時評「習近平は独裁者の地位失い、共産党は集団指導に」
中国共産党を一人で牛耳っていた習近平総書記・国家主席が独裁者の地位を奪われて、習近平思想自体が消滅したようです。対外的には共産党内の内紛を明かせない事情から、「お飾りのトップ」として維持されています。処方箋の書きようがないほど悪化した経済状況を背景に、7月に中国軍制服組トップである張又侠・中央軍事委員会副主席(共産党政治局委員)が敢然と反抗したのが皮きりで、ショックで習主席は脳梗塞を起こして入院、習不在を機に公安部が自宅軟禁されていた党長老を解放、前の胡錦涛政権で首相だった温家宝らが自由に動き出したと伝えられています。9日に人民解放軍日報から国防部メディアに転載された《率先して集団指導体制を堅持する》(中国語)に象徴的な文言「独思、即滞而不通;独為、即困而不就」が見えます。
《率先して集団指導体制を堅持する》文書のグーグル翻訳を引用すると以下のようです。
《集団的指導は民主集中制の「十六文字」原則の中核であり本質であり、党の指導の最高原則の一つであり、科学的かつ民主的な意思決定を保証するものである。この重要な原則はわが党の規則であり、断固として実行され、長期にわたって維持されなければなりません》
毛沢東による個人崇拝の混乱を収拾して改革開放に踏み出したケ小平路線に回帰することが明確に語られます。
《ケ小平同志は、中国共産党第8回党大会で発表された「党規約改正に関する報告」の中で次のように述べた》《党の指導は党委員会の集団指導であり、一人や二人の個人の指導ではない。これは、あらゆるレベルの党組織の指導チーム内では、それが誰であるかに関係なく、集団的リーダーシップを堅持しなければならない》
「独思、即滞而不通;独為、即困而不就」は漢字を知る日本人なら容易に理解できます。「一人で思い、一人で為すだけでは駄目ですよ、習近平さん」と言っています。「独」とはまさしく習近平です。習近平思想崇拝時代には考えられない表現です。
人民解放軍は国家の軍隊ではなく、中国共産党の私兵に過ぎず、他の国の軍隊のように「国家のため」との発想が希薄です。革命世代のケ小平を継いだ江沢民は軍歴が無かったために、人民解放軍に湯水のようにお金を使わせて「買収」する手に出ました。そのお金が軍幹部たちの私腹を肥やし、利権集団になっていきました。習近平が摘発したスキャンダル「ロケット燃料のタンクが水で満たされていた」などが典型です。
台湾への軍事侵攻を志向している習近平は、軍の組織を米軍に対抗出来るよう近代化しようとし、これも軋轢を生みました。改革開放による経済成長の利益を享受してきた軍を締め上げ、万単位の犠牲者を生み出す台湾侵攻にのめり込む習近平に服従するはずもなかったと見るべきです。
張又侠は共産党支配のベトナム訪問で国賓並みの待遇を受けました。軍統帥権は張又侠に移ったと見られます。軍権を失った権力者は中国では力がありません。それ以前に習近平は腹心だった李強首相を干す構えに出ましたが、首相は内閣にあたる国務院で独自性を保ち、習近平思想には見向きもしません。
経済が順調でお金が潤沢なら問題なかったでしょうが、第689回「中国を覆う大不況、経済成長どころか縮小必至」で紹介したように悲惨な状況です。公務員ですら給与が滞る現象が全国化しており、これはソ連崩壊とよく似ていると言われるほどです。これほど悪化した状態を「船頭多くして船、山に上る」集団指導体制で乗り切れるとも思えません。
選挙で選ばれていない共産党政府が統治の正当性を主張できたのは、経済発展を継続させて貧富の差はあれど人民の暮らしが良くなっていると思わせたからです。大卒者の就職先も数年前までは何とか確保してきました。今年の状況は普通の会社員から出稼ぎ者、公務員まで給与支払いが滞り、給与カットやリストラで中間層がローン返済に苦しんで外食や消費を節約し、1100万人を超す新規大卒者の半分が職に就けない――共産主義の独善にとらわれて外資撤退を加速させた上に、経済政策通を欠いている習近平指導部に解決策が見えるはずがありません。
【中国関連の記事】
第686回「中国の虚構:売れ先無いマンション莫大に所有」
第683回「急速高齢化の脅威に、中国指導部は無策傍観」
第674回「中国大卒就職難は中国政府の大勘違いから」
第624回「14億人中国の暗雲:男女人口大差と年金使い込み」
第602回「中国の労働人口、今後は1億、2億と減る衝撃」
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毛沢東による個人崇拝の混乱を収拾して改革開放に踏み出したケ小平路線に回帰することが明確に語られます。
《ケ小平同志は、中国共産党第8回党大会で発表された「党規約改正に関する報告」の中で次のように述べた》《党の指導は党委員会の集団指導であり、一人や二人の個人の指導ではない。これは、あらゆるレベルの党組織の指導チーム内では、それが誰であるかに関係なく、集団的リーダーシップを堅持しなければならない》
「独思、即滞而不通;独為、即困而不就」は漢字を知る日本人なら容易に理解できます。「一人で思い、一人で為すだけでは駄目ですよ、習近平さん」と言っています。「独」とはまさしく習近平です。習近平思想崇拝時代には考えられない表現です。
人民解放軍は国家の軍隊ではなく、中国共産党の私兵に過ぎず、他の国の軍隊のように「国家のため」との発想が希薄です。革命世代のケ小平を継いだ江沢民は軍歴が無かったために、人民解放軍に湯水のようにお金を使わせて「買収」する手に出ました。そのお金が軍幹部たちの私腹を肥やし、利権集団になっていきました。習近平が摘発したスキャンダル「ロケット燃料のタンクが水で満たされていた」などが典型です。
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張又侠は共産党支配のベトナム訪問で国賓並みの待遇を受けました。軍統帥権は張又侠に移ったと見られます。軍権を失った権力者は中国では力がありません。それ以前に習近平は腹心だった李強首相を干す構えに出ましたが、首相は内閣にあたる国務院で独自性を保ち、習近平思想には見向きもしません。
経済が順調でお金が潤沢なら問題なかったでしょうが、第689回「中国を覆う大不況、経済成長どころか縮小必至」で紹介したように悲惨な状況です。公務員ですら給与が滞る現象が全国化しており、これはソ連崩壊とよく似ていると言われるほどです。これほど悪化した状態を「船頭多くして船、山に上る」集団指導体制で乗り切れるとも思えません。
選挙で選ばれていない共産党政府が統治の正当性を主張できたのは、経済発展を継続させて貧富の差はあれど人民の暮らしが良くなっていると思わせたからです。大卒者の就職先も数年前までは何とか確保してきました。今年の状況は普通の会社員から出稼ぎ者、公務員まで給与支払いが滞り、給与カットやリストラで中間層がローン返済に苦しんで外食や消費を節約し、1100万人を超す新規大卒者の半分が職に就けない――共産主義の独善にとらわれて外資撤退を加速させた上に、経済政策通を欠いている習近平指導部に解決策が見えるはずがありません。
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