第691回「独裁米ロ中で世界仕切れる:トランプの大誤認」
トランプ「米国王」の日々に変わる言説に付き合うのはくたびれもうけ、言う中身を検証しても翌日には変わっているので無意味です。2期目大統領就任から2カ月近い現時点で言えるのは、米ロ中の独裁国家による世界支配を目指すならトランプ1期目にするべきでした。ロシアは年内にウクライナ戦費が底をつき、中国は不動産バブル崩壊で経済が奈落に向かっています。両国政府ともお金が本当にありません。何とか順調だった米国すら、ちゃぶ台返しをあっちでもこっちでも繰り返してるのですから予測不能過ぎて産業界もお手上げです。トランプ1期目にはペンス副大統領やボルトン大統領補佐官ら諫言出来る硬骨漢がいましたが、2期目はお祭り騒ぎの軽薄者だらけです。
◆ロシア◇
まずロシアから見ていきます。ロイターの1月23日付《独占:トランプ大統領がウクライナとの合意を推進する中、プーチン大統領はロシア経済への懸念を強める》から「ロシアのインフレと基準金利の推移」グラフを引用します。二桁に迫るインフレ亢進に対処して21%もの基準金利となり、これでは家や車を買うローンが組めないところまで来ました。
《記録的な軍事費支出により加速したインフレに対処するために導入された高金利と労働力不足により、国内経済はここ数カ月で緊張状態にある。クレムリンの考え方に詳しい2人の情報筋によると、このことが、ロシアのエリート層の一部の間で、戦争の交渉による解決が望ましいとの見方につながっているという》
PRESIDENT Onlineの2月5日付《トランプ大統領に見放される…「戦争を続けるカネがない」プーチンがそれでも戦争をやめないロシアの特殊事情》はこう指摘します。
《戦費を支える国家福祉基金の残高は、急速に減少している。米フォーチュン誌の報道によると、ロシアの石油・天然ガス収入を原資とする同基金の流動資産は、ウクライナ侵攻開始前の1170億ドル(約18兆円)から310億ドル(約4兆8000億円)まで急減した》
《経済学者のアンデルス・オースルンド氏は「残っている資金では2025年の財政赤字の4分の3しか賄えない」と指摘する。同氏によると、2025年秋には流動性準備金が底をつき、大規模な予算削減が避けられなくなるという。タイム誌は、石油収入が制裁で断たれれば、プーチン政権は年末までに戦費の支出に妥協を迫られるか、資金が底をつく可能性があると分析している》
さらに銀行の不健全融資が軍需産業を支えており、返せなければ一般預金者が泣きます。《これらの融資の最大60%(2490億ドル[約38兆5000億円]相当)が戦争関連企業向けだという。さらに問題なのは、これらが「国家の強制力によって、信用力の低い企業に優遇条件で提供された融資」だという点だ》
◆中国◇
中国は公務員に払う給与をカットしても払えず、遅配が続出する金欠です。昨年11月の第689回「中国を覆う大不況、経済成長どころか縮小必至」などで詳しく伝えています。バブル崩壊で土地の使用権売却が激減し、税収の伸びがマイナスなので、昨年は政府保有資産を投げ売りして補ったことも分かってきました。それでもGDP5%成長を言い張りますが、信じる庶民はいないでしょう。バブル崩壊で売れないマンションを抱えた中間層がローン地獄に陥って消費を切り詰めています。これまでの成長を支えた不動産投資、消費、輸出どれも手詰まりです。自分で成長したと言っていても、外国資本・技術の流入に依存した部分が大きかったのにもう頼れません。
東京新聞の2月14日付《対中国投資、33年ぶり低水準 24年、外資離れ鮮明89%減》にある「中国への直接投資額推移」グラフを引用します。
《中国国家外貨管理局が14日公表した2024年の国際収支統計によると、外資企業による直接投資は前年比89%減の45億ドル(約7千億円)だった。1991年以来33年ぶりの低水準。中国の景気低迷や地政学的リスクの高まりを受け、外資企業の投資意欲は引き続き減退している。トランプ米政権による関税強化で、今後も中国からの撤退が増える可能性がある》
外資にとっての習近平体制下の中国は居心地の悪さが最悪になっており、昨年は1680億ドル(約25兆6000億円)の流出超過で、今後さらに外資が流出するのは確実です。トランプ大統領は就任式に習近平主席を招待しましたが、時評「習近平は独裁者の地位失い、共産党は集団指導に」で明らかにした通り、権力基盤である軍に対する統帥権だけでなく外交権力も危うく、チャイナセブンの別の常務委員が代理出席しました。
◆米国◇
独裁者を礼賛するトランプ大統領は、ロシアと中国の独裁者と渡り合うのを楽しみにしていたようです。そして高い関税で脅せば弱小国は簡単に言うことを聞き、海外に出ていた製造業が米国に帰ってくると無邪気に信じていたようです。作用に対しては反作用が返ってくるのが当然です。カナダは高関税に対抗して米国への輸出電力に高関税で報復すると表明、米国北部一帯の家庭電気料金が1戸当たり月1万円上がる事態に「改めて交渉しよう」と腰砕けに陥りました。発作的に強硬策を発動すれば何が起きるのか、総合的に検討しているブレーンが存在しない致命的な欠陥を明かしました。
これまで浪費に見える消費行動だった米国民が、内外で横行する先行き不透明・不安感に財布の口を締め見構えています。ウォール・ストリート・ジャーナル3月14日付《アメリカ人がさらなる痛みを予想し、消費者心理が急落》はこう述べています。
《経済、株価、雇用をめぐる不確実性が打撃を与えている。「恐ろしい」とある経済学者が語る》《ミシガン大学の注目度の高い消費者信頼感指数は、先月の64.7から3月中旬にはさらに11%下落して57.9となり、トランプ大統領の就任以来続いている下降傾向が続いている。これは2022年11月以来の最低水準》
《投資家が政権の関税計画の転換を分析しようとしているため、株価はここ数週間下落している。ウォール街は貿易を巡る不確実性が米国を急激な景気後退に追い込むのではないかと懸念している》
◆「西側の敵」米国◇
英フィナンシャル・タイムズ紙の2月26日付《米国はいまや西側の敵だ――マーティン・ウルフ》は強烈ながら適切な問題提起です。
《米国が第2次世界大戦の間に引き受けた世界における役割を放棄すると決めたことだ。トランプ氏のホワイトハウス復帰をもって米国は列強の一つに、短期的な利益(特に、物質的な利益)以外のことには無関心な大国になる決断を下した。これにより、米国が支えてきた大義の数々――小国の権利や民主主義それ自体など――はどうなるか分からない状態に置かれることになる》
《この状態は米国内で現在起きていること、すなわちニューディールで造られた国家と合衆国憲法によって造られた法治社会がそろって破壊されかねないこととも符合する》
ウクライナに和平が来る際に、ロシアが占領地を全く返さない可能性があります。それはウクライナだけでなく欧州全体の敗北になります。領土切り取り自由で経済制裁解除はあり得ません。トランプ大統領が制裁解除を言い出しても、欧州の同意無しには無理です。欧州はロシアが西に向けて侵攻してこない保証を求めるに決まっていますが、トランプ大統領の頭には最重要項目が抜けているようです。
お金が無くなったロシアと中国では台湾侵攻など無謀な行動がしばらく難しくなる状況を前提にし、米国がこれまでのような国ではなくなって、日本から米軍の撤収もあり得るかもしれません。日米安保体制の歴史を全く理解しないトランプ大統領なら意外な展開は起き得ます。ミドルパワーの国々がどう連携して世界秩序を保つのか、2025年はとんでもない年になります。
◆ロシア◇
まずロシアから見ていきます。ロイターの1月23日付《独占:トランプ大統領がウクライナとの合意を推進する中、プーチン大統領はロシア経済への懸念を強める》から「ロシアのインフレと基準金利の推移」グラフを引用します。二桁に迫るインフレ亢進に対処して21%もの基準金利となり、これでは家や車を買うローンが組めないところまで来ました。

PRESIDENT Onlineの2月5日付《トランプ大統領に見放される…「戦争を続けるカネがない」プーチンがそれでも戦争をやめないロシアの特殊事情》はこう指摘します。
《戦費を支える国家福祉基金の残高は、急速に減少している。米フォーチュン誌の報道によると、ロシアの石油・天然ガス収入を原資とする同基金の流動資産は、ウクライナ侵攻開始前の1170億ドル(約18兆円)から310億ドル(約4兆8000億円)まで急減した》
《経済学者のアンデルス・オースルンド氏は「残っている資金では2025年の財政赤字の4分の3しか賄えない」と指摘する。同氏によると、2025年秋には流動性準備金が底をつき、大規模な予算削減が避けられなくなるという。タイム誌は、石油収入が制裁で断たれれば、プーチン政権は年末までに戦費の支出に妥協を迫られるか、資金が底をつく可能性があると分析している》
さらに銀行の不健全融資が軍需産業を支えており、返せなければ一般預金者が泣きます。《これらの融資の最大60%(2490億ドル[約38兆5000億円]相当)が戦争関連企業向けだという。さらに問題なのは、これらが「国家の強制力によって、信用力の低い企業に優遇条件で提供された融資」だという点だ》
◆中国◇
中国は公務員に払う給与をカットしても払えず、遅配が続出する金欠です。昨年11月の第689回「中国を覆う大不況、経済成長どころか縮小必至」などで詳しく伝えています。バブル崩壊で土地の使用権売却が激減し、税収の伸びがマイナスなので、昨年は政府保有資産を投げ売りして補ったことも分かってきました。それでもGDP5%成長を言い張りますが、信じる庶民はいないでしょう。バブル崩壊で売れないマンションを抱えた中間層がローン地獄に陥って消費を切り詰めています。これまでの成長を支えた不動産投資、消費、輸出どれも手詰まりです。自分で成長したと言っていても、外国資本・技術の流入に依存した部分が大きかったのにもう頼れません。
東京新聞の2月14日付《対中国投資、33年ぶり低水準 24年、外資離れ鮮明89%減》にある「中国への直接投資額推移」グラフを引用します。

外資にとっての習近平体制下の中国は居心地の悪さが最悪になっており、昨年は1680億ドル(約25兆6000億円)の流出超過で、今後さらに外資が流出するのは確実です。トランプ大統領は就任式に習近平主席を招待しましたが、時評「習近平は独裁者の地位失い、共産党は集団指導に」で明らかにした通り、権力基盤である軍に対する統帥権だけでなく外交権力も危うく、チャイナセブンの別の常務委員が代理出席しました。
◆米国◇
独裁者を礼賛するトランプ大統領は、ロシアと中国の独裁者と渡り合うのを楽しみにしていたようです。そして高い関税で脅せば弱小国は簡単に言うことを聞き、海外に出ていた製造業が米国に帰ってくると無邪気に信じていたようです。作用に対しては反作用が返ってくるのが当然です。カナダは高関税に対抗して米国への輸出電力に高関税で報復すると表明、米国北部一帯の家庭電気料金が1戸当たり月1万円上がる事態に「改めて交渉しよう」と腰砕けに陥りました。発作的に強硬策を発動すれば何が起きるのか、総合的に検討しているブレーンが存在しない致命的な欠陥を明かしました。

《経済、株価、雇用をめぐる不確実性が打撃を与えている。「恐ろしい」とある経済学者が語る》《ミシガン大学の注目度の高い消費者信頼感指数は、先月の64.7から3月中旬にはさらに11%下落して57.9となり、トランプ大統領の就任以来続いている下降傾向が続いている。これは2022年11月以来の最低水準》
《投資家が政権の関税計画の転換を分析しようとしているため、株価はここ数週間下落している。ウォール街は貿易を巡る不確実性が米国を急激な景気後退に追い込むのではないかと懸念している》
◆「西側の敵」米国◇
英フィナンシャル・タイムズ紙の2月26日付《米国はいまや西側の敵だ――マーティン・ウルフ》は強烈ながら適切な問題提起です。
《米国が第2次世界大戦の間に引き受けた世界における役割を放棄すると決めたことだ。トランプ氏のホワイトハウス復帰をもって米国は列強の一つに、短期的な利益(特に、物質的な利益)以外のことには無関心な大国になる決断を下した。これにより、米国が支えてきた大義の数々――小国の権利や民主主義それ自体など――はどうなるか分からない状態に置かれることになる》
《この状態は米国内で現在起きていること、すなわちニューディールで造られた国家と合衆国憲法によって造られた法治社会がそろって破壊されかねないこととも符合する》
ウクライナに和平が来る際に、ロシアが占領地を全く返さない可能性があります。それはウクライナだけでなく欧州全体の敗北になります。領土切り取り自由で経済制裁解除はあり得ません。トランプ大統領が制裁解除を言い出しても、欧州の同意無しには無理です。欧州はロシアが西に向けて侵攻してこない保証を求めるに決まっていますが、トランプ大統領の頭には最重要項目が抜けているようです。
お金が無くなったロシアと中国では台湾侵攻など無謀な行動がしばらく難しくなる状況を前提にし、米国がこれまでのような国ではなくなって、日本から米軍の撤収もあり得るかもしれません。日米安保体制の歴史を全く理解しないトランプ大統領なら意外な展開は起き得ます。ミドルパワーの国々がどう連携して世界秩序を保つのか、2025年はとんでもない年になります。