立命館大産業社会学部 2022春・講義録

専制主義・権威主義、中露の現在と今後

 
《はじめに》

 団藤保晴です。朝日新聞で記事審査委員、科学技術や政治経済などの取材記者をし、公認の副業として1997年からネット上で独自の評論・知的ナビゲーション活動「インターネットで読み解く!」を四半世紀、25年続けています。大学関係では非常勤講師だった関西学院大国際学部での大教室講義録6回分があり、参照していただけます。立命館では2019春学期に《「AI戦略と文系の皆さん」と「中国の個人監視社会」》、2019冬に《福島原発事故と科学力失速に見る政府依存報道》で大教室講義をしています。

 今回は世界を騒然とさせている専制主義・権威主義国の中露両国の現在と今後について、あまり知られていないネットからの情報を生かして考えましょう。その前にネット活用オリエンテーションをします。お仕着せでなく、自分で考え、調べていく上でネット情報はとても有用ですが、ネット利用は検索くらいの方が多く、非常に不十分です。


《ネット活用オリエンテーション》

1)ニュースサイト「ヤフー」「グーグル」

 代表的な二つのニュースサイトには決定的な違いがあります。ヤフーには編集部が存在し、契約メディアから提供されたニュースを分類、重み付け、選別して見せています。一方、グーグルはロボットが各メディアのサイトから勝手にニュースを収集し、ニュースとして提供する画面もロボットが編集しています。的確なニュースバリュー判断はヤフーに分があるかもしれないものの契約していないメディアはそもそも対象外であり、ニュースの網羅性ではグーグルが優ります。

 ヤフーは契約媒体にお金を払っていますが、グーグルは米国流の「フェアユース」の考え方を取りロボットが無断で勝手に集めます。ただし、紳士協定があってロボットに対してサイト所有者が全体または特定ページでコンテンツの収集拒否を宣言することが可能です。実際に多くのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)はロボット収集を拒否しています。従ってグーグル検索でもSNSで話題になった話は出て来ません。



2)消えてしまったホームページの検索

 米国にあるNPO「Internet Archive」が1996年以来、世界中のウェブ6810億ページを蓄積しています。これもフェアユースとして扱われ、日本で同様の企画がありましたが著作権法の下では不可能でした。例としてアップル社(www.apple.com/jp)でiPodやiPhoneが売り出された頃のウェブを呼び出してみましょう。  時系列では《iPodはMac用デジタルオーディオプレーヤーとして2001年10月23日に発表》《iPhoneは2007年1月9日発表、6月29日にアメリカで発売》《MacBook AirはMacworld 2008で2008年1月15日に発表》となっています。iPhonenのタブが現れるのは発売1年後の2008年7月であり、当初は結構苦戦していたことがうかがえます。トヨタやホンダなど自動車メーカーでエポックになった車種の発売時期のウェブを呼び出してみるのも良いでしょう。レポートの作成などで役立てられるはずです。

 また、企業が不祥事を起こして関連するホームページを閉鎖することもよくあります。2007年に科学的知識を装った番組内容捏造が発覚した関西テレビ制作のバラエテイー番組「発掘!あるある大事典」もその一例です。私の第153回「科学をなめている『あるある大事典』捏造」 (2007/01/28)で見せたくなくも消せない過去となった実例として紹介していました。が、検索サイトから昔の事実を削除して欲しいと訴える「忘れられる権利」問題が顕在化して、「Internet Archive」の蓄積データも指定された手順を踏めば削除できるようになりました。現在は「404 NotFound」とエラー表示になりました。



3)便利で膨大な社会データ集のウェブ

 「ひとりシンクタンク」を標榜している「社会実情データ図録」は各種データをグラフ化し、膨大で丹念な更新が特徴です。多種多様な国際ランクから出来た「国際日本データランキング」では多彩な相関分析、国別比較が可能です。

 社会実情データ図録を主宰している本川さんは元は代議士秘書で、国会図書館などから統計データを拾い集めて独自に分析されています。トップページの上の欄にある分野別を開いてみるだけで実に多様な問題意識を持たれているか分かります。例えばキーワード「中国」でサイト内を検索しましょう。「図録 中国の食料消費対世界シェアの推移」「図録 中国人が大問題だと考えていること」「図録 中国とインドの超長期人口推移」「図録 中国の人口ピラミッド」「図録 中国国内の地域格差とその推移(地図等)」「図録 米国・中国・韓国への親近感の推移」などチャーミングなタイトルが並びます。  この中から「図録 中国の食料消費対世界シェアの推移」を開きましょう。人口シェアで世界の2割である中国の巨大な胃袋に、世界の野菜は49.3%、豚肉は45.8%、水産物は34.3%が取り込まれているのです。食品別のシェア推移が描かれています。野菜も豚肉も1980年ごろまでは人口シェアを下回っており、芋類に頼っていました。食の大変革は1978年に改革開放政策が始動した結果であると見て取れます。

 国際日本データランキングは明治大の鈴木さんが主宰しています。前は欧州で教職に就かれていた方で、日本にいると気付きにくい多種多様な統計や社会調査を集めてランキングにまとめています。人口や経済の統計以外に治安、文化、人生などそんな調査があるのかと思えるものが並びます。例えば「スポーツ」の項目を開くだけでも50近い調査があります。

 2つのデータの相関分析が手軽に出来るのも特長です。例えば説明軸のX軸に「国民経済」から「1人当り国民総生産(GDP、米ドル)」、Y軸に「人口・家族」から「都市地域の人口(全人口に占める割合)」をとります。相関係数は0.601ですからかなり高い値です。もしY軸に「自殺、全世代(人口10万人当り)」を設定すれば相関係数は0.151ですから相関は極めて薄いことになります。



4)現在を生きるための過去と未来の年表

 年表と聞くと遠い昔の歴史年表が思い浮かびますが、ネット上では広告大手2社が現在と近接した過去・未来の年表を提供しています。電通による「広告景気年表」と博報堂生活総研による「未来年表」です。

 広告景気年表は広告のクライアントの参考にする目的で作成されており、信頼できる内容です。1945年から昨年まで政治経済、10大ニュース、時の商品・新製品、話題のテレビ番組、流行語、流行歌、映画、ベストセラー、マンガ、ファッションから気象まで揃っています。例えば自分が生まれた頃や小学校に入った頃はどんな年だったのか簡単に調べられます。

 一方、未来年表は「○○年ごろにはこんな事柄が実現する」といったメディアの報道を実現年ごとにまとめ直した年表です。医療、宇宙、環境、資源、社会、情報、人口といった分野別でも括っています。2050年の人口分野をみると「世界に占める東アジアの人口シェアが23.0%へと低下する(2000年は30.0%) 」「イスラム圏の人口(中央アジア、南アジア、西アジア)が約29億人に達し、世界人口の32%を占める」などの項目があります。



5)イメージで世界を知る多彩なサイト

 5千年の世界史を90秒で見せるマップス・オブ・ウオーの「History of Religion」、日常品317種の出来るまでを工場見学「THE MAKING」、世界の美術を細部まで拡大鑑賞「Google Art Project」、世界中の風や雨など気象を詳細に見られる――「Windy」

 ユーチューブなどで玉石混交、色々な動画を見ていると思いますが、知っておいて得する質の高いイメージのサイトを紹介します。History of Religionは世界史の知識があると特に面白く感じられます。アジアをテーマにする授業ですからイスラムが東南アジアに広がった過程にも注目して下さい。THE MAKINGは1998年のマヨネーズから2014年のエレベーターまで、身近にある品物のモノづくりを14分間のビデオにまとめています。Google Art Projectではゴッホの「The Starry Night (星月夜)」を検索して実際に部分拡大して見ましょう。世界中の風や雨など気象を詳細に見られる――「Windy」はチェコの企業が開発したシステムで世界中の気象を見られます。特に日本付近を拡大してみましょう。ロシア、中国、韓国と一衣帯水の関係を実感できるでしょう。  ネットには360度パノラマ写真がありコンテンツが豊富です。富士山頂やエベレスト山頂、ニューヨークの摩天楼、ベルサイユ宮殿、NASA火星探査車などを見てみましょう。マウスで上下左右、自由に操れます。なお、スマホやタブレットは対応していないかもしれません。「panoramas.dk」では、 Curiosity Rover First Colour PanoramaEVEREST 60 YEAR ANNIVERSARYニューヨーク・ビル群ベルサイユ宮殿・鏡の間など。



6)検索デスクや訳語ポップアップ辞書など活用例

 私が調べ物や日常の定点観測の出発点にする「検索デスク」は多様なネットサービスを1ページに網羅したすぐれものです。また機械翻訳が未熟な現在、訳語がポップアップする「POP辞書」は有用で英語以外に中国語、韓国語、スペイン語、ドイツ語も使えます。

 検索デスクは大阪にお住まいの浅井さんが1996年から開設されています。新しネットサービスが加わるたびに拡充しており、調べ物やニュースから買い物、グルメまで何でも揃っています。ネットを使えていると思う人ならば、並ぶ項目の中身が何か言えるくらいに知ってほしいものです。

 ブラウザにグーグル・クロームを使っている方は外国語のページを自動的に翻訳してくれるので機械翻訳の実力がお分かりだと思います。まだまだ未熟であり、きちんと内容を詰めるには英語の辞書が要ると思わせます。POP辞書は訳語の候補がポップアップして見える便利な辞書です。しかも日英だけでなく中国語の文章で英語の訳語を付けてくれるので、中国語のサイトまで詳しく取材できるようになりました。「南中国海」を中国の検索サイト「百度」人民日報中国語版で検索してPOP辞書で読んでみましょう。





====危機の中露ともに成功体験に依存しすぎ====


 《ウクライナ戦争とロシアの未来》

1)2014年東部軍事介入、ウクライナ軍を短期間で蹴散らす勝利

 2008年から開始された軍制改革でロシア陸軍が持つ諸機能を複合・統合した大隊戦術群(battalion tactical group: BTG)が導入されました。BTGの2014年ドンバス紛争への関りについて《ウクライナ侵攻作戦が長期化した原因−ロシア陸軍の『大隊戦術群』に関する考察− 》(海上自衛隊幹部学校戦略研究室 2等海佐 高橋秀行)は次のように述べています。

 《BTG が一躍脚光を浴びたのは、2014年のウクライナ東部ドンバス地方における戦闘である。ロシアは、ウクライナ軍に排除されかけた親ロシア派勢力を保護するため、BTGを投入した。BTGは、戦術的・作戦的な奇襲によってウクライナ軍の大部分を壊滅させた》

 戦争の初期、首都キーウを2、3日で陥落させられるとしていたプーチン大統領の甘い判断の根底に、この勝利体験があったはずです。

「大隊戦術群の編成」(出典:Lester W Graw)
(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69704から)  《2012年11月、セルジューコフ国防相が横領容疑で解任され、ショイグが後任に就くと、旅団内にBTGを導入する方向で動きが本格化した。その中で旅団の中に最大2つのBTGが編成された。BTGは、一般的に700から800人、強化型は 900人の兵員と BMP-3など歩兵戦闘車、T-90など戦車、自走榴弾砲、多連装ロケットランチャー等で構成された》

2)「大隊戦術群」の弱点をNATO側の戦略家は徹底分析

 米軍では旅団戦闘団(brigade combat team:BCT)が諸兵科連合作戦を遂行する機能を持ち、BTGとの戦場対戦を想定して研究が進められました。

 《フィオーレは、2014年のBTGとウクライナ軍の戦闘を分析すると、BTG が火力、電子戦、防空砲において圧倒的な優勢を有しているにもかかわらず、ウクライナ軍に戦術的な敗北を喫するケースが何度かあることに気が付いた。そこから彼は、BTGが有する4点の脆弱性を導き出した》

 1点目は優秀な契約兵は3分の1しかおらず、残りは従軍期間12カ月の徴集兵で練度が低い▽2点目は歩兵が200人程度で不足気味のため起動力を制限、防御が弱い▽3点目は指揮統制の弱点:指揮官が必要な情報収集の部隊は攻撃部隊から選抜され、分散と交代を繰り返すと過負荷になる▽4点目:他のユニットから補充できないため損耗すると迅速回復できない

 ドンバス紛争でのBTG圧勝は親ロシア派民兵の存在が弱点を補った面があり、逆にウクライナ戦争では民間人がドローンを飛ばしてロシア軍の位置情報を軍に通報するなどしました。弱点分析に基づいてウクライナ側は応戦しました。防御の弱さを突く携帯型の対戦車ミサイル、ジャベリンが一躍有名になりました。 3)古い戦法に拘るロシアに対し、NATOが協力し迎え撃ち態勢整う

 2014年の大敗北でウクライナ政府は動揺し、軍の改革を命じてNATOとの協力が始まりました。ウオールストリートジャーナル4月14日付《ウクライナ軍善戦、背景に長年のNATO訓練〜ソ連型の硬直した指揮系統を欧米型にシフト》に詳しく描かれています。

 《NATOと加盟諸国は8年間にわたって毎年、少なくとも1万人のウクライナ兵士を対象に演習や訓練を行った。そうすることよって、苦境にあったウクライナがソ連型の硬直した指揮系統を欧米型にシフトすることを支援した。兵士は作戦行動中に自ら判断を下せるように訓練を受けた》

 《クリシ中尉は、ウクライナ人はソ連式の軍事的な考え方を知っているため、その訓練は二重に効果的だったと述べる。「ロシア人は典型的な戦術を使っている。それはスターリン時代からほとんど変わらない」と指摘し、まず一斉砲撃を行ってから、ロシア兵を大量に投入して、われわれの支配地(陣地)を奪おうとするものだと述べた。それと対照的に、ウクライナ人は予測不可能で機敏だ。「われわれはロシア兵に混乱をもたらす」と同中尉は語った》

 2016年に編成されたウクライナ特殊作戦軍について欧州政治分析センター(CEPA)3月15日付《侵略者を狩る:ウクライナの特殊作戦部隊》(原文英語)が紹介しています。

 ゲリラ戦術や機動的な防衛に優れ陸海7つの特殊作戦連隊に2000人の要員を持ちます。NATOの多国籍訓練に定期的に参加してパートナーシップを確立しています。《「ロシア人を殺す」ように設計された、非常に専門的な軍隊の創設》です。ロシア占領地域での抵抗活動にも力を発揮できます。

4)臆病なロシア軍に対し西側から強力な武器多数供与、戦力拮抗以上

 北の首都戦線から大量のBTGを引き揚げたロシア軍は東部ドンバス地方占領を目指しますが、1日で数キロとか進軍速度は極めて遅くなっています。北部ではベラルーシ国境からの補給ラインが非常に長く延び、燃料や食料すら欠く事態になったために今度は補給部隊と離れない、臆病な動き方です。また、ウクライナ軍は東部に最精鋭部隊を置いてロシア進撃を阻んでいます。

 NATO諸国は膠着打開のため新しい火砲や自爆ドローン、戦車などの供与を急いでいます。《ロシア軍総崩れの可能性も、兵站への無人機攻撃で〜ウクライナ軍に供給された各種無人機の威力と性能》を見ましょう。

 《火砲はもともと曲射弾道であることから、戦車などの目標物を狙うものではなく、地域に展開する歩兵やトラックなどのソフトターゲットを狙って射撃するものである。そのため、移動する戦車には命中させることができないし、戦車の厚い装甲板を貫通することはできない。射撃範囲は、20キロ前後だ。ロシア軍の火砲は、この旧型のものだ》

 《しかし、米・独・仏国が供与する新型の口径155ミリ火砲と砲弾(M982弾)は、新型で、約40〜70キロ先まで射撃することができる。これまでの火砲と異なり誤差が少なく命中精度が良い。CEP(半数必中界)は約5〜20メートルという。GPS誘導機能があるのだ。無人偵察機と連携させれば、ソフトターゲットを効率よく破壊・殺傷することができる。40キロ以内を飛翔する、ミニチュアミサイルと言ってもよいくらいだ》  米国はこの新型榴弾砲を90門も供与します。米軍が所有するうちの20%にもなり、操作する兵の訓練も進行しています。ロシア軍が戦う相手はますます実質米軍という形になっていきます。自衛隊の155ミリ砲の場合で危害半径は38メートルと言われ、非常に強力です。これで精度よく狙われたらたまりません。この他にもポーランドが戦車200両、ドイツが対空戦車、英国は対艦ミサイルとか供与しておりロシア軍を上回る装備になりつつあります。

 従来からあるトルコ製のドローンや自爆型のスイッチブレードに加えて、米軍がウクライナ軍の希望に合わせて短期間で開発した大型自爆ドローンのフェニックス・ゴーストが121機以上提供されると報じられました。国境線のなか全て、クリミア半島や沿岸の黒海艦隊も攻撃対象になり、ロシア軍部隊は戦線から離れているからと安心できなくなります。

 《スイッチブレードよりも大型であることから、その破壊力も大きい。滞空時間は約6時間である。衛星を使用したデーターリンクであれば、スイッチブレード600が40分で飛距離40キロであることから、9倍の約300キロ以上であると推測できる。赤外線センサーにより、夜間にも飛翔できて、目標に突入させることができる。スイッチブレード600の飛距離40キロ以遠の目標を攻撃できる》

5)推移を見た自衛隊の元幹部が今後はロシア不利を予測    4月8日現在の戦況図を掲げていますが、1か月後の現在とほとんど変わりません。元・陸上幕僚副長の渡部悦和氏はJBpress4月13日付《キーウ敗北軍の再構築でさらなる大打撃被るロシア軍〜派兵拒否の精鋭続出、プーチンの戦争に未来はない》で「ロシア軍の規模は小さすぎる」と喝破しています。攻撃側は守る側の3倍は必要との説が昔からあります。

 《問題は、ロシア軍の作戦が、小さすぎるロシア軍に依存していることである。東部で大規模な作戦を展開し、ウクライナの陣地を急速に突破してウクライナの主要都市を奪取するには十分な戦力と新たな戦術・戦法が必要だ。つまり、敗北した部隊を迅速に再編成して補給し、以前の失敗から多くを学び、複雑な作戦を勝利に導く戦術・戦法を採用する必要がある。ロシア軍は、今までこれらすべての点で失敗してきた。ロシア軍はおそらく、東部や南部で大規模な攻撃を成功させる代わりに、作戦開始以来行ってきたように、兵力の維持に苦労し、兵站に苦しむことになる》

 一方、ウクライナ軍は新型兵器がそろい、訓練が仕上がる5月末ごろから反転攻勢をかけたいと考えています。ロシア軍を早く追い出しておかないと、癌細胞のように身体に食い込む恐れを感じています。

6)プーチン後も民主化不可能と米国は強力なロシア弱体化を志向

 団藤のウェブ記事第666回「ロシアをモノ不足で三流農業国に落とす西側」(2022/04/27) を参照します。

7)中国や北朝鮮の軍備は弱いロシア軍の劣化コピーで実戦深刻    4月13日に黒海艦隊旗艦「モスクワ」がウクライナ軍の対艦ミサイルで撃沈させられました。開戦からロシアの応援一色だった中国のネットすずめが真っ青になった瞬間でした。《「モスクワ」の沈没とはどういう意味ですか? 》(原文中国語)に寄せられたコメントで賛同トップは《この戦争を通じて、ロシアの軍事力の衰退は完全に露呈し、核抑止力のみを残した》でした。

 中国や北朝鮮は軍事技術をロシアに依存し、買い取った武器・装備を分解してはコピーして「国産化」としてきました。ご本家の弱さが証明され、コピー品ではなおさら西側との戦闘に耐えられないと考えるしかありません。例えば台湾侵攻の軍艦が地上からの対艦ミサイルで沈むとは悪夢です。



 《オミクロンの袋小路にはまった中国》

1)オミクロン株は一筋縄ではいかない点は世界で証明済み

 人口2500万人の上海で1カ月以上続くロックダウン。5月3日になって254万人が完全封鎖状態、一部緩和としてその他の地区では1世帯1人だけ、最長3時間まで外出して買い物や散歩が許されました。しかし、4日の中国本土における新規市中感染確認者数は360人(上海市261人、北京市42人、河南省14人など)、市中の無症状感染例は4678人(上海市4390人、遼寧省99人、北京市8人など)であり、上海封鎖の全面解除は見通せません。

 団藤のウェブ記事第665回「中国・上海封鎖は住民犠牲多く効いてない」(2022/04/12) を参照します。ロックダウン2週間の時点では、上海と近くに位置し、普通に生活している台湾とほぼ同じ感染増加をたどりました。ロックダウンの弊害の方が新型コロナで生じる被害より大きくなっています。    新型コロナで模範的な防疫をしていた台湾でも感染力が強いオミクロン株の制御は難しく感染急増中ですが、死者は1日数人とわずかで済んでいます。非常に多数の感染を出した欧米が収まってきたのは国民の相当数が感染してしまったからです。米国の場合なら累計の感染者数が人口の25%、CDCの調査では国民の57%がコロナ抗体を持っていました。防疫を放棄した形の国は累計感染者割合が高く、デンマーク54%、韓国34%などです。6.3%しかない日本はあちこちでクラスターが発生しながらもゆっくり収束に向かっていますが、ウィズコロナながらある意味で難しい立ち位置です。

2)新型コロナへの科学的な対応として疑問が多すぎる  

 日経新聞が4月22日付で《中国の感染症研究の第一人者である鍾南山氏が、中国の「ゼロコロナ政策」について「長期的に続けることはできない」と主張する論文を発表した。中国政府はこの政策を堅持する方針で、火消しに追われている。論文は鍾氏が別の専門家と共同で執筆し、中国科学院の英文学術誌で6日に公表された。同政策について「感染者と死者数を最小化するうえで極めて重要な役割を果たした」と評価。一方で「中国は社会・経済発展を正常化し、再開するグローバルの動きに適応するため(国を)再び開放する必要がある」と指摘した》と伝えました。

 《中国の王文濤商務相は18日、日米欧などの経済団体代表と面会し、ゼロコロナ政策を緩和した場合に「中国で1年以内に200万人の死者が出る」との試算を説明した。同政策を継続する方針を示した》中国産ワクチンは古典的なウイルス不活性化タイプで、メッセンジャーRNA型のファイザーなどに比べて効果が低いのも事実ですが、この死者数の計算も香港の状況を取り込んだだけで高齢者の事情が違い、疑問があります。

 PCR検査は100%の確率で白黒を付けるものではありません。どうしても偽陽性や偽陰性が発生します。かつて中国は無症状の感染者は分離して、症状がある感染者だけに集中しており、その限りではゼロコロナは可能でしたが、無症状感染を毎日数千、1万と計上しているのでは偽陽性は避けられません。また、濃厚接触者まで送る隔離施設が杜撰で個室に分離しておらず、国際展示場のような大型施設にベッドを並べています。これでは感染してくださいと言うのも同然で収拾不能です。

3)市民の不満爆発で鉄壁だったネット統制も揺らぐほど

 東京新聞4月24日付《ロックダウンの上海を伝える短編動画「四月之声」 当局が削除も...拡散続く》はこう伝えています。

 《上海市上空からの映像を背景に、インターネット上に残る3月から4月の政府担当者や市民の声を集め、字幕を付けた。「都市封鎖はしない」と3月15日の会見で話す市政府の担当者の言葉から始まる。封鎖した4月以降は背景が白黒に転換。生活必需品を求める市民の怒り、厳しいコロナ対策で重病の父親を病院に連れて行けない男性の嘆き、市民の要求を前に途方に暮れる地区の共産党幹部ら、強権的な「ゼロコロナ」政策に翻弄ほんろうされる市民の差し迫った肉声が記録されている》

 【四月之声 (4月の声)】日本語訳版(6分)

 22日に通信アプリ「微信」に現れて大量転載、拡散されました。違法として削除されたものの、当局の検閲網をかいくぐるために映像だけ別物にした音声などで粘り強く流通していました。封鎖に絶望しての飛び降り自殺がどれほどになるのか知れませんし、公式に報告されているコロナ死者数以外にも多数の死者が出ているようで、上海の火葬場はフル回転しても足りない状況との情報があります。

4)ロックダウン影響を隠蔽して経済好調とする中国政府統計

 上海は中国経済の根幹です。オランダの銀行が「上海でのロックダウンが4月中続けば経済損失は上海全体のGDPの6%、中国全体のGDPの2%に相当する」と予測しました。しかし、政府統計に実態が反映されずに、隠蔽されてしまいそうです。現代ビジネス5月4日付《中国政府発表の「作られた経済指標」をいよいよ無視できなくなってきた理由》は、4月に先立つ1-3月期のGDP成長率が《大半のエコノミストの予測を大きく上回り、「4.8%」となった。これに対してウォール・ストリート・ジャーナルは、ロックダウンによって工場が閉鎖され、何千万人という人々が自宅に閉じ込められながら、中国の第1四半期の経済成長が加速していると、やや皮肉にも取れる内容を報じた》と言っています。

 《こうした厳しい経済環境の中で、中国共産党の習近平総書記は、2022年の経済成長率でアメリカを上回ることを求めているのである。習総書記は、アメリカは政治的にも経済的にも衰退していて、共産党による一党独裁体制が欧米の自由民主主義に代わる優れた選択肢だということを示さなければならないと考えている。つまり、そうしたメッセージを発することが、政治的に絶対に必要だというのである。習総書記に逆らうことが許されない中国の国内事情を考慮すると、今後も、これまで以上に露骨に「数字を作る」ことになるのだろう》

5)ゼロコロナは3期目目指す習近平の希少な政治業績だった

 上久保誠人・立命館大教授が《中国のゼロコロナ固執で露呈した、「習近平国家主席は絶対正しい」の限界》で権威主義の中露に共通した袋小路の現状を指摘しています。

 《権威主義的体制では、指導者の政策の間違いを正すには、政権を倒す体制変革、最悪の場合武力による革命が必要になる。重要なことは、そのとき、多くの人々の生活や生命が犠牲になってしまうことなのだ。欧米や日本の自由民主主義体制ならば、指導者の政策の間違いを修正するのは、それほど難しいものではない。基本的に情報がオープンであることを通じて国民は指導者の間違いを知ることができるからだ》

 絶対権威の指導者が間違っていたとは口が裂けても言えません。官僚腐敗叩き以外に、これといった実績はゼロコロナだけだった習近平。主席3期目へ台湾併合実現で権威付けがささやかれていましたが、到底不可能になった今、守らねばならぬ希少な業績です。

 《現在、ウクライナ侵攻の停戦協議が進まず泥沼化している。それは、突き詰めればロシア・プーチン大統領が「戦争遂行に失敗した」という形では、戦争を終えられないからだ。失敗を認めることは、プーチン政権の権威と正統性を失わせることになるのだ。中国の新型コロナ対策も、習主席の「ゼロコロナ」政策が誤っていたという形には絶対にできない。だから、「ゼロコロナ」政策が正しかったという形を作るまで、政策を転換することができない。中国は、習主席の無謬性という「権威」を守るために、政策を変えることができず、身動きが取れなくなってしまっているということなのだ》


 ※注1:新型コロナデータサイト
 ※注2:Our World in Data COVID-19