第687回「中国GDP統計は現実逃避、習近平忖度で集計値無視」

 中国経済運営の今後を決める共産党第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)が閉幕し、市場に任せぬ国家主導が継続される点が明確になりました。同時に発表された第二四半期GDP統計を分析すれば、習近平主席への忖度が著しい歪曲を招いており、破局に向かっている現実から逃避しています。昨年の同時期発表データと比較して全体の「4.7%」成長が「4.1%」でしかないのは第一四半期同様に過去値を勝手に下げているからでしょうが、第一次、二次、三次産業分野の発表値と計算値の乖離は微差ではなく、荒唐無稽と申し上げざるを得ません。注目分野の製造業、金融業、不動産業も酷すぎます。合わせてグラフ化したのでご覧ください。  習近平主席の新質生産力提唱に合わせて製造業が6.2%も伸びているとの発表ながら、前年比での計算値はわずか1.7%増加です。第二次産業全体の伸びも発表値5.6%が実際は3.2%しかありません。第一次、二次、三次産業分野の集計が異常なのかと言えば、中国各地で春以降続いている大規模洪水で一次産業が大打撃を受けており、深センなどの製造業中心地で工場が続々閉鎖と報じられ二次産業も大きな痛手です。逆にお金を節約する国内旅行の好調ぶりが伝えられており、三次産業が伸びる結果もおかしくありません。

 5月の第686回「中国の虚構:売れ先無いマンション莫大に所有」で伝えたように、中産階級の資産で核になる不動産の価値が揺らいでいます。金融業界が儲ける住宅ローンの構造が破綻しかけており、今年に入って大手銀行や地方銀行の支店が大量に閉鎖になっています。銀行員の給料が激減し、転職しようにも次の職が無くて出来ない有様です。住宅ローンが払えない顧客には物件を競売しても売れないので「当面、4分の1の支払い」継続を依頼する事態と伝えられています。金融業界の「マイナス0.7%」がその表れであり「4.3%」成長などとんでもありません。不動産業界の「マイナス4.6%」発表も実際は桁が違う減速と思われています。

 データ集計から計算した各分野の値はそれほど違和感が無いのに、それぞれの発表値は異常に見えます。鉛筆をなめて勝手に数字を盛ったと考えざるを得ません。こんな現実離れした発表値を基に、まともな経済運営が出来ようはずがありません。中国指導部の経済音痴ぶりが極まっています。

 第二四半期GDP統計の詳細は、中国国家統計局ウェブでURL、2024年分2023年分をご参照ください。

 寝そべり族が流行語になった中国の若者、経済の墜落でますます追い込まれています。新規雇用を多く生むのは圧倒的に民間企業なのに、国有企業主導の国進民退路線を変えない、市場に任せないのでは若者に就く職が出来ません。「デイリー新潮」7月18日付《中国経済はバブル崩壊時の日本よりはるかに酷い…長期低迷で「親ガチャ」化する社会は政情不安につながる》がこう伝えています。

 《バブル崩壊後の日本ではしわ寄せが若者たちに集中したことから、大量の「就職氷河期世代」が生まれた。その負の遺産は今も解消できずにいる。中国の現下の情勢は、当時の日本よりはるかにひどいと言わざるを得ない。今年の新卒大学生の内定率(4月中旬時点)は前年比2.4ポイント減の48%だ。このことは新卒生の過半数が卒業と同時に失業するリスクに直面することを意味する》

 昨年4月の第674回「中国大卒就職難は中国政府の大勘違いから」などで注目して、昨年までは中国の検索サイト「百度」で就職難についての様々な書き込みを探せました。現在はここ数年の書き込みがばっさり消えた状態です。就職難についてネットでも情報共有できない、愚痴も言えないところまでネット検閲が縛り上げています。

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