特集「2002年閲覧数調査と海外からの声」
◆津波アクセス組が強いが累積組も強い
インデックスや分野別入り口ページなどを含まぬ、純粋のコラムだけで年間の閲覧数は80万を超えていた。ベスト30を一覧表にし、以下に掲げる。なお、1位の第118回は津波アクセスがピークだった当初2日間のデータが失われていて、それを暫定で2日間で4万件としたが、記憶ではもっと大きい。
第118回に続いて第127回「音楽産業は自滅の道を転がる」や第128回「ニュースサイトが生む津波アクセス」など2002年作品が上位を占める。しかし、ベスト10に第95回「学力低下問題の最深層をえぐる」の外、読者共作2「ポスドク1万人計画と科学技術立国」や、今でも、いや今だからこそ印象鮮烈な第1回「空前の生涯独身時代」が食い込んでいる。時代の関心事がどこにあるのか示していると思う。
少し下がって、第104回「再生医療周辺と生命倫理を考える」や第53回「明治維新(上)志士達の夢と官僚国家」、それに第29回「過労死と働くことの意味」、第68回「日本の自動車産業が開いた禁断」などは、主に「Google」を経由して、たくさんの方が継続的に来られ利用されている。
読者動向の全体像をつかめるよう、コラムごとの閲覧数一覧を棒グラフにしてウェブに掲示した。関心がある方は見て欲しい。公開直後の勢いが失われているはずの2001年分コラムの分厚さは、出来立ての2002年分に迫るほどで驚く。さらに2000年以前にも読者の皆さんの目が向いていて、コンスタントに利用されていることが見てとれる。
◆体験に根ざした海外からのコメント
俗に傍目八目と言う。小さな碁盤の側でさえこうだから、海を越えて海外に出ている方の目はもっと遠くを見ていて面白い。この1年間に読者の皆さんからいただいた主な声は「読者の声」掲示板に掲示してある。その中で今回は、海外で様々な立場で活動されている方6人からの投書を抜粋して読んでいただく。日本の現状と対比したとき、スポットライトが当てられている事柄の重さ、いま進んでいる国内の見当違いの改革の危うさを思わずにいられない。私の問題意識と共鳴するところが多い投書である。
●「奨学金とベンチャー」
第114回「大学と小泉改革:担い手不在の不幸」と第115回「続・大学と小泉改革:悲惨な予感」へのAさんからの感想を読んだ
「貧乏を恥じている奨学生の親」より
>私の先輩にも奨学金で4(大学)+2(大学院)を暮らし
>あと数年借金が続く方がいます。数百万の借金を抱えて社
>会に出た人間が、ベンチャー企業を起こせますか?
>失敗すれば即刻、社会的な抹殺ですよね。
>アメリカとの根源的な新規事業立ち上げ能力、リスク負担
>能力の差はここにあるのではないでしょうか。ベンチャー
>企業を起こせる人間が奨学金の支給人数分だけ減るわけ
>ですから。
「米国生まれの子供が、現在米国公立大学のトップの評価の大学に、4年間の学費および寮費(食費+部屋代)ともに返す必要の無い奨学金をもらい(ただし入学後も一定の成績以上が条件)在学中です」
「我が家の場合、親に甲斐性が無いため、子供は、学資ローンを借り、大学へ行くとなり、Aさん言われるところの『先輩』の生活を余儀なくされるとなり、ベンチャーを立ち上げるということは、そうでない場合に比べてはなはだ困難となるといえるでしょう」「アメリカでも、学資ローンを借りた場合、子供の話では、当地で教わった高校の先生(もちろんアメリカ人)の例ですが、
30代半ばまで、大学時代の学資ローンを支払っていたとのことです」
「子供が全くの丸抱えで大学に行けるようになると知ったとき、これで親子ともども助かるという気持ちよりも、実際に支給されるまで、なぜこんなに多く貰えるのかという、その金額への疑心暗鬼の気持ちと、また、なぜアメリカはこれほどまでに手厚い奨学金を出すのかという疑問が先行しました。後者の疑問については今まで続いていました。それが、Aさんの『奨学金とベンチャー』を読み、このことが100%正解といわないまでも(正解を知らないため)、アメリカにあっては、少なくとも『解の近傍』といえるのではないかというところまで、この疑問が氷解しました」
「奨学金とは、将来、それ以上の貢献を社会になしてもらいたいという社会の期待です。従って、日米とも、奨学金は、学業成績が優秀な人に与えるという基本は同じと思います」「アメリカにあっては、親が大金持ちであって、基本的には、授業料分の奨学金は、貰えるとのことですが、生活費分は貰えないとのことです。もし、親が貧乏な場合は、授業料分の奨学金に加え、一定の条件を満たすと、それに加えて、生活費までも与えられます」
「米国といえども、子供の高校の先生のように30代半ばまで学資ローンの支払いということがあれば、やはりベンチャー立ち上げの気力は、全てとは言わないまでも、かなり削がれることでしょう」「大学4年間の学費ローンがなければ、ベンチャーを立ち上げようという気持ちにもなりやすいと思います。こう理解すると、アメリカの奨学金制度が、生活費を含む奨学金をだすということは、アメリカ経済の活力維持の観点からも解の近傍的に納得できるものです」
「日本でも、そのベンチャーの立ち上げを容易にするために、学業成績、リーダーシップ、シチズンシップの3条件を満たす貧しい家庭の高校生、人数的には日本全体の国立大学の新大学1年生のうち500人位をめどに、大学4年間の生計費を含む学費を全額無返済給付し、もし10年以内に、ベンチャーの立ち上げをしない場合は、社会奉仕500〜1000時間を義務として課すということでよいと思います」「特に、研究者の卵の大学院生については、以上の3条件を満たせば無条件に与えるとし、そうしたための基金として出されるお金は、個人、団体、企業を問わず税控除とすべきでしょう」
●「日本は学費タダ取りという感じ」
第117回「いつまで手直し主義で逃げるのか」へYさんから
「私は夫の転勤のためアメリカにおり、娘はアメリカの高校に通っております。おっしゃるようにアメリカの教育は、鈍才を労働力に育てるのに適した教育のように感じます」「ほとんど毎日、各科目で行われる小テスト。そしてそれが期末試験の結果とともに、成績に反映されます。毎日、手を抜く暇がありません。もっとも必修のみ単位を揃えて、あとは楽な科目(芸術や職業科目等)をとるということもできますが、ちゃんとしたアカデミックな科目を取る限り大変な毎日です。お陰で娘は円形脱毛症になってしまいました」
「上の娘は日本の公立進学校に進みましたが、もっと楽な授業でした。とりあえず居眠っていても座っていればいいのですから。こういうやり方は大学でも、日米それぞれ、同じようです」
「実は私はコミュニティカレッジへ行っているのですが、そこのレベルの低い授業でさえ、毎回、テキスト何ページかと、先生の手渡す記事を5つくらい読んでいって、内容理解を試す小テストです」
「アメリカの学校は学生のレベルを上げるところという教育機関の役割を十分認識し、それを果たそうとしています。ところが日本の大学は学生の自主性に任されたまま。自主的に勉強する学生は、それで良いのでしょうが、学費タダ取りという感じもいたします」
「これでは日本はとうていアメリカに追いつけません。基本的なところからガタが来ることでしょう。おおかたの凡人のレベルを、そのまま引き上げることをしないでおくのなら」
●「米の研究制度は明らかに優位」
第115回「続・大学と小泉改革:悲惨な予感」へTさんから
「私は医学部を卒業した医師で学位を持ってアメリカで臨床研究をしています。何かの本で読んだのですが二つの勢力がぶつかったときには制度が整った方が勝ちやすいと言う法則があったと思います。アメリカの研究制度は日本より明らかに優れており日本は負けてしまうと感じました」
1:終身研究員になるのが困難です。つまり多くの研究者は期間限定の一時雇いなので成果が出なければそこでお払い箱です
2:アメリカの研究室は何年かに一度監査がありそこでの評価が悪いとその研究室は閉鎖されます。その場合終身研究員といえども実質的に退職に追い込まれます
3:下からの評価が行われます。ノーベル賞受賞者が講演してもそれを聞いた学生がその講演を評価します。授業を学生が評価することもあるようです
4:研究費の配分が日本より公平です
5:企業からお金を得て研究することが日本より容易です
6:大学の場合その大学以外の卒業生が教授になる機会が日本より遙かに多い
「公平性と競争原理がアメリカの学問を向上させています。日本の医学部の場合教授が『よし』と言えば日本語の論文でも医学博士取得が可能です。その日本語の論文もその大学が出す日本語雑誌に投稿すれば落ちることはまずありません。自然科学の学位は一定以上の格のある英語雑誌に掲載されることが必要と考えます。英語の問題もあります。国際学会で役に立つあるいは外国で働く場合に役に立つ英語能力を持った者が高得点をとることのできる試験にすべきです。私は大学の英語入試は現状の物を全て廃止してTOEFLの得点で行うべきと考えています」
●「上海に来て毎日が充実」
第113回「中国との明日をどう考えるか」へ上海のUさんから
「上海駐在の27歳 会社員です。トレーなどの包材メーカーに勤めています」「『外国には日本企業のホワイトカラーはむしろ異質と感じられている』という部分に非常に共感いたします。かつての好景気の時はその異質さが逆に持てはやされていたと思います。その異質さが繁栄を呼びこんだ部分もあるのでしょうが、ただ単に順番が来たと感じてしまいます」
「弊社はバブルを知った世代と、その後の世代で大きく考え方が違います。過去の成功がなかなか離れず当時のやり方にこだわり傷口を広げてしまう上司。先人の苦労を理解せず今の悲惨な状況を40代50代の人達や政治家ののせいにして何も前進しない若者。こんな状況が現在の日本の一番の問題点だと思います」
「僕は上海に来て、今燃えるような勢いのなかで仕事をすることが出来非常に毎日が充実しています。様々なトラブルが起きますが苦になりません。これは僕自身の実力や能力の問題ではなく、全て回りの環境だと感じます。実際、日本で営業をしていた頃は芽も出ない退屈な毎日を過ごしていました」
「上述しました心の問題を解決するにはどうすればいいのか?僕はまず若い人が立ち上がるしかないと思います。それを一番啓発する力があるのはテレビをはじめとするマスコミではないでしょうか。もっと考えさせる、夢を持てる内容にするべきだと思います。早朝から深夜にかけてくだらない番組を延々と垂れ流す現状を改善すべきと思います」
「もっとがんばれニッポン!! そんな気持ちで海外で頑張っている日本人はたくさんいます。中国では、中国だけには負けたくない、と皆必死で働いてます」
●「そんな日本をうらやましがる中国人」
第113回「中国との明日をどう考えるか」へTSさんから
「はじめましてNew Zealandにワーキングホリデービザで滞在しているTSと申します。MSNの記事を読ませていただき、中国への考え方が変わっただけでなく、何か負けてたまるか!という気持ちになりました。ありがとうございます。このたびはNew Zealandで私が感じている中国人事情についてお話したくて、メールさせていただきました」
「私はここNew Zealandに来る前に人件費の安い中国=発展途上と思っていました。大学でも中国経済を勉強し、中国経済が年7%の成長を続けていることも知ってましたが、まさかここまで中国人の世界進出が進んでいるとは思ってもみませんでした」
「New Zealand中の英会話学校は中国人学生でいっぱいです。彼らはNewZealandで英語を学んだ後、帰国子女として中国の大学に特待入学したり、欧米の大学に進学することを目指しています。また、町では中国人経営のMotelや商店がならび、New Zealandで一番と言われているFish and Chips(NZの定番ファーストフード)ショップは、なんと中国人経営です!もとから世界中に広まっている華人コネクションをバックボーンにして、彼らはどこの国でも比較的容易にビジネスを始めているようです」
「最も私が驚いたのは中国人旅行者の多さです。New Zealandは観光産業が盛んで、欧米をはじめ、世界各国の人々がNew Zealandを訪れます。その中で中国人観光客の数は年々増加傾向のようです。彼らは観光施設に大型バスで大勢押し寄せ、片言の英語で買い物などを楽しんでいます。かつて日本人観光客がそうであったように。今でも彼ら一人当たりが観光に使う金額は、アメリカ人、日本人に比べ半分以下のらしいですが、近いうちNew Zealandの一番のお客さんは中国人になるでしょうし、New Zealand企業もそう睨んでいます」
「人数、活躍ともに他を圧倒する中国人たち。でもそんな彼らと話していて不思議に思うことがあります。彼らにとって最もうらやましく、目標とする国民はやっぱり我々日本人なんです。近所に住んでいる北京出身の奥さんや、留学生と話すと、よく日本はすごい!日本はすごい!と日本製の工業製品を指差し、感嘆します。それだけでなく、私が以前日本でプログラマとして働いていたと言うと、すばらしい!きっと高級取りだったに違いないとか、ソニーで働いていたのかなど質問攻めにあう始末です。6畳一間のアパートで暮らしていたなんて恥ずかしくてとても言えませんでした」
「今やNew Zealandのどの町でも石を投げれば中国人に当たる状況です。一方日本人パワーは年々衰え、New Zealand人ももはや日本人観光客をあてにしてません。でもそんな日本をうらやましがる中国人。日本にいたらこの不思議な事情を知ることはなかったでしょう。これからも大和魂を忘れずに、『中国人に負けない!』を旨に頑張って生きて行こうと思います」
●「日本での大学院生活との差に愕然」
読者共作2「ポスドク1万人計画と科学技術立国」へIさんから
「大学での教授の横暴、経済的制度的支援制度の貧弱さ」「受け入れ口のないこと、まさにその通りなので、笑ってしまいました…」「私は人文系ですが、都内の某国立美術系大学院の修士を出ているので、育英会の借金もちゃんと負っています。現在フランスに留学中ですが、日本での大学院生活との差に愕然とする毎日です」
「フランスで目に付くのは、学生一般とりわけエリート学生優遇制度です。フランスでは、高校卒業資格者が行く大学と、コンクールで選ばれたエリートが行くグランゼコールといわれる特殊上級学校の2系統があります」
「私は今グラン・ゼコールに在学しているため、授業料は無料(大学では年に2万円程度の登録料のみ)。国籍を問わず学生に与えられる住居補助が月に1140フラン。フランス政府給費留学生として奨学金4900フラン、プラス住居補助が830フラン。しめて7000フラン、大卒初任給よりすこし安い程度が給費。フランス人の同級生は8500フラン程度の月給をもらっています」
「豊富にある研修や見学に出向くときなどは、交通費食費などが全支給されます。ただ、グランゼコールの学生はすでに高級公務員としての将来が決まっているので別格として、大学で文科系の博士をとっても就職が難しいのは、フランスも同じだと聞いています。理科系は知りません」
「教育内容は直接比べることは難しくはありますが」「これほど密度の濃いカリキュラムは日本では受けたことがないし、聞いたこともありません。文化的環境は日本とは比較にならないくらいリッチだし…」「こんな恵まれた条件で教育を受けたフランスのエリートに、日本のエリートがかなうのだろうか?」