時評「ネットで伝わる力と検索エンジン」

 実際はドン・キホーテのごとき無駄な努力かも知れない。第145回「大学改革は最悪のスタートに」その英訳版を公開した5月半ばから10日ほど、暇を見ては広く内外にアナウンスしている。肝心の自分のメールマガジンでの詳しい告知が遅れ気味になって今日に至った。かつて「津波アクセス」と名付けたテキスト系ニュースサイトの大動員力は知っていても、ニュースサイト運営者の皆さんにお願いするには、あまりに堅いネタと自覚しているので、ここは極力少数に自制。主に大学や教育関係者に見ていただくことを主体にアピールしてみた。良質のメールマガジンなどにも紹介をお願いした。国内の大学関係者や英訳版を読まれた海外からの反響が届くのを見つつ、ネットで伝えられる力がどれほどか知る実験とも考え、推し量っているところだ。その楽屋裏の話を交えて……。


◆英国からの依頼で始まった

 今回の始まりはこんなことだった。4月中旬に、私の英語版サイト"JapanResearch and Analysis through Internet Information"を見た英国の現代日本研究ジャーナル"electronic journal of contemporaryjapanese studies"の編集長から「大学改革などを discussion paper に書かないか」と誘いがあった。

 連載を始めて7年、大学改革については精力的に議論を重ねてきた。4月の国立大学法人化について私がどう考えているのか、何編かのコラムを併せ読まれれば結論は導けるはずだが、読者の皆さんには不親切な話と気付き、英語論文の原文になるコラムを作り始めた。日本語版は簡単に出来たが、英訳は四苦八苦だった。私の英語ボキャブラリーでは無理と悟って、粗翻訳を専門家の手に委ねた。ネットで見つけて依頼した「和文英訳サービス」の仕事は予想以上の仕上がりで、感謝の意味をこめて紹介したい。

 後はジャーナル編集長とメールのやり取り。なぜか、論文の中に元々は無かった参照リンクを貼り付ける「インターネットで読み解く!」方式に発展した。最後にはお願いもしなかったサービスを先方が提供してくれた。冒頭に私のサイトのアドレスが日英両方の表記で埋め込まれていた。

 本文の中身で触れている大学評価学会などからは好意的に迎えてたいただいたし、色々なウェブで取り上げられている。大学関係者が多く集まる「黒木の掲示板」など教育関係のところにアナウンスするたびに来訪者が多数あった。注目は有力なテキスト系ニュースサイトの「かーずSP 」で、同サイトは1日15000人のアクセスがある中、初日に12%の1800人が「大 学改革は最悪のスタートに」の見出しだけに反応して読みに来られた。第128回「ニュースサイトが生む津波アクセス」で話題にした「音楽産業は自滅の道を転がる」に対しては10%程度と見積もったので、今回の反応はそれ以上である。軟派系の話題を好むテキスト系ニュースサイトの読者にも、十分なニュース性があった点が心強い。


◆検索エンジンのランク付け

 Googleを中心に検索エンジンの世界は展開している。そこではキーワードを入力したユーザーが出力結果の何番目くらいまではチェックし、残りは捨ててしまうものか、よく話題になる。検索エンジンのランク付けは、サイトを開いて読んでもらっている側には特に気になる。

 google.comで「University Reform」を入れて検索すると約300万件もヒットし、英ジャーナルにある私の英訳版は驚いたことに公開2、3日目から10番目前後を維持している。「University Reform Japan」ならば50万件余りの中で1番か2番だった。ところが、google.co.jpで「大学改革」を引くとやはり50万件余りヒットするが、私のサイトにある日本語版は30位前後に現れたり、順位が知れぬ彼方に消えたりして定まらない。この差は何なのか?

 Googleは元々どれくらい多数、他のウェブからリンクされているか勘案し、優先度が高いと判断されるウェブをリスト上位に置く。その積み重ねで、最近では「有力サイト」を認定して、そこからのリンクなら大きな価値があると重み付け計算をする。英訳版は私のサイトからリンクされているが、日本語版は私のサイトそのものにある、というのが一番の差だと理解した。日本語版はもう少しリンクが増えないと順位が安定しないようである。

 それでも読んでもらいたい場合がある。何か手は無いのか。半ば遊び心でGoogleのアドワーズ広告に手を出してみた。「大学改革」で検索した出力リストの右側に、1クリック7円の料金で広告が出せるのだ。スポンサーになると「大学改革」がどれくらいの頻度で検索されるのかも知り得るメリットがある。

 深夜の時間帯、出だしは1時間数件かなと思ったところで、現在、停止処分になっている。Google アドワーズチームを名乗るところから「広告するサイトには運営者の氏名、電話番号、住所まで明記せよ」と突然、言ってきた。ガイドラインのどこにも書いていない制約を契約時に説明しないのは、常識外れだと思うが、釈明もせず極めて頑なである。物品を売る目的ならともかく、無料でコラムを読んでもらうのには本名を名乗り、メールを確かに受け取れるようにすれば十分と思う。もちろん広告開設時には電話番号、住所は届けてある。こういう不穏な時代だから余分な個人情報は露出させたくないと考える方、アドワーズ広告は考慮に値しない。

 キーワード「学力低下」を検索すると多くの検索エンジンで私の連載第95回「学力低下問題の最深層をえぐる」が1番になり、昨年、集計できた300日間で9000件以上のアクセスがあった。「University Reform」や「大学改革」はどうなるか、10日余りでは見えてこないが、これから世間で問題になるほどに読んでもらえると信じている。国立大学法人化の混乱の中で、何をすべきか明確に示している希少なペーパーだから。現実に起きていることには、教授はそのままにして、助教授・助手だけ任期制にする動きとか、大学の世界全体との整合性が気になる点は多い。それにしても、法人化前に改革反対を唱えていた大学人が沈黙しているのはどうしたことだろう。やはり反対のための反対だったのか。