第693回「トランプ関税戦争は脅しだけ構造改変戦略無し」
【クリスマス商品の罠】世界中に高関税の喧嘩を売りながらも90日間猶予で一息つかせ、中国だけに145%が残った点で中国包囲の戦略的勝利とも賞賛されたトランプ関税戦争が早々に中国と妥協してしまいました。米中共に115%関税を引き下げる合意であり、中国がWTO加入時に約束した様々な自由化を実現させて国家体制を揺さぶる本質的な構造改変問題は先送りになりました。145%を半年でも継続出来れば屋台骨を揺さぶれたのに出来なかった隠れた事情があります。米国は中国から年に6800億円規模のクリスマス商品を買っており、通常は4月に発注して秋にかけ続々と米国に届くのですが、今年は米国のバイヤーが発注を諦めました。このままならトランプが支持基盤にしている低所得のキリスト教徒層が、他国から調達するために2倍にも高騰したクリスマス商品に憤慨する事態が起きるところでした。5月発注でもかなりの中国商品が間に合うでしょう。
それにしてもトランプ大統領の評判は悪いです。かつては支援側にいたウオールストリートジャーナルの編集委員会による13日付《トランプ関税の大撤回》も散々な言い方です。
《トランプ大統領の解放記念日関税ほど、経済政策がこれほどまでに堅実かつ迅速に、しかもトランプ氏自身の手によって否定されたことは稀だ。月曜日の朝、中国への制裁関税の縮小で合意したことを目の当たりにしてほしい。これは1週間足らずで2度目の大きな後退だ。これは経済の現実とアメリカの繁栄にとっての勝利だ》
このまま行けば米国側は差し迫った物不足に直面して店舗の棚から商品が消えるまで1、2カ月でしたし、中国側は新たに1000万人、2000万人の大量失業者を抱えるところでした。
関税戦争に耐えるのは中国の方との従来からの見方があり、中国メディアによって宣伝されていますが、10年前ならともかく、不動産バブルがはじけ、習近平指導部の失政で様変わりした経済の現状では危ういと考えます。昨年11月の第689回「中国を覆う大不況、経済成長どころか縮小必至」でこう指摘しました。
《社会の行き詰まり感や社会不安を引き起こしている要因に若者の大量失業があります。毎年1000万人を超える新規大卒者が出るのに、近年は半数は就職できない有り様です。若者の就職予備軍が2000万人から3000万人と膨張していくのは恐ろしい状況です。就職先を多数つくる民営企業を圧迫して、国営企業を優遇する「国進民退」路線の習近平・中国指導部には打つ手がありません》
この新規大卒者の就職率が30%台でしかないと最近は伝えられています。今年も1200万人の新規卒業者が出て800万人が行き場が無いとすれば、昨年までで3000万人超の就職予備軍が合わせて4000万人にも膨れ上がります。
就職できても公務員までも給与支払遅延が常態化し、労働債権保護が制度化されていない中国では倒産企業が半年分も給与未払いにして逃亡、各地で抗議行動が頻発しています。地方政府は労働者救済に入るより警官隊動員による社会秩序維持に躍起です。また、マンション価格の暴落は止め処が無くなっており、資産がマンションだった中間層が実質的に消えつつあります。食にも困る若者は消費できないし、かつての中間層も財布のひもを固く締めたままです。
トランプ大統領は習近平主席とトップ同士で話したら何とかなると安易に思っているようですが、火の車になっている中国にフリーハンドは乏しいのです。習近平主席の退任が遠くないと観測されています。
関連記事---第691回「独裁米ロ中で世界仕切れる:トランプの大誤認」(2025/01/17)
【中国関連の記事】
時評「習近平は独裁者の地位失い、共産党は集団指導に」(2024/12/17)
第686回「中国の虚構:売れ先無いマンション莫大に所有」(2024/05/20)
第683回「急速高齢化の脅威に、中国指導部は無策傍観」(2024/01/25)
第674回「中国大卒就職難は中国政府の大勘違いから」
第624回「14億人中国の暗雲:男女人口大差と年金使い込み」
第602回「中国の労働人口、今後は1億、2億と減る衝撃」
それにしてもトランプ大統領の評判は悪いです。かつては支援側にいたウオールストリートジャーナルの編集委員会による13日付《トランプ関税の大撤回》も散々な言い方です。
《トランプ大統領の解放記念日関税ほど、経済政策がこれほどまでに堅実かつ迅速に、しかもトランプ氏自身の手によって否定されたことは稀だ。月曜日の朝、中国への制裁関税の縮小で合意したことを目の当たりにしてほしい。これは1週間足らずで2度目の大きな後退だ。これは経済の現実とアメリカの繁栄にとっての勝利だ》
このまま行けば米国側は差し迫った物不足に直面して店舗の棚から商品が消えるまで1、2カ月でしたし、中国側は新たに1000万人、2000万人の大量失業者を抱えるところでした。
関税戦争に耐えるのは中国の方との従来からの見方があり、中国メディアによって宣伝されていますが、10年前ならともかく、不動産バブルがはじけ、習近平指導部の失政で様変わりした経済の現状では危ういと考えます。昨年11月の第689回「中国を覆う大不況、経済成長どころか縮小必至」でこう指摘しました。
《社会の行き詰まり感や社会不安を引き起こしている要因に若者の大量失業があります。毎年1000万人を超える新規大卒者が出るのに、近年は半数は就職できない有り様です。若者の就職予備軍が2000万人から3000万人と膨張していくのは恐ろしい状況です。就職先を多数つくる民営企業を圧迫して、国営企業を優遇する「国進民退」路線の習近平・中国指導部には打つ手がありません》
この新規大卒者の就職率が30%台でしかないと最近は伝えられています。今年も1200万人の新規卒業者が出て800万人が行き場が無いとすれば、昨年までで3000万人超の就職予備軍が合わせて4000万人にも膨れ上がります。
就職できても公務員までも給与支払遅延が常態化し、労働債権保護が制度化されていない中国では倒産企業が半年分も給与未払いにして逃亡、各地で抗議行動が頻発しています。地方政府は労働者救済に入るより警官隊動員による社会秩序維持に躍起です。また、マンション価格の暴落は止め処が無くなっており、資産がマンションだった中間層が実質的に消えつつあります。食にも困る若者は消費できないし、かつての中間層も財布のひもを固く締めたままです。
トランプ大統領は習近平主席とトップ同士で話したら何とかなると安易に思っているようですが、火の車になっている中国にフリーハンドは乏しいのです。習近平主席の退任が遠くないと観測されています。
関連記事---第691回「独裁米ロ中で世界仕切れる:トランプの大誤認」(2025/01/17)
【中国関連の記事】
時評「習近平は独裁者の地位失い、共産党は集団指導に」(2024/12/17)
第686回「中国の虚構:売れ先無いマンション莫大に所有」(2024/05/20)
第683回「急速高齢化の脅威に、中国指導部は無策傍観」(2024/01/25)
第674回「中国大卒就職難は中国政府の大勘違いから」
第624回「14億人中国の暗雲:男女人口大差と年金使い込み」
第602回「中国の労働人口、今後は1億、2億と減る衝撃」