第686回「中国の虚構:売れ先無いマンション莫大に所有」
奈落に落ちる不動産業界を蘇生させないと経済全体がもたないと中国政府が気付いたようで、「抜本的な」対策を打ち出しました。新築住宅市場の大量在庫を地方政府が買い取り、手ごろな価格の住宅に変換して低所得層や初めて住宅を求める若年層に買ってもらう――住宅は投資対象ではないとする習近平主席の意に沿った政策に見えます。しかし、都市住民が投資用に莫大な数のマンションを所有している現実があり、上海や北京の大都市でも中古マンションは売りに出しても売れないのです。700万戸とかの新築在庫を減らせたとしても、過去にGDPの3割を担った不動産業界が再び活性化するのは不可能です。その背後には2億戸、3億戸あるいは4億戸の投資用マンションが存在するからです。日中GDP推移と不動産バブルによる積み上がりを摸式図にしたのでご覧ください。
中国の都市住民家庭の96%は少なくとも一つの家を持っています。投資用マンションはどれくらい存在するのか、正確な数字は不明ながらロイターの2023年9月25日付《中国国内の空き家、14億人の人口でも全て埋めるの不可能=元高官》はこう伝えています。
《中国国家統計局の元高官は23日、現在国内にあるマンションの空室や空き家について、中国の人口14億人でさえ全てを埋めることは不可能かもしれないとの見方を示した》《統計局の元高官は中国南部の都市東莞で開かれたフォーラムで「現在どの程度の空き家があるのだろうか。専門家はそれぞれ非常に異なる数字を出しており、最も極端なものは現在の空き家の数が30億人分だと考えている」と述べ、「この推計値は多少多過ぎるかもしれないが、14億人では恐らく埋められないだろう」と説明した》
夫婦と子供と3人で住むなら4億戸で12億人分になります。
中国の人口14億人のうち都市戸籍を持つのが6億人、農村戸籍が8億人です。農村からは3億人が農民工として都市に働きに出ていますが、収入は非常に低くて都市で家を持つなど夢のまた夢です。それでも2016年のロイター《焦点:農民工は「空き家」買うか、中国不動産対策の成否》によると、空き家の最終需要者に農民工がなってくれないかと考えた経緯があります。
《中国政府首脳は、今年、出稼ぎ労働者による都市部の住宅購入・賃貸利用を支援しデベロッパーに価格引き下げを促すなど、不動産在庫の解消に向けた努力を拡大すると述べている。関係当局が目標とするのは、2020年までに出稼ぎ労働者1億人を都市部に定住させることだ。中小都市の幹部は、農村出身者に対する恒久的な居住資格「戸口(戸籍登録)」の付与を拡大することを約束しているが、社会福祉制度の利用については未解決だ》
しかし、バブルはひどくなって値段はつり上がる一方、農民工のことなど見向きもされません。投資用マンションは増産されて今日に至ります。都市住民にとって不動産投資が一番の財産保全手段だったのが、バブルがはじけた後ではマンションが売れないので息子の海外留学費用が出せなくなったとBBCが報じたり、老後の介護費用が消えてしまったと嘆く報道もあります。
17日に中国政府が発表した不動産政策は《中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入・人民銀も声明》で読めます。
《中国政府は17日、総合的な不動産支援策を発表した。地方政府が一部のマンションを買い取ることを認めるほか、住宅ローン規制を緩和する。未完成住宅の建設を進める方針も示した。何立峰副首相は同日、住宅政策に関するオンライン会議で、手頃な価格の住宅を提供するため、地方政府当局が「妥当な」価格で一部の住宅を購入することを認めると述べた。新華社が伝えた》
具体的な方策はまだ不詳ですが、何立峰副首相が昨年9月に手頃な価格の住宅の計画と建設に関するテレビ会議で述べた内容が以下で読めます。《何立峰氏は現場の状況を分析し、重要な信号を発した》(中国語)
手頃な価格の住宅は「住宅困難や低所得の給与所得者層や政府の人材紹介を中心に監督・監査を強化し、資本保証・低利の原則に基づいて配分を行う」とされており、手頃な価格の住宅取得者が売って利益を得たり出来ないようにします。
これはやはり余っている新築住宅を安く買い上げる政策で、莫大に存在する投資用マンションは眼中にありません。中国には固定資産税制度が無いので、中国政府もおそらく実態を把握できていないでしょう。年間の婚姻数は700万件くらいですから、これが住宅購入の実需です。これも少子化で減っていきますから半世紀かけても3億戸に届きません。実需の範囲に縮小した不動産開発がこじんまりと生き延び、莫大な投資用マンションは数千兆円分にもなるのに永久に塩漬けが今後の姿と考えられます。ローンを設定して購入した都市住民はたまらないでしょう。
【中国関連の記事】
第683回「急速高齢化の脅威に、中国指導部は無策傍観」
第674回「中国大卒就職難は中国政府の大勘違いから」
第624回「14億人中国の暗雲:男女人口大差と年金使い込み」
第602回「中国の労働人口、今後は1億、2億と減る衝撃」
《中国国家統計局の元高官は23日、現在国内にあるマンションの空室や空き家について、中国の人口14億人でさえ全てを埋めることは不可能かもしれないとの見方を示した》《統計局の元高官は中国南部の都市東莞で開かれたフォーラムで「現在どの程度の空き家があるのだろうか。専門家はそれぞれ非常に異なる数字を出しており、最も極端なものは現在の空き家の数が30億人分だと考えている」と述べ、「この推計値は多少多過ぎるかもしれないが、14億人では恐らく埋められないだろう」と説明した》
夫婦と子供と3人で住むなら4億戸で12億人分になります。
中国の人口14億人のうち都市戸籍を持つのが6億人、農村戸籍が8億人です。農村からは3億人が農民工として都市に働きに出ていますが、収入は非常に低くて都市で家を持つなど夢のまた夢です。それでも2016年のロイター《焦点:農民工は「空き家」買うか、中国不動産対策の成否》によると、空き家の最終需要者に農民工がなってくれないかと考えた経緯があります。
《中国政府首脳は、今年、出稼ぎ労働者による都市部の住宅購入・賃貸利用を支援しデベロッパーに価格引き下げを促すなど、不動産在庫の解消に向けた努力を拡大すると述べている。関係当局が目標とするのは、2020年までに出稼ぎ労働者1億人を都市部に定住させることだ。中小都市の幹部は、農村出身者に対する恒久的な居住資格「戸口(戸籍登録)」の付与を拡大することを約束しているが、社会福祉制度の利用については未解決だ》
しかし、バブルはひどくなって値段はつり上がる一方、農民工のことなど見向きもされません。投資用マンションは増産されて今日に至ります。都市住民にとって不動産投資が一番の財産保全手段だったのが、バブルがはじけた後ではマンションが売れないので息子の海外留学費用が出せなくなったとBBCが報じたり、老後の介護費用が消えてしまったと嘆く報道もあります。
17日に中国政府が発表した不動産政策は《中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入・人民銀も声明》で読めます。
《中国政府は17日、総合的な不動産支援策を発表した。地方政府が一部のマンションを買い取ることを認めるほか、住宅ローン規制を緩和する。未完成住宅の建設を進める方針も示した。何立峰副首相は同日、住宅政策に関するオンライン会議で、手頃な価格の住宅を提供するため、地方政府当局が「妥当な」価格で一部の住宅を購入することを認めると述べた。新華社が伝えた》
具体的な方策はまだ不詳ですが、何立峰副首相が昨年9月に手頃な価格の住宅の計画と建設に関するテレビ会議で述べた内容が以下で読めます。《何立峰氏は現場の状況を分析し、重要な信号を発した》(中国語)
手頃な価格の住宅は「住宅困難や低所得の給与所得者層や政府の人材紹介を中心に監督・監査を強化し、資本保証・低利の原則に基づいて配分を行う」とされており、手頃な価格の住宅取得者が売って利益を得たり出来ないようにします。
これはやはり余っている新築住宅を安く買い上げる政策で、莫大に存在する投資用マンションは眼中にありません。中国には固定資産税制度が無いので、中国政府もおそらく実態を把握できていないでしょう。年間の婚姻数は700万件くらいですから、これが住宅購入の実需です。これも少子化で減っていきますから半世紀かけても3億戸に届きません。実需の範囲に縮小した不動産開発がこじんまりと生き延び、莫大な投資用マンションは数千兆円分にもなるのに永久に塩漬けが今後の姿と考えられます。ローンを設定して購入した都市住民はたまらないでしょう。
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