第683回「急速高齢化の脅威に、中国指導部は無策傍観」
年明けの中国は株式市場から外資大量逃亡による株安で2021年のピークから900兆円の時価が蒸発、政府が国内勢を「株を売るな」と縛る有様。しかし、海外からはもっと重大な急速高齢化の脅威、年金財源の2035年枯渇に警鐘が鳴らされています。中国の人口と年金問題には関心を持ち続け、2019年の第602回「中国の労働人口、今後は1億、2億と減る衝撃」、2020年の第624回「14億人中国の暗雲:男女人口大差と年金使い込み」、2022年の第669回「皇帝習近平は定年延長で民から1424兆円奪えるか」と衝撃的な事実を明るみに出してきました。近年の統計捏造は目に余るので2015年発表の中国社会科学院人口・労働経済研究所「中国人口と労働問題報告 No16」のデータによる「中国の生産年齢人口と従属人口推移」グラフを掲げます。
グラフで生産年齢人口を15から59歳までとしているのは、中国の定年は世界に比べて早く、男性が60歳、女性が55歳だからです。衛生状態が悪く長生きできなかったのが原因です。65歳が普通の諸国に比べて高齢化社会へのステップが早まります。65歳以上の人口比21%以上の「超高齢社会」に日本は2007年に突入し、中国は2034年突入のはずが、60歳以上の人口比21%となると今年2024年になります。2050年には生産年齢人口と、14歳以下プラス60歳以上の従属人口が6.5億人程度で等しくなる恐るべき事態に至ります。
勝又壽良さんの1月13日付《中国、2035年には「年金亡国」へ。60歳定年と高い所得代替率が命取り、“体制維持”優先の政策に限界が来ている》が「定年60歳が襲う国家悲劇」を訴えています。
《世界では広く認識されていないが、中国の「年金所得代替率」(税引き前)は、桁外れに高いことだ。年金支給率が、現役時代の給与の7割も支給されている。
年金所得代替率(税引き前:2020年)出所:OECD
中国 71.60%
米国 39.20%
日本 32.40%
韓国 31.20%
現役時代の所得に対して7割も年金が支給されれば、定年延長引き上げは困難だ。ただ、中国の年金は賦課方式である。現役世代の負担によって、年金が維持されていることを考えれば、大局的見地から退職年齢引き上げは必要なことも事実である。この論理が、中国では通用しないのだ》
2022年の第669回「皇帝習近平は定年延長で民から1424兆円奪えるか」で指摘したように定年延長無しでは巨額すぎる国家財政の穴が出来てしまうから、国民みんなで痛みを分かち合おうという民主主義のやり方では民衆を説得できません。自分だけでも早く退職後の生活を楽しみたいのです。この年金をもらえるのは都市部の勤労者で、制度が遅れている農村部では月額千円程度しかもらえません。
ロイターの1月20日付《焦点:中国の高齢化、新たな経済成長モデルへの転換に暗雲》は中印米日4カ国の人口ピラミッドを、2034年、2050年、2100年と並べて比較できるグラフを掲げていますから引用させていただきます。 われわれ日本の高齢化は言うまでもありませんが、中国も深刻と見て取れて2050年のピラミッドはもう終わった国です。人口最多の若い国インドと、移民の国米国の若年層の厚さは継続していき、中国は比べ物になりません。
以下の指摘も重要です。高齢化は国内消費を上げたい、生産性も上げたい望みにも逆風なのです。
《人口統計学者によれば、どの経済体でも子どもの数が域内消費と直接相関しているという》《労働人口の高齢化によって「イノベーションを起こすインセンティブが低下し、生産性の向上は速まるどころか鈍化している」と指摘する》
1月16日、スイスのダボス会議で中国ナンバー2の李強首相が昨年2023年は「大規模な景気刺激策」を打ち出すことなく、GDP5.2%の成長を達成することができたと自賛しました。世界的には「そんな馬鹿な」と、開いた口が塞がらない印象を持たれたのですが、冷静に考えると亡くなった前任者李克強氏のような経済通でない、地方官僚出の首相には部下の官僚が上げてきたデータを信じるしかないのでしょう。
既に地方ごとのGDP成長率の発表が始まっており、山東省や四川省は6%達成です。昨年末の第682回「真実隠蔽の意図濃く奇怪な中国各種統計の闇」で、法人税や個人所得税の1-9月税収が前年比でマイナスになっている国が5%成長のはずがなく、マイナス成長だろうとの指摘を紹介しています。中国GDPは何年も国家も地方も虚飾統計を積み重ねて中国指導部も実態を見失った――と評すべきです。
今後10年間で世代別人口が特に厚い2億数千万人が定年を迎えます。本来なら強力に定年延長に取り組むべき時期ながら、「延長したい希望者はどうぞ」と捨て置かれています。中国共産党が善政を敷いている建前の国、現状を大幅に変えることなく手をこまねいて時が過ぎて行くのでしょう。
勝又壽良さんの1月13日付《中国、2035年には「年金亡国」へ。60歳定年と高い所得代替率が命取り、“体制維持”優先の政策に限界が来ている》が「定年60歳が襲う国家悲劇」を訴えています。
《世界では広く認識されていないが、中国の「年金所得代替率」(税引き前)は、桁外れに高いことだ。年金支給率が、現役時代の給与の7割も支給されている。
年金所得代替率(税引き前:2020年)出所:OECD
中国 71.60%
米国 39.20%
日本 32.40%
韓国 31.20%
現役時代の所得に対して7割も年金が支給されれば、定年延長引き上げは困難だ。ただ、中国の年金は賦課方式である。現役世代の負担によって、年金が維持されていることを考えれば、大局的見地から退職年齢引き上げは必要なことも事実である。この論理が、中国では通用しないのだ》
2022年の第669回「皇帝習近平は定年延長で民から1424兆円奪えるか」で指摘したように定年延長無しでは巨額すぎる国家財政の穴が出来てしまうから、国民みんなで痛みを分かち合おうという民主主義のやり方では民衆を説得できません。自分だけでも早く退職後の生活を楽しみたいのです。この年金をもらえるのは都市部の勤労者で、制度が遅れている農村部では月額千円程度しかもらえません。
ロイターの1月20日付《焦点:中国の高齢化、新たな経済成長モデルへの転換に暗雲》は中印米日4カ国の人口ピラミッドを、2034年、2050年、2100年と並べて比較できるグラフを掲げていますから引用させていただきます。 われわれ日本の高齢化は言うまでもありませんが、中国も深刻と見て取れて2050年のピラミッドはもう終わった国です。人口最多の若い国インドと、移民の国米国の若年層の厚さは継続していき、中国は比べ物になりません。
以下の指摘も重要です。高齢化は国内消費を上げたい、生産性も上げたい望みにも逆風なのです。
《人口統計学者によれば、どの経済体でも子どもの数が域内消費と直接相関しているという》《労働人口の高齢化によって「イノベーションを起こすインセンティブが低下し、生産性の向上は速まるどころか鈍化している」と指摘する》
1月16日、スイスのダボス会議で中国ナンバー2の李強首相が昨年2023年は「大規模な景気刺激策」を打ち出すことなく、GDP5.2%の成長を達成することができたと自賛しました。世界的には「そんな馬鹿な」と、開いた口が塞がらない印象を持たれたのですが、冷静に考えると亡くなった前任者李克強氏のような経済通でない、地方官僚出の首相には部下の官僚が上げてきたデータを信じるしかないのでしょう。
既に地方ごとのGDP成長率の発表が始まっており、山東省や四川省は6%達成です。昨年末の第682回「真実隠蔽の意図濃く奇怪な中国各種統計の闇」で、法人税や個人所得税の1-9月税収が前年比でマイナスになっている国が5%成長のはずがなく、マイナス成長だろうとの指摘を紹介しています。中国GDPは何年も国家も地方も虚飾統計を積み重ねて中国指導部も実態を見失った――と評すべきです。
今後10年間で世代別人口が特に厚い2億数千万人が定年を迎えます。本来なら強力に定年延長に取り組むべき時期ながら、「延長したい希望者はどうぞ」と捨て置かれています。中国共産党が善政を敷いている建前の国、現状を大幅に変えることなく手をこまねいて時が過ぎて行くのでしょう。