇用ポジションの調整は、元のポジションの労働者の失業につながる可能性があり、これは「安定雇用」という政策目的に反する。明らかに、労働市場の安定を維持するためには、新たに創出される雇用の数が多ければ多いほど、若者の雇用を解決するのに役立ちます。しかし近年、都市部の雇用の伸びは年々鈍化しています。経済成長の短期的な変動だけでなく、経済成長の雇用弾力性にも関連する、都市全体の雇用の伸びに影響を与える多くの要因があります。しかし、客観的に見れば、新規雇用創出のペースが鈍化すると、労働市場に参入しようとしている若者により大きなマイナスの影響を与えることになります。労働市場における既存の仕事の流れを促進するよりも、全体の仕事の数を増やす方が効果的かもしれません》
冒頭で指摘したように、退職と新規参入の人口比を考えても大卒者が既存の仕事を受け継ぐのが当然と思えるのですが、そういう仕事に向いていないから新しい仕事を作るふうに見えます。これでは既存の仕事は人材不足でいつか枯れ死にします。一方、新しい仕事が社会の実需要に根差して大量に生まれていくものでしょうか。本当は現実を見るのが嫌なのでしょう。
《大卒者の雇用の拡大は、一定期間、大卒者の労働供給を集中的に増加させ、雇用圧力を生み出した。しかし、大卒者の現在の雇用問題を単に高等教育の拡大に帰するだけでは、現在の若者の雇用の主な問題を理解するのにも、適切な解決策を見つけるのにも役立ちません。高等教育の拡大は、一般的に開発の必要性に沿ったものです》
中国政府の失敗を認める気はさらさら無い様です。
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【5/30追補】
ブルームバーグが《中国、若年層の失業率が20%突破−過去最悪更新し危険水域》で《国家統計局が16日発表した若年層の失業率は4月に20.4%と前月の19.6%から上昇し、昨年夏に記録したこれまで最も高かった19.9%を上回った》と伝えました。最悪が更新された点だけが重要であり、ネットで出回っている若者の苦渋に満ちた書き込みを見れば、実際には、これよりはるかに高い若年失業率であることは明らかです。
《中国の就業者数、過去3年で4100万人余り減る−退職者急増が影響》は《国家統計局によれば、2022年の就業者数は約7億3350万人。19年は7億7470万人だった。退職者の急増を反映するデータとなっており、定年引き上げという不人気の政策を政府が急ぐ可能性もある》とも伝えています。退職者が膨大に出ても、大量の新卒者が代わりにならない欠陥構造をを示すデータです。