第677回「中国経済大変調で政府動かずも意図的濃厚」
(続編第682回「真実隠蔽の意図濃く奇怪な中国各種統計の闇」)
中国に対する外国からの投資が激減、輸出入ともに縮小し、物価が下がり始めてデフレ入りが言われ、不動産バブル崩壊による信用不安が拡大、新卒者中心に若者多数が就職難に喘ぐ――これほどの経済大変調の波が一斉に押し寄せているのに、中国政府は政策的不作為を決め込んでいるように見えます。僅かな利下げや自社株買いの強制、株式の売り越しを防いでも、起きている危機の規模に対応しておらず役に立ちません。Bloombergの21日付《中国経済を冷やす習政権の戦略転換−「日本化」シナリオに現実味》から米国GDPに比べて中国GDPが大きく下がり始めたグラフを引用します。
一時、エコノミストに言われていた中国GDPが米国を追い越すなどあり得ない状況に至っています。これまでに過剰にやりすぎたインフラ投資が手足を縛り、地方政府の債務が膨大に積み上がっているために、打てる有効策はそうそう無いように見えます。記事から以下の部分を引用します。
《習政権にとってのリスクは、過度な刺激策を避けるという決意で国民14億人の信頼を失うことだ。世界銀行の元中国担当ディレクター、バート・ホフマン氏は、中国は「期待不況」に陥っていると指摘。「今後成長が鈍化すると誰もが信じれば、それは自己実現する」という。最悪のシナリオは、こうした状況がスタグネーション(景気停滞)、もしくは「日本化」を招くことだ》
一部の学者からは日本以上の悪い事態に陥るとの警鐘が鳴らされています。
習近平政権の国家安全保障を重視した経済運営は、これまでの改革開放路線と違っているとの見立てがあちこちで出ています。ロイターの18日付《焦点:鈍い中国の経済てこ入れ、習氏の「安保重視」が足かせか》は次のように指摘します。
《中国専門の調査会社ガベカル・ドラゴノミクスのクリストファー・ベッダー氏は「今年起きている根本的な問題は、指導部が各当局に対して『経済発展と国家安全保障のバランスを取れ』というレベルが高いが不明瞭な指令を発したことにある」と話す》
官僚はどうすれば良いか分からず模様眺めに陥ってしまいます。
《中国共産党には民間セクターに権力が移りかねないような政策に消極的になる習性がしみ込んでいるという点や、習氏の「イエスマン」ばかりが集まった政府内部で政策について議論されなくなり、対応が滞っている可能性を挙げる専門家もいる》
16─24歳の若者失業率は6月に21.3%と過去最高に達したのに、中国国家統計局は8月から若者の失業率データ発表を突然、停止しました。これは次のような経緯で失業実態がとんでもないほど酷いと明かされたからとも見えます。
Record Chinaの7月20日付《中国の若者の失業率、実際は46.5%か―仏メディア》にこうあります。北京大学の張丹丹(ジャン・ダンダン)准教授による推計です。
《国家統計局の3月のデータによると、中国の16歳から24歳までの都市人口は約9600万人で、このうち3分の1に当たる約3200万人が労働力人口で、4800万人が就学中の非労働力人口、そして残りの1600万人が非就学者で職にも就いていない、いわゆる「寝そべり族」「親のすねかじり族」であり、仮にこの1600万人を失業者と見なせば、3月の中国の実質的な若年失業率は46.5%となり、公式発表の19.7%よりはるかに高くなる》
共産党機関紙の人民網日本語版6月14日付《中国で話題の「専業主婦」ならぬ「専業子供」とは?》を見つけ、「すねかじり族」の広がり公認ぶりに笑ってしまいました。
《「専業子供」は端的に言うならば、実家に住み、両親の世話をして、両親から給料をもらう人を指す。あるネットユーザーは最近、「転職先を決めずに退職して実家で過ごしていたら、両親が月給4000元(1元は約19.5円)をくれるようになった。私の仕事は、一緒に買い物に行ったり、料理をしたり、街歩きに付き合うこと。家族のために毎月1−2回旅行も計画している。それ以外の時間は自由に使える」と書き込んでいる》
「中国で大学を出て就職できないのは家の恥」という趣旨の報道を日本のメディアはしてきましたが、あまりの就職難が家庭環境を変えてしまったようです。4月に書いた第674回「中国大卒就職難は中国政府の大勘違いから」で指摘したように、就職難を作り出した枠組み自体が奇妙です。
日本を研究しているから中国は後追いはしないとする研究者が多くいます。18日付東京新聞《「日本病」研究の第一人者が語る今後の中国経済 「デフレは明らか」「少子化対策こそ重要」》はその典型です。しかし、「急速な人口減少を解決し、消費を引き上げていかなければ、日本のような長期停滞に陥る可能性がある」との処方は、庶民の心に沿う気が無い共産党には馬の耳に念仏でしょう。
激減している海外からの投資呼び込みが死活の問題と化しているのに「中国はオープンです。こちらの条件を全て飲んでくれれば」と木で鼻をくくった対応をしています。経済の中心上海からは外国ビジネスマンが姿を消しました。海外からの訪中客も激減しており、ビザ取得や現地決済、鉄道切符購入が外国人には困難になっているためです。中国は外部世界から引き籠ってしまうのではないか、とさえ言われています。
【8/27追補】習近平が投げ出した?――噂あり
福島香織氏が8/26付《中国・習近平が「やる気」喪失?BRICSでの弱々しい姿に憶測飛び交う》で、大洪水なのに長く消息が無く、ようやく姿を現したBRICSの重要会議を欠席して憔悴の表情が見える裏側の見方を紹介しています。
《一部チャイナウォッチャーたちは、今年に入ってから、特に全人代後、あきらかに習近平の「やる気」が失せている、とささやいている。その理由として、何をやってもうまくいかず、批判を受けてしまう習近平自身が、にわかにやる気と自信を失い、「?平主義」(何もしないサボタージュ)に落ちっているのではないか、という見方もある》
《一部消息筋の話では、北戴河会議で、習近平は側近たちに、洪水防止水害対策の失敗、経済政策の失敗の責任問題や、それを挽回する策を求めたのだという。側近たちを一人ひとり呼び出し、一日中怒鳴り散らし、問い詰めたのだという。だが、誰ひとり、積極的な意見を言わず、責任ある態度もとろうとしないことに習近平は腹を据えかね、「君たちが何もしないなら、私も何もしたくない」「私も人間だ、休息が必要だ」と、「?平主義」を宣言した、という》
北京と周辺の大洪水は、習近平指導で盤石の治水体制が出来たとの本が出版されて1週間後に発生しており、あまりの間の悪さです。欧米メディアの中には「地方政府は膨大債務で窒息しているが、中央政府にはまだ力が残っている」と積極財政運営を説く向きもあります。しかし、それは幻想です。第669回「皇帝習近平は定年延長で民から1424兆円奪えるか」で指摘したように近未来を見据えれば余裕などありません。
《習政権にとってのリスクは、過度な刺激策を避けるという決意で国民14億人の信頼を失うことだ。世界銀行の元中国担当ディレクター、バート・ホフマン氏は、中国は「期待不況」に陥っていると指摘。「今後成長が鈍化すると誰もが信じれば、それは自己実現する」という。最悪のシナリオは、こうした状況がスタグネーション(景気停滞)、もしくは「日本化」を招くことだ》
一部の学者からは日本以上の悪い事態に陥るとの警鐘が鳴らされています。
習近平政権の国家安全保障を重視した経済運営は、これまでの改革開放路線と違っているとの見立てがあちこちで出ています。ロイターの18日付《焦点:鈍い中国の経済てこ入れ、習氏の「安保重視」が足かせか》は次のように指摘します。
《中国専門の調査会社ガベカル・ドラゴノミクスのクリストファー・ベッダー氏は「今年起きている根本的な問題は、指導部が各当局に対して『経済発展と国家安全保障のバランスを取れ』というレベルが高いが不明瞭な指令を発したことにある」と話す》
官僚はどうすれば良いか分からず模様眺めに陥ってしまいます。
《中国共産党には民間セクターに権力が移りかねないような政策に消極的になる習性がしみ込んでいるという点や、習氏の「イエスマン」ばかりが集まった政府内部で政策について議論されなくなり、対応が滞っている可能性を挙げる専門家もいる》
16─24歳の若者失業率は6月に21.3%と過去最高に達したのに、中国国家統計局は8月から若者の失業率データ発表を突然、停止しました。これは次のような経緯で失業実態がとんでもないほど酷いと明かされたからとも見えます。
Record Chinaの7月20日付《中国の若者の失業率、実際は46.5%か―仏メディア》にこうあります。北京大学の張丹丹(ジャン・ダンダン)准教授による推計です。
《国家統計局の3月のデータによると、中国の16歳から24歳までの都市人口は約9600万人で、このうち3分の1に当たる約3200万人が労働力人口で、4800万人が就学中の非労働力人口、そして残りの1600万人が非就学者で職にも就いていない、いわゆる「寝そべり族」「親のすねかじり族」であり、仮にこの1600万人を失業者と見なせば、3月の中国の実質的な若年失業率は46.5%となり、公式発表の19.7%よりはるかに高くなる》
共産党機関紙の人民網日本語版6月14日付《中国で話題の「専業主婦」ならぬ「専業子供」とは?》を見つけ、「すねかじり族」の広がり公認ぶりに笑ってしまいました。
《「専業子供」は端的に言うならば、実家に住み、両親の世話をして、両親から給料をもらう人を指す。あるネットユーザーは最近、「転職先を決めずに退職して実家で過ごしていたら、両親が月給4000元(1元は約19.5円)をくれるようになった。私の仕事は、一緒に買い物に行ったり、料理をしたり、街歩きに付き合うこと。家族のために毎月1−2回旅行も計画している。それ以外の時間は自由に使える」と書き込んでいる》
「中国で大学を出て就職できないのは家の恥」という趣旨の報道を日本のメディアはしてきましたが、あまりの就職難が家庭環境を変えてしまったようです。4月に書いた第674回「中国大卒就職難は中国政府の大勘違いから」で指摘したように、就職難を作り出した枠組み自体が奇妙です。
日本を研究しているから中国は後追いはしないとする研究者が多くいます。18日付東京新聞《「日本病」研究の第一人者が語る今後の中国経済 「デフレは明らか」「少子化対策こそ重要」》はその典型です。しかし、「急速な人口減少を解決し、消費を引き上げていかなければ、日本のような長期停滞に陥る可能性がある」との処方は、庶民の心に沿う気が無い共産党には馬の耳に念仏でしょう。
激減している海外からの投資呼び込みが死活の問題と化しているのに「中国はオープンです。こちらの条件を全て飲んでくれれば」と木で鼻をくくった対応をしています。経済の中心上海からは外国ビジネスマンが姿を消しました。海外からの訪中客も激減しており、ビザ取得や現地決済、鉄道切符購入が外国人には困難になっているためです。中国は外部世界から引き籠ってしまうのではないか、とさえ言われています。
【8/27追補】習近平が投げ出した?――噂あり
福島香織氏が8/26付《中国・習近平が「やる気」喪失?BRICSでの弱々しい姿に憶測飛び交う》で、大洪水なのに長く消息が無く、ようやく姿を現したBRICSの重要会議を欠席して憔悴の表情が見える裏側の見方を紹介しています。
《一部チャイナウォッチャーたちは、今年に入ってから、特に全人代後、あきらかに習近平の「やる気」が失せている、とささやいている。その理由として、何をやってもうまくいかず、批判を受けてしまう習近平自身が、にわかにやる気と自信を失い、「?平主義」(何もしないサボタージュ)に落ちっているのではないか、という見方もある》
《一部消息筋の話では、北戴河会議で、習近平は側近たちに、洪水防止水害対策の失敗、経済政策の失敗の責任問題や、それを挽回する策を求めたのだという。側近たちを一人ひとり呼び出し、一日中怒鳴り散らし、問い詰めたのだという。だが、誰ひとり、積極的な意見を言わず、責任ある態度もとろうとしないことに習近平は腹を据えかね、「君たちが何もしないなら、私も何もしたくない」「私も人間だ、休息が必要だ」と、「?平主義」を宣言した、という》
北京と周辺の大洪水は、習近平指導で盤石の治水体制が出来たとの本が出版されて1週間後に発生しており、あまりの間の悪さです。欧米メディアの中には「地方政府は膨大債務で窒息しているが、中央政府にはまだ力が残っている」と積極財政運営を説く向きもあります。しかし、それは幻想です。第669回「皇帝習近平は定年延長で民から1424兆円奪えるか」で指摘したように近未来を見据えれば余裕などありません。