団藤保晴の
「インターネットで読み解く!」

第50回「読者に応えて臓器移植法・心と食」 (98/05/21)

 2回目の読者交流として、待望だったはずの臓器移植法施行から半年余を経ても1例の手術も行なえない臓器移植の問題と、前回の第49回「性差の科学と環境ホルモン」をきっかけに、もう少し視界を広げて、心や行動と物質の関係を考えてみたいと思います。

◆臓器移植体制は幻想をふりまくだけ

 都内で会社を経営されている50歳の方から、疑問を解いて欲しいとのメールを頂戴しました。「前々から臓器移植について関心がありました。それは臓器移植そのものではなく、諸外国で何十年も前から行なわれている移植手術が何故日本ではなかなか受け入れられないかということです。法律は成立しましたが予想したとおり何ヵ月たっても1例も実施されていません。何処に外国と違いがあるのでしょうか?」。

 「移植を受ける側についてはあまり違いは無いようで、せっせと外国に行って手術を受けているようです。それではドナー側の事情でしょうか。はたまた医師又は医療機関の問題でしょうか。東大系の革新系医師団は臓器移植に反対しているようですが、イデオロギーの問題でしょうか」。「やはり日本人の宗教観に行き着くのでしょうか。たしかに日本人は特定の宗教を信じていません。流行やブランドには一斉になびくのにどうして宗教は多様なのでしょうか。これも不思議なことです」。

 臓器移植問題について、これまでに第8回「臓器移植法と脳死・移植の行方」と第33回「宗教者が直面している死そして生」とで、問題点に触れています。

 第8回でも分析しましたが、厳格なドナーカードの事前記入を前提に脳死判定をするのである限り、どんなにうまくしても年間に10例程度のドナーしか現われないのです。計算はこうです。1年間で脳死になる患者は全国で3,000例くらいです。ドナーカードの配布が末端でどこまで進んでいるのか分かりませんが、移植学会が望んでいる300万はとても無理です。半分の150万くらいにみましょうか。帝京大の調査によると、ドナーカード所持者の6割に記入ミスがあるとされています。有効なカードは多くて4割の60万に減ります。脳死になっても高齢だったり、病気があったりして臓器提供に適さない例も相当あるとみなければなりません。人口1億2,000万人に対して有効なドナーになれる人の割合は0.3%くらいとなり、年間3,000例の0.3%、つまり10人くらいしか出てこないのです。

 しかも、ドナーカードをいつも身につけているとは限りません。机などに入れている人もいるでしょう。とっさの時に、肉親の生死に気を取られている家族が、気付いてくれるでしょうか。今回の臓器移植法のような、厳格なドナーカードを要求していない欧米では、移植コーディネーターがそうした救急医療現場に入り込んで、家族の気持ちを誘導する仕事をします。国内では完全なドナーカードの提示が前提ですから、その余地はありません。

 どんなにうまくしても年間10例くらいしか出ないドナーに依存する医療が、果たして通常の医療なのでしょうか。提供者が出ない現状を問う市民公開シンポジウム「臓器移植法施行半年を迎えて」が開かれたり、マスコミでも取り上げられました。しかし、根本的な枠組みの作り方に失敗しているのですから、移植を望む患者さんに、これ以上の幻想をふりまく方が罪作りだと思います。第33回に登場する、キリスト者である救急医の言葉を借りれば「私達は長く議論を続けた末に、つまらないものを作った」のです。

 脳死移植に批判的な「医療を考える会」などは、医療現場で臓器提供へ圧力がかかることを心配していますが、杞憂に終わるかもしれません。マスメディアは移植第1例目がどこであるか、の報道合戦にばかり目を向けていて、ドナーカードの改善策などしか話題にしていません。

 どうしてこんな不具合な法律になってしまったのか。医者に生死の判断を任せきれないと思う人が多数いる。端的に言えば、日本の医療が信頼されていないから、という点に最後は落ち着くでしょう。宗教観というより死生観ですね。

◆心と物質との関係、特に母性

 性差の科学について取り上げた第49回に対しては「とても、すごいと思いました。感動しました。これからも、がんばってください」(〜10代、その他)と、珍しく10代の方(ひょっとして10歳以下?)からコメントをいただきました。脳に関するちょっとばかり難しい話だったと思いますが、前々から環境ホルモンについて、あのような角度で見る必要があると感じてきました。リンクを張らせていただいた大学教員の方からは「団藤さんご指摘の“脳”、そして“こころ”」、「体は男でも、心が自分は女だと思ったら(その逆も含めて)、いったいどうなのでしょう。そのことも、性転換手術などの関係で今大きな問題になっていますね。同じように、生と死も分類不可能ですが」「社会の中ではどこかで線を引かないといけないのが厄介です。日本人の大多数は、そういう訓練を受けていないような気がします」と、先に取り上げた脳死問題もおさえた発言がありました。

 この12日には「埼玉医大倫理委が性転換手術を承認、国内初の手術へ」といったニュースも飛び込んできました。男性になりたいと考えている、この女性の脳が、どんな構造になっているのか。男性型の脳である可能性は十分あるでしょう。関心のある方は「性同一性障害」も参照してください。

 心や行動が、私たちの思っている以上に物質的な根拠を持つことに、注目していただきたいと思います。そこで、かつて私が「心のデザイン」で書いた脳内物質のシリーズから、母性行動について紹介してみます。

 処女ネズミのそばに、生まれたばかりの赤ちゃんネズミを置いて、1週間近くいっしょにすると、母性本能に目覚め、体を丸め赤ちゃんを抱きかかえるようになります。この不思議な行動の秘密は、1979年に米国で解き明かされました。脳の視床下部で造られているホルモン、オキシトシンを処女ネズミの脳に注入してやると、46%のネズミが2時間以内に完全に「母親化」し、あらかじめ女性ホルモンで発情させておけば、その割合は85%にも増えました。「オキシトシン」は出産のための子宮収縮や射乳の作用があるホルモンで、脳内では母性行動をとらせる作用もしていたのです。

 オキシトシンには構造がよく似たバソプレシンという兄弟分があります。こちらは血圧上昇などの作用をします。このふたつのホルモンは、下等な動物の「バソトシン」というホルモンから、ほ乳類に進化する際に分化したと見られています。バソトシンも鳥類などで輸卵管の収縮などの作用をします。

 興味深いことに、バソプレシンは記憶を良くする、物覚えがよくなる働きをするのに対して、オキシトシンは記憶を作ることを阻むのです。さらに、オキシトシンは一度できた記憶を思い出させる作用が強いらしいことも分かってきました。わき目もふらずに子育てに専念し、子のためには少々の危険や困難も厭わない母親の愛情。その裏側を示唆していると思われませんか。そして、母乳で育てることが母性を強化していることも。

 インターネット上で、この話題を紹介しているページとして、「可愛いはずなのに愛せないと悩む母親たち」を挙げておきます。このセクションは、今月10日の母の日にちなんで全てのお母さんに捧げたいと思います。

◆食用油脂がもたらす影響

 第44回「子供たちの新しい『荒れ』」について、環境ホルモンによる可能性を指摘されていた方から、「この前の今の子供の『キレる』という行動に関しての記事に対して、私が書いた『環境ホルモンによる感情への影響』が実際に起こっているということが、立花隆氏の講演記録から確認することができました。また、(特に?)男の子に対しての心のケアの必要性を、子育てや教育の現場が持つことの重要性を改めて感じました」(30代、専門・技術職)とのコメントがありました。

 これについては、環境ホルモンにも可能性があるという程度にしか申し上げられないのですが、環境ホルモン以外に、食生活の変化で摂取の仕方が変わり、体や心への影響がほぼ明確になっている食品があります。それは油脂です。

 「リノール酸系植物油…とり過ぎ『よくない』」は「成人病予防の脂質(脂肪)栄養指針として、日本ではベニバナ油などに多く含まれる『リノール酸系植物油』の摂取が長年勧められてきたが、日本脂質栄養学会(会長、奥山治美・名古屋市立大薬学部教授)が、これに待ったをかけた。リノール酸のとり過ぎは、がんや高コレステロール血症・動脈硬化、アレルギー発症などにむしろ良くないというもので、“リノール酸信仰”の食卓事情に讐鐘を鳴らしている」と伝えています。

 「食生活を変えませんか」が読みやすい表現ですから引用してみます。油脂・脂肪には「動物性脂肪(肉、牛乳、卵、砂糖など)」「植物性脂肪(紅花油、月見草油、コーン油などリノール酸系列という)」「魚介類の脂肪(イワシ、サンマ、マグロ、シソ油などαリノレン酸系列)」があります。「リノール酸はコレステロールを低下させる作用があるといわれ、健康食品のように考えられ、紅花油が市場に出回っています。また家庭での料理が炒めものや揚げ物が中心になり、さらにスナック菓子や、ファーストフード(ハンバーガーやフライドチキンなど)が増え、植物油の使用量が急激に食生活の中で増加しており、リノール酸の摂取比はαリノレン酸の6倍以上となっています」

 「最近、リノール酸のとりすぎが問題となる病気がいくつか報告されるようになりました。動物実験ではリノール酸の豊富な食事をすすめるとアレルギー疾患が起こりやすくなるという報告」。「さらに、リノール酸を中心にした食事を与えたネズミとαリノレン酸を中心とした食事を与えたネズミの比較では、記憶力や学習能力に明らかな差が出るという報告もみられます。逆にαリノレン酸の豊富な食事を与えると皮膚がきれいになり、アレルギー疾患も減少しました。αリノレン酸は代謝されてEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)になります。特にDHAは胎児や新生児の脳細胞の発達には欠かせないものであり、老人のボケ予防にも効果があることが解ってきました」。

 日本脂質栄養学会は、リノール酸系の摂取比をαリノレン酸系の2倍までに落とすよう求めています。「オイルバランス食品」には日本人と米国人の血液中で調べた両者の比が載っています。農村の日本人が「2.7」なのに都市の日本人は「3.8」、日系米国人は「11.3」、米国人は「16.3」にのぼります。

 「脳の健康にDHA」が伝える「英国や米国で行われた研究」「によると人口の10%が失読症にかかっており、うち4%がかなり重症だということです。DHAを補った結果、読む力とその行動にかなりの改善が見られたことが、その後、予備的に発表されました」という話も荒唐無稽とは言えないようです。脳の成分の10%くらいはDHAだそうです。

 行動への影響には富山医科薬科大の実験があります。植物油のカプセルを3ヵ月与えていた学生は、進級試験によるストレスがかかると「攻撃性」が高まったのに、DHAカプセルを与えていた学生には、行動に変化が見られなかったと言います。

 貧しかったころの日本人の食生活の方が、いいバランスだったことは確かです。このバランスの変動が心にも響いているのではと、数年前に取材して以来、考えたりもします。



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