特集F1「核心曖昧な事故調報告は安全基準再建に障害」
福島原発事故をめぐる公的な二つの事故調査委員会が相次いで最終報告を公表したのに、事態は解決に向けて進むどころか、最も必要な原発の安全基準再建を始めとした諸課題がますます混迷しそうです。時間に余裕があった政府事故調が津波による電源喪失を主因としつつも全容解明を放棄した点に大きな責任があります。6カ月余りと短期決戦だった国会事故調も、政府事故調と違って地震による損傷も原因と推定をした割に根拠が不足しています。全電源喪失で3基の原子炉が炉心溶融する大規模事故に見合う事故調査態勢だったのかがそもそも疑問で、当該分野の原子力学会が全く協力する姿勢を見せない異常さもあります。政府中枢を巻き込む「原子力ムラ」が事故責任を問われないよう、曖昧な決着を望んだ疑い濃厚ですが、原発再稼働には逆効果になりそうです。
政府事故調の釈明はこうです。「当委員会は現地調査における困難性や時間的制約等の下で、可能な限りの事実の調査・検証を行ってきたが、それらの制約のため、福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所、その程度、時間的経緯を始めとする全体的な損傷状況の詳細、放射性物質の漏出経緯、原子炉建屋爆発の原因等について、いまだに解明できていない点も存在する。より早い段階で1号機及び3号機の減圧、代替注水を実施していた場合に原子炉建屋の爆発を防止し得たか否かについても、現段階で評価することは困難である」
現地に入れないなら、津波か地震か主因が判然としないなら、シミュレーションによる事故の再現作業がなおのこと必要だったと言えます。地震による機器損傷の疑いはNHKスペシャルでも取り上げられていて、耐震レベルが低い機器が事故の収束に重要な機能を担っている可能性があります。(「再稼働へ警鐘:Nスペが過酷事故欠陥を実証」)
大飯原発の再稼働で野田政権は新安全基準は暫定であり、本格的な安全基準は秋に発足する原子力規制委員会が策定するとしました。新安全基準は過酷事故対策が欠如しているのに、過酷事故は起きない前提にした福島事故以前の考え方で再稼働を強行しました。しかし、福島事故で起きた長期の全電源喪失、それに伴う過酷事故への移行について事故調報告は、東電に全く備えがなかった点を明白にしています。命綱の安全装置停止と核燃料の損傷開始以降、福島第一原発3基の炉心溶融ストーリーは違っており、福島第二原発で事態収拾に成功した手法も加えると、検証すべき事故事象の幅は広大です。
本来、このような事故事象を扱ってきた旧・原研のスタッフを入れないで、聞き取り調査を中心に据えた事故調査をしたことが間違っていたと考えられます。「過酷事故は起きない前提」にして現在は簡単な運転マニュアルで済ませてきました。過酷事故を前提にすると事故推移経路は複雑多岐になります。単独の事故か、複数基の同時事故かでも外部支援を含めて対策が違ってきます。どのような事故対処マニュアルを用意させるべきか、各原発ごとに特性も違います。統一した安全基準を作るのはかなりの力業になるでしょう。
これとは別に「福島の事故原因が究明されなければ原発再稼働はしない」と主張している新潟県知事の了解を得るのにも、両事故調報告の食い違いは不都合です。両報告ともに多数の提言をしているものの、事故の核心的な原因を確定して、それを防ぐ再発防止決定策はありません。これも非常に物足りない印象を与える理由です。
【参照】「事故調が責任問わぬ始末では信頼回復は難しい」
「国会事故調は主因を津波に限らず、地震で損傷も」
「原因は語らず懸命努力説明ばかり東電事故報告」
「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」
「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」
「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」
インターネットで読み解く!「福島原発事故」関連エントリー
政府事故調の釈明はこうです。「当委員会は現地調査における困難性や時間的制約等の下で、可能な限りの事実の調査・検証を行ってきたが、それらの制約のため、福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所、その程度、時間的経緯を始めとする全体的な損傷状況の詳細、放射性物質の漏出経緯、原子炉建屋爆発の原因等について、いまだに解明できていない点も存在する。より早い段階で1号機及び3号機の減圧、代替注水を実施していた場合に原子炉建屋の爆発を防止し得たか否かについても、現段階で評価することは困難である」
現地に入れないなら、津波か地震か主因が判然としないなら、シミュレーションによる事故の再現作業がなおのこと必要だったと言えます。地震による機器損傷の疑いはNHKスペシャルでも取り上げられていて、耐震レベルが低い機器が事故の収束に重要な機能を担っている可能性があります。(「再稼働へ警鐘:Nスペが過酷事故欠陥を実証」)
大飯原発の再稼働で野田政権は新安全基準は暫定であり、本格的な安全基準は秋に発足する原子力規制委員会が策定するとしました。新安全基準は過酷事故対策が欠如しているのに、過酷事故は起きない前提にした福島事故以前の考え方で再稼働を強行しました。しかし、福島事故で起きた長期の全電源喪失、それに伴う過酷事故への移行について事故調報告は、東電に全く備えがなかった点を明白にしています。命綱の安全装置停止と核燃料の損傷開始以降、福島第一原発3基の炉心溶融ストーリーは違っており、福島第二原発で事態収拾に成功した手法も加えると、検証すべき事故事象の幅は広大です。
本来、このような事故事象を扱ってきた旧・原研のスタッフを入れないで、聞き取り調査を中心に据えた事故調査をしたことが間違っていたと考えられます。「過酷事故は起きない前提」にして現在は簡単な運転マニュアルで済ませてきました。過酷事故を前提にすると事故推移経路は複雑多岐になります。単独の事故か、複数基の同時事故かでも外部支援を含めて対策が違ってきます。どのような事故対処マニュアルを用意させるべきか、各原発ごとに特性も違います。統一した安全基準を作るのはかなりの力業になるでしょう。
これとは別に「福島の事故原因が究明されなければ原発再稼働はしない」と主張している新潟県知事の了解を得るのにも、両事故調報告の食い違いは不都合です。両報告ともに多数の提言をしているものの、事故の核心的な原因を確定して、それを防ぐ再発防止決定策はありません。これも非常に物足りない印象を与える理由です。
【参照】「事故調が責任問わぬ始末では信頼回復は難しい」
「国会事故調は主因を津波に限らず、地震で損傷も」
「原因は語らず懸命努力説明ばかり東電事故報告」
「福島事故責任は誰にあるか、判明事実から究明」
「恐ろしいほどのプロ精神欠如:福島原発事故調報告」
「2、3号機救えた:福島原発事故の米報告解読」
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